表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/215

71



「まさかダンジョンの収納鞄を見ることが出来るとは思いませんでした」


 クロフトさんからそう言われてしまった。


 是非見せて欲しいと言われて手渡したら、ものすごく真剣に観察していて色々質問もされた。一応正直に答えたよ。取り上げるとか横暴なことはしない人だと思ったしね。


 エミール君も「次は私に見せて下さい」って興奮してて、ちょっと年相応に見えて可愛かった。


 あとマドレーヌはもちろん大好評。アルク天才。



 さて、最初から話の腰を折ってしまったけど、クロフトさんのお話の続きだ。


「こほん、では。中央領の門で事故があり、運搬が困難な者達の荷物を一時的に預かることになりました。役人の中には感知能力や精査能力を持つ者などがいるのですが、この時預かった荷物を倉庫で検査したところ、ひとつの箱の中身がまったく分からないと報告がありました。感知は生体反応や特定の何かを探すことに長けた能力で、精査は箱の中の物の形などを見ることが出来る能力です」


 生体反応って、人が隠れてないかとかかな。密入国とか誘拐、あとは禁止されてる生物の持ち込みとか? 精査はエックス線みたいな感じかな。空港の税関みたいだよね。


「実際はすべての荷物を検査することは非常に難しく、通常は事前に提出される書類と照らし合わせて、荷物が積まれた状態で違法な物が含まれていないかを確認します。一部は箱を開けて目視しますが、そのままでも能力を使用すれば中身の形状の確認は可能です。もちろん個人で能力差はありますが、現在中央領に勤めている検査官は皆優秀なので、見逃すことは極めて少ないと考えられています」


 うーん、ちょっと思ったんだけど、これって収納の力を使ったらどうなんだろう。何でも持ち込めちゃうよね?


「それは犯罪です。見つかれば極刑となります」


 あ、そうですか。


 えっとですね、ちゃんと対応策はあるらしいです。あと収納の力を持っていれば高収入の職に就けることが約束されているので、わざわざ犯罪者になる人はいないらしい。


「その箱はまったく中身が感知できず、何も入っていないと最初は考えられました。表面の細かな彫刻などを見て、箱自体が商品であると考えたのです。ですが、検査官は箱に鍵が掛けられていることに気付きました。中身が入っていないのに鍵をかける必要があるのか? そう疑問に思って再度検査したり、他の検査官を呼びましたが、結局何も分かりませんでした。鍵を壊すことも検討されましたが箱を傷つける恐れがあり、最終的に持ち主を呼び出して開けさせることになりました。しかし、ここで想定外の事件が起きました。翌日、この箱が倉庫から消えてしまったのです」


 盗まれたってこと?


「はい、前代未聞の事態です。急いで持ち主を呼び出しましたが、箱については何も知らず、金を渡されて運んだだけだと言います。依頼人や運び先も調べましたが、すべてがでたらめでした。

 事件が起きたことで箱の中身への疑惑は深まりました。何が入っていたのか、何が領内に運び込まれようとしていたのか。そこで浮かんだのが例の薬です。証明はできませんが、その頃を境に薬の流通量が徐々に減っていったことからも有力視されています。しかし、そうであれば尚更、箱の行方が問題になりました。

 正直な所、倉庫が領外にあったこともあり、警備はそれほど厳重ではありませんでした。だからと言って盗まれるなどあってはならないことですが、箱が領内へ持ち込まれたとは考えにくいというのが我々の考えです」


 ふーん、箱はどこにいったんだろうね。これまでに何度もその箱で薬が運び込まれていた可能性はあるし、今回は偶然発覚したけど、そうでなければ今でも見つからずに密輸が続けられていたってことも考えられる訳だ。

 

「箱の色や形状、大きさなど、詳細な記録はありませんでした。箱を検査した数人の検査官の記憶だけを頼りに捜索は続けられましたが、かなり難航することになりました。しかし、時間はかかりましたが、有力な情報を得てイーガンの所有する箱に行き当たったのです。

 しかし、イーガンは認めませんでした。行方の分からなくなった箱は自分の物とは別物であると言い、事件との関係を否定したのです。ならば箱を見せて欲しいと頼みましたが、それは拒否されました。イーガンの権力は強く、捜査を強硬するならそれなりの覚悟が必要です。しかし、それが出来るほどの確証もなく、我々はそれ以上追及を続けることが出来ませんでした」


 持ってないとは言わないんだな、と思ったんだけど、貴族の資産はちゃんと記録が残されるものらしくごまかすのは難しいと判断したのだろうとクロフトさんは言っていた。盗まれたっていうのも家の恥になるらしいから、プライドが高いと大変だね。


「イーガンの箱については、先代の話を聞いたという者やオークションの記録からダンジョンのアイテムであること、色は黒く、表面には彫刻が施され、大きさは女性一人が入れるほど。宝を隠すのに適した機能、入れたものが感知できなくなることなどが分かりました。まさしく目撃された箱に当てはまりますが、しかしそれだけで事件の箱と同一だと証明は出来ません。他にも箱があるのだろうと言われればそれまでです」


 まあダンジョンの箱がそんなにいくつもあるとは考えられないそうだけど、断言は出来なかったんだね。なんとも歯がゆい。


「しかし捜査は続けられました。イーガンから離れ、箱を運ぶよう依頼した人物の捜索が続けられたのですが、実は荷馬車はメルドラン、我が領地からのものでした。中央領から協力依頼があり、私はこの時になって初めて事件のことを知ったのです。密輸入に関わる犯罪に我が領の者が関わっているなど考えたくはありませんでしたが、ことは重大です。慎重に、内密に捜査を続け、私達は遂に一人の男に辿り着きました」


 おお、なんか刑事ものとかのドラマみたい。


「それがバートン・バイスです」


 あ、あのニールさんに嫌がらせした人だ。なんかちょっとだけ近付いてきた、のかな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ