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 私達はガイルの家から宿に戻り、帰り方の相談を続けることにした。


 このままポンと家に帰っても怪しまれないかどうかが心配なんだよね。馬車で帰ってこなかったら何か言われそうかなとか、門を通らなくて大丈夫かとか、その辺りをマリーエさんに確認したい。マリウスさんに知られないようになるべく静かにガイルに戻りたいんだけど。


「そうですね。門の出入りに関しては、通常はその場の確認だけなので問題はないと思います。ガイルは人の出入りも多いですし、調べようと思わなければ分からないでしょう」


 おお、良かった。なんだか平気そうだね。


「もしご心配なら私だけ馬車で戻ります。リカ様達は先にお戻りになって下さい」


 頼れるマリーエさん。でもそれはなんだか申し訳ない気がするし、出入りが問題ないようであれば一緒に帰ろう。


 馬車ごと移動出来れば一番良いんだけど、家の中にあの馬車はちょっと無理だよね。馬小屋とか増設したらそこも家認定されたりしないかな。今度実験してみよう。


「あとですね、ニールさんの様子や今度のコンテストを見に行きたいと思うんですが、その時の移動に扉を使いたいんです。どこか安全に扉を出せる場所ってないですか?」


 そう、これも懸念事項。家から繋ぐ先として、突然扉が出ても人に驚かれない場所が必要なんだよね。


「そうですねぇ」


 マリーエさん考え中。なるべく普段人がいなくて目立たない場所、そんな都合の良い所ってあるかな。


「では、カランに家を用意しましょう」


「え、家ですか?」


「はい。実はこの宿の部屋をコンテストまで確保するつもりだったのです。リカ様がコンテストにいらっしゃると思ったので手続きをしておりました。ですのでこの部屋でも良いかと思いましたが、従業員の出入りや建物内に常に目がありますし、フロントはお客様の出入りをしっかりチェックしているのでかなり怪しまれてしまいます。他の場所でも人目は少なからずあると思うので、ならばいっそ家を買ってしまった方が安全と考えました」


 おお、家ねぇ。そこまでは考えていなかった。庶民の私には考えつかない発想だね。


「カランには貴族が住むような屋敷はありませんので平民の住居になりますが、いかがでしょうか」


 別にお屋敷なんていらないです。私は平民。だけど人目がなくて出入り出来るのは魅力的だね。


「それではさっそく手配してまいります。何かご希望などはございますか?」


「えっと、費用とかどれくらいかかりそうですかね。なるべくこじんまりした小さい家でいいんですけど。あと購入じゃなくて借りることは出来ないですか? 」


「こじんまり、ですね。かしこまりました。それに確かに家を買ったら理由を追求されるかもしれませんね。借りる方が目立たないかもしれません」


 いやいや待って、またガイルのお金を使おうとしてる?


 家を買うのは私にはハードルが高いし、ここは賃貸でなんとかならないかなと思って聞いたらあっさり賛成してもらえた。もちろんこちらで出しますから、なるべくお安めのところでお願いしますって思う。ああ、出費がかさむ。早く収入を確保したいなぁ。


 そんな訳で優秀なマリーエさんはすぐに物件候補をいくつか持ってきてくれた。仕事が早い。


 実際に住むわけじゃないので比較してその内の一軒にサクッと決定。大家さんには短期間になるかもと言っておいたけど、長く空き家になっていたとかで心良く貸してもらえることになった。


 この賃貸物件なんだけどね、私の想像していた町はずれの目立たない家とかではなくて思いっきり住宅密集地にある家だった。


 こういう所の方が治安が良いからとはマリーエさんの意見だ。ご近所さんの目もあるのであまり変な人は近寄らないし、逆に見慣れない人が来ればすぐに分かるので安心とのことだった。なるほど。


 私達は周りの家にご挨拶をして、「仕事で一時的に家を借りたので留守にすることも多いけどよろしくお願いします」と言っておいた。


 丁寧に挨拶したのが良かったのか、手土産のあんぱんが効いたのか、それともアルクの笑顔か。とにかく住民のおばちゃんやおじちゃん達にはかなり好意的に受け入れてもらえたようだ。円滑なご近所付き合いは大事だよね。



       ◇



 という訳で、戻ってきましたガイルです。荷物もないし、馬車の手続きをして宿をチェックアウトして新しい家から扉をくぐるだけ。


 一度体験してるのに「こんな簡単に……」って、マリーエさんはなんとも言えない顔をしていた。うん、そっとしておこう。


 彼女とはここでお別れになる。短い間だったけど大変お世話になりました。このままマリウスさんに報告に行くとのことだったけど、私達のことを話せなくて大丈夫かな。


 私と関わったばかりに色々すみませんと申し訳なさがいっぱいだけど「ご心配なく」とマリーエさんは笑っていた。ついでに「カランに絶対一人では行かないこと。一人で行動しないこと」と厳重注意を受けた。


「コンテストの時は私も必ず同行します」


 そう言ってマリーエさんは去って行った。お仕事お疲れ様ですっ。 



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