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 えっと、少々ハプニングもあったけど、なんとか収拾もついてガイルの家に戻ってきた。


 あの後、兵士が駆けつけてきて二人が倒した犯人達は連行されていった。ロイさんはいつの間にかいなくなっていたようなんだけど、大丈夫だったかなぁ。


 余裕そうなロイさんについイラっとして「いじめられた」発言をしたことは……うん反省してます。無事でいてくれるといいんだけど。



 事情聴取とかその辺のことは後日ということで、私達はすぐに解放してもらえた。それというのも兵士と一緒にあのエミール君も現場に来ていたんだよね。


 なんかね、「メルドラン領内で、賢者様の血縁者に対してこのような暴挙を許すとはっ!」って随分ご立腹でいらっしゃいました。会場は貴族の方も多いし、王族まで来ているから警備はそれなりに厳重だったらしいんだけど、まんまとその隙を付かれて私は誘拐されてしまった訳だ。


 エミール君は私に対してひたすら謝罪してきて困ったけど、「早く休ませたい」というアルクの言葉ですぐに帰ることが出来た。


 アルクはね、「リカを危険な目に合わせた。怖い思いをさせてすまない」ってずっと言ってるし、マリーエさんからの謝罪がも凄かったんだけど、二人を責めることはできない。だって私が罠にはまらなければ、ちゃんと給仕係のいる個室でお昼を食べていれば、そもそも私がコンテストに行きたいって言わなければとか、言い出したらきりがないんだけど、私の落ち度が多すぎる。


 だからあの時のロイさんの言葉もあるし、今後の対策を考えるのを手伝って欲しいと思う。だけどそう言ったらマリーエさんは泣きそうな顔で「護衛としてあるまじき失態を犯しました。今後はもうリカ様の護衛は続けられないでしょう」って。


 いやそれは困る。やっと親しくなり始めたところだよ。マリーエさんの真面目な性格とか、ちょっと思い込みは激しいけど優しいところとか、意外と気遣いさんだったりする所とか、あとはお酒が好きで飲むと笑い上戸になる所とか、私はマリーエさん好きだよ? 護衛が付くならマリーエさんがいい。


 彼女は明日、エミール君に呼び出されているそうだ。私には別の護衛が用意されるとも言っていた。マリーエさんはマリウスさんの指示で私の護衛になったけど、ガイルの町長よりメルドラン領主候補の方が権限は上らしく、彼の一言で任は解かれてしまうそうだ。しかも処罰もありえるってことだったから、それはなんとしても阻止しないといけない。


 あんまりエミール君には会いたくないけど、明日は私も一緒に行こうと思う。だからね、そんな思いつめた顔しないで、マリーエさん。


 マリウスさんへの報告や色々整理しておきたいことがあるというので、マリーエさんは一度家に帰ることになった。


 あ、そういえば彼女との例の誓約は先日解除している。別にもういいよねってことでアルクも同意してくれた。なので私の力を含めて今回の事をマリウスさんに報告することが出来る。またマリウスさんのストレス値が上がっちゃいそうだよね。ほんと、すいません。


 帰り際、マリーエさんに「失礼を承知で抱きしめてもよろしいでしょうか?」と聞かれた。少しびっくりしたけど頷くと、静かに優しく抱きしめられた。


「ご無事で、本当に良かったです」


 うん、心配かけてごめんね。ありがとう。




 マリーエさんが去って、私とアルクは日本の家に戻った。誘拐されたのがお昼でご飯を食べそびれたし、解放されたのは早かったけど色々あってお腹が空いていた。なのでだいぶ中途半端な時間だけどご飯にしようと思ったんだよ。


 だけどねぇ、アルクが離れてくれない。さすがにさっきのマリーエさんとのやり取りの時は空気を読んで離れたんだけど、私と再会した後からずっとくっついたままなのだ。こちらに帰ってくる時なんて抱っこされて連れてこられたんだよ。かなり恥ずかしかった。


 本当に心配かけちゃったんだなと思って大人しくしてたけど、うーん、動きにくい。


 結局ご飯を作るのをあきらめ、アルクを背中にくっつけたまま、お茶だけ淹れて収納鞄に入れていたサンドイッチを食べることにした。


 アルクをくっつけたままなので、いつかの時みたいに床に座ってアルクは背もたれ、私はぬいぐるみ態勢。お茶をひと口飲んで、やっと一息つけた気がした。ふう。


 落ち着いて今日の出来事を振り返ってみると、誘拐にあったなんて今でも信じられない。本当にあちらの世界に行くと想定外のことが起きるなぁって思う。


「アルクー、あのね、私怒られちゃった。もっと自覚しなさいって。私はさ、おじいちゃんの孫だけどただの小娘だし、あっちのみんなが私の事を大事にしてくれるのは、おじいちゃんの七光りだと思ってた。だけどね、私にも価値があるって言われたんだよ。なんかね、すごく不思議な感じ」


 だってさ、日本での私は本当に一般の普通の人だ。自分に価値があるとか特別とか思える余地はまったくない。


「だけどね、そう言われて少しだけ嬉しかった。自分に価値があるって言われて、ちょっと認められたような気がしたんだよ。実際やってることは全部こっちの知識で、私が何かしたっていうのはやっぱりちょっと違うっていうか、本当に過大評価過ぎて申し訳ないんだけど、それでもね、おじいちゃんではなくて、私を見てくれる人がいるんだって思ったら少し嬉しかった」


 危険な目にあったのに、ほんと、単純だよね、私。


「私はあっちの世界好きだし、色んな人と出会えて仲良くなれて嬉しかったし、すごく楽しかった。私が居ることで迷惑かけるのは嫌だけど、でもまだもう少し、あっちでの生活を無くしたくないなって思ってる」


 痛いのは嫌だ。死ぬのも嫌だ。だったらさっさと引き上げて大人しくしているのが一番なんだろうけど、せっかく出来た繋がりを、楽しいって思える場所を、私はあきらめたくないと、そう思ってしまった。


 たぶん、直接傷つけられたり、死に直面しなかったからこんな風に思えるのかもしれない。甘いんだろうなってことは分かってるよ。でもね、まだまだ堪能しきれてないんだよ、あっちの世界を。見たいじゃない、知りたいじゃない、もっともっと。


 不思議な力や物があって、見たこともない景色が広がった異世界。行こうと思っても行ける場所じゃないんだよ。そしてそれ以上に、出会った人達との縁を大事にしたいって、そう思う。


「だから、ね。どうか私に力を貸して下さい、お願いします」



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