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さてさて、ただいま絶賛、誘拐継続中の私です。
気が付いたら両手足を縛られて身動きが取れない状態だった。箱のような物に入れられて恐らくだけど馬車に載せられている模様。クッションなどないし、揺れるたびにあちこち当たって痛いしで結構辛い。
会場から連れ出されたんだろうけど、どれくらい気を失っていたんだろう。外の様子も分からないし、馬車は相変わらず走り続けているんだけど、ここはまだカランの町中なんだろうか。
なんとなく落ち着いているように思うかもだけど、私、これでも結構焦っているからね。表面上取り繕うのは得意だし、変なところで冷静を装ってしまうのが私の変な癖だったりするけど、内心はめちゃくちゃどうしようって思ってるから。
一応ね、脱出は試みたんだよ。私の唯一の必殺技、扉を出したんだけどねぇ、なんと開けられませんでした。私の扉ってドアノブがあるんだよ。で、ノブを捻らないと開かないの。だから後ろ手で縛られている状態とこの狭い空間ではどうにもならなかったんだよ。なんて使えない。
以前に色々と試しはしたことがあった。引き戸とか、扉無しとか出来ないかなと思って。だけど何度やってもドアノブ付きの一枚扉になったんだよ。あとノブよりレバー式の方が使いやすくていいなと思ったんだけど、こちらも変更不可だった。大きさは変えられるのに変なところで融通が利かないんだよね、この扉。
アルクにおじいちゃんの時のことを聞いてみたら、やっぱり同じだったみたいで形は固定されていたらしい。なんでだ。
叫ぼうと思っても何故かうまく声が出ないし、体も拘束されている以上に動かない感じがする。それでもどうにかならないかとしばらく試行錯誤していたら、突然箱の振動が止まった。馬車が停まったようだ。
しばらくすると数人の足音がして、箱が持ち上げられる浮遊感があった。どうやら私は箱ごとどこかに運び込まれるらしい。思ったよりも丁寧に運んでくれているようで、さっきのように箱の中であちこちぶつけることはなかったけど、これからどうなっちゃうんだろうって不安しかない。
アルクが助けに来てくれるってことは信じてるよ。でもその前に酷い事されたり、間違って殺されちゃったりしませんようにって必死に祈ってる。せっかく今が楽しいって思えるようになったのに、ここで終わりなんて絶対嫌だ。
「殺さなくていいんですか?」
「利用価値がある内は生かしておくそうだ。まあこんな小娘いつでも殺せるしな」
なんだかすごく不穏な会話が聞こえてきた。だけどまだ猶予があるらしいことにほっとする。
「見張りをしておけ。ここから出すなよ」
「はい」
命令していた男はどこかへ行ってしまったようだ。扉が閉まる音と遠ざかる足音が聞こえ、やがて静かになった。
え、私ってこのままなの?
そう思って焦っていたら、箱の蓋がゆっくり開いた。
「大丈夫ですか? お嬢さん起きてます?」
聞こえてきたのは若そうな男の人の声だった。さっき会話していた一人だろうけど、これ返事をしても平気なんだろうか。
「悪酔いとかしてませんか?」
そう言いながら私を箱から抱き起してくれたのは、整ってはいるけど、あまり特徴のない顔の男の人だった。
「だい、じょ、ぶ、です」
何だろう、喉が引っ掛かってうまくしゃべれない。
「ああ、無理にしゃべらない方がいいですよ。あの男、加減が出来ないのかだいぶ強く力を使ったようです。しびれはしばらくすれば無くなると思うので、それまでは安静にしていて下さい」
なるほど、これはしびれだったのか。電気でもビリビリされたのかな、よく覚えてないけど。それにしても誰だろうこの人。随分親切そうにしてるけど誘拐犯の一人だよね?
私の疑問が伝わったのか、男の人は笑いながら話し掛けてきた。
「あれ、もう忘れちゃいました? 嫌だなぁ。この間お茶しましょうって誘ったじゃないですか」
振られちゃいましたけど、とバチンとウィンク付きで言われた。
え、もしかしてあの時のナンパの人?
「うんうん、思い出してくれました?」
男の人は嬉しそうにしてるけど、私はあんまり嬉しくない。つい、じとーと見ていたら、男の人は少し困った顔をした。
「えっとですね、信じてもらえないかもしれませんが、私はあなたに危害を加えるつもりはありません。ですがすぐに逃がしてあげる訳にもいかないので、どうかこのまましばらく、大人しくしていて下さいませんか?」
ね、とお願いされたけど、私はすぐにでもここから逃げたかった。それにだよ、さっき私の事、殺さなくていいのかって聞いてたの知ってるんだからね。
私が同意していないことが伝わったようで、男の人はさらに私を説得しようとしてきた。
「うーん、だけどね、外にはさっきの男の仲間がいますし、ここから一人で逃げるのはとっても大変ですよ? 助けがくるまで大人しくしていた方が得策ですって。それに大人しくしていただけるなら、箱からも出してあげますしトイレにも行けますよ? ね?」
トイレに行けないのは非常に困る。私の尊厳にかかわる大問題だ。なのでここは大人しくしよう。
「うんうん、素直な子は好きですよ」
そんな訳で、あっさり男の言うことを聞くことになりました。
アルクー、助けてー。




