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 クロフトさんの背後から現れたロイさんは、私に向かってひらひらと手を振っていた。


 相変わらず緊張感のない人だなぁって思ったんだけど、ロイさんの後から兵士が数人入ってきたのでちょっとびっくり。何事だろうと思っていたら、クロフトさんが命令を出した。


「ルーチェ・イーガンを連行しなさい」


 先程のエミール君の言葉に不機嫌最高潮だった彼女なんだけど、「何故私が!」と言ってものすごく抵抗してた。それはまあ、いきなり捕まえられたら暴れるよね。


 だけどやっぱりこの人、昨日の犯人の関係者ってことでいいのかな。


 尚も暴れて「触らないで、お父様が黙っていないわよ! エミール様助けてっ!!」なんて叫んでいたルーチェだけど、所詮はか弱いお嬢様。兵士に引きずられるようにして連れていかれてしまった。もちろんエミール君はまったく助けようとはしなかった。


 侍女さん達はオロオロしながら兵士に付いて行き、扉が閉まっても、しばらくルーチェの叫び声が響いていた。うーん。



 やっと静かになったところで私達はクロフトさんと簡単に挨拶を交わし、彼の提案でこのままここでお話をすることになった。


「すみません、今少々立て込んでおりまして」


 そういうクロフトさんは少しお疲れ気味な様子だった。


 あとロイさん。一応ね、昨日のことは素直にゴメンナサイしておきました。そうしたら、「いえ、あなたを危険な目に合わせたのは事実ですから」そう言って許してくれた。


 ロイさんは私を危険な目に合わせたってことは認めるんだね、ふうん。


「それに、だいぶ手加減して頂いたみたいですし」


 アルクはね、ちゃんと殺傷能力低めで吹き飛ばしたらしい。かすり傷が少しだけということで体に異常はないそうだし、アルクは私のことを良く分かってるみたいだ。


 さて、やっと落ち着いて話し合い開始だ。とはいっても、結局昨日の事件はどういうことだったのか、私はそれを知りたかったのでまずその説明を求めた。誘拐された本人として聞く権利はあるよね?


 クロフトさんは頷いて、話が少し長くなるからとお茶の用意がされたんだけど、その後は侍女や護衛は全員下がらせて人払いがされた。


「そもそも、ことの発端は中央領で禁止薬物が見つかったことからです。詳細は省きますが、調べるとすでに少なくない量が流通していることが分かり、薬による死者が出ていることも報告されました。陛下は事態を重く見て、ただちに薬の回収や流通経路の割り出しを命じられました。そしてこの件に関わった人物として、ある貴族の名前が浮上しました。それがバイロン・イーガンです」


 あれ、私の誘拐事件の話じゃなかったっけって思った。しかもすごく大きな話になってるし。あとイーガンって、さっき聞いたような気がする。


「バイロン・イーガンは先ほどのルーチェ・イーガンの父親です。彼は中央領の高位貴族で政府の重鎮です。昔から黒い噂はありましたが、長年強い権力を振るってきた人物です。彼の名前があがったことは驚きでしたが、彼の所有する“あるモノ”が犯罪に使われた可能性が浮上したのです」


 あるモノ? 何だろう。


「“箱”です」


 箱? んー、あ、もしかしてあれかな、私が入れられたあの黒いやつ。何か特別な物だったんだろうか。


「はい、ダンジョンアイテムとされています。イーガンの先代の当主が手に入れたもので、当時はダンジョン産のアイテムを持つことが貴族間で流行っていましたから、周囲にも自慢していたそうです。現在は箱の存在は表に出ていませんでしたが、調査の結果、イーガンが今も箱を所有していることは確認できました」


 ふーん、ダンジョンアイテム。収納鞄もだけど、アイテムって誰が用意した物なんだろうね。ダンジョンって一体何なんだろう。


「箱に注目が集まったのには理由があります。他領から中央領への輸出入は厳しく取り締まられていて、多くの役人によって検査が行われています。ある時、中央領の門で事故が起きました。馬が突然暴れ出したのです。蜂か何かに驚いたようなのですが、入領の為に並んでいた列に馬が突進し、荷馬車が何台も巻き込まれて横転するなど大騒ぎになりました。そしてこの時、馬車が壊れたり馬が怪我をするなどして荷を運ぶことが困難な者達が出た為、兵が出て一時的に荷物を預かることになりました。その中にあの箱があったのです」


 ふーむ。まだ誘拐事件とどう繋がるかよく分からない。


 とりあえずクロフトさんがお茶を口にしたので、なんとなく私も飲んでみる。周りを見たらみんな同じようにお茶を飲み始めたけど、お茶菓子いります?


「ほお、菓子ですか。あなたのもたらす食事や菓子はとても美味しいと聞いたことがあります。もしよろしければ、私もご相伴に預かりたいものです」


 ニコニコと笑顔のクロフトさん。え、誰に聞いたんですかね、それ。気になるけどお菓子は出してもいいってことかな。


 実はね、いざという時の賄賂にアルクのマドレーヌを持参しておりました。うん、まあ賄賂とかあまり褒められないかもだけど、保険だよ保険。甘い物とか美味しい物を食べたら気持ちが優しくなるかな~なんて。


 扉で出すのは人目が気になるなと思って収納鞄で持ってきた。で、さっそくテーブルに出したんだけど、収納鞄って出し入れが独特なんだよね。ひゅんってお皿に盛ったマドレーヌが出てきたから、クロフトさんとエミール君、ロイさんはめちゃめちゃ驚いていた。あれ、マリウスさんとマリーエさんも?


 そう言えば貴重品なんだよね、これ。ダンジョン産だし。


 あれ……もしかしてまずかった?



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