表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/215

45


 ニールさんは工房にこもって作業を続けている。様子を見に行ったらおかみさんがすっかり元気になってニールさんの食事や身の回りの世話をしてくれているので任せておけば大丈夫だろう。


 私達は再び展示棟に行き、残りの展示品を見てまわった。もちろんイヨさんに案内はお願いした。それでね、なかなか良い感じのお洋服や面白い物を見つけたりとかなり充実した買い物もできたし、町の観光も十分楽しむことができた。


 だけどねぇ、ちょっと問題発生だ。


 のんびりし過ぎたんだよ。ここカランに来てからあっという間に五日が経ち、旅の予定は大幅に狂った。工房の件で滞在が延びたのは仕方がないんだけど、そもそも町から町への移動にこんなに時間がかかるとは思っていなかったんだよね。


 ガイルからカランに行くのに朝出発して夕方到着したけど、これってこちらではものすごく近いらしいんだよ。でね、私が目指そうとしていた領都まではもっとすごく遠くて、それこそ移動にかなりの日数がかかるらしいのだ。


 移動手段があのゆっくり進む馬車だからっていうのもあるけど、それにしてもかかり過ぎでしょうって思う。一週間くらいでちょこっと行って帰ってくるつもりだったけど、とんでもなかった。


 計画が甘すぎと思われるかもしれないけど、アルクにちゃんと聞いたんだよ、私。そうしたらそれ位で行って帰れるって言うから。


 マリーエさんと領都の話をしていて発覚したんだけど、アルクが言っていた話と全然違ったので本当にびっくりした。アルクにどういうことか詰め寄ったら、ちょっと考えて「自分一人で移動する時の感覚だった」と言っていた。


 ちなみにアルクの移動手段はお空をぴゅーっと飛んでいく感じだ。目的地まで遮る物のない空を一直線だし、馬車とは比べ物にならないスピードだからそれは早いよね。初日で気付いて教えてよって、もうっ。


 そんな訳で私のお休みも残り少ない為、旅はカランで終了ということになった。まあ一日中仕事がある訳でもないし、旅を続けようと思えば続けられるけど、結構充実していて満足したのでいいかなって思う。

 あとコンテストもあるからね。扉をここで記憶させておけば、また来るのに楽だからという本音もあったりする。


 それとですね、昨日ついに家具の購入が出来た。うん、この買い物が出来たことが一番満足度が高いと思う。イヨさんに手続きをお願いして購入する家具の確認をし、支払いをして。昨日の午後に無事引き取りをしてきた。


 家具の運搬について聞かれた時は少し迷ったけど、ポイポイっと扉に入れさせてもらった。だってね、運搬費も結構かかるみたいだし、届くまでにかなり時間がかかるんだよ。傷がついても嫌だしね。


 イヨさんには「収納」で説明したんだけど、あまり知られたくないと言ったら人目の付かない場所に家具を移動してくれたりとめちゃくちゃ配慮してくれた。

 イヨさんが見張ってくれている間に大きめの扉を出し、アルクに家具を少し浮かしてもらってガイルの部屋に次々移動。いやー、楽々だね。


 マリーエさんが横で見ている間に移動したんだけど、一応まだ収納だとは思ってくれているみたいだ。だけどあまりに簡単に作業するからやっぱりすごく驚いていた。


 イヨさんに関しては顧客情報の守秘義務の順守っていう内容で案内人になった時に契約が交わされているそうだ。商業組合さんっていうところが管理棟を運営しているそうだけど、しっかりしているよね。


 それでですね、ガイルへの帰り方をどうするかを考えたんだけど、正直あの馬車にまた長時間は嫌だし、やっぱり扉を使って帰ろうという結論になった。マリーエさんの誓約もあるし、もう話してもいいよねってことで。


 なので現在、ホテルの部屋でお話中だ。


「ちょっと想定以上に日数がかかりそうなので、今回はここまでにしてガイルに帰りたいと思います」


「かしこまりました。出発は明日の朝でよろしいですか? 馬車の準備をしておきます」


 そういうマリーエさんにストップをかける。


「馬車は使いません。出発の時に途中で乗り捨てが出来るってことでしたが、ここでも可能ですか?」


「はい、それは大丈夫ですが……歩いて帰るおつもりですか?」


 マリーエさんは心配そうだ。なのでここはさっさと扉のことを話して納得してもらいたいと思う。


「いいえ、これで帰ります」


 私は座っていたソファから立ち上がると、近くの壁に扉を出した。そしてノブ回してマリーエさんに向こう側が見えるように扉を開く。


「収納ですか? え、部屋がある?」


「はい、こちらにどうぞ」


 私は彼女を扉の向こうに連れて行った。あ、買った家具がそのままだった。無造作に置きっぱなしにしてあるので後で日本に運ばないといけない。だけどとりあえずこれは後回しで、先にマリーエさんだよね。


「は? え?」


 家の中をキョロキョロと辺りを見回しているけれど、理解が追い付かないみたいだ。


「ここはガイルの家です。外を見て下さい」


 家の玄関を開けた先は、先日初めてマリーエさんと会った場所だ。


「確かに見覚えがあります。しかし、これは……一体どういうことですか?」


「えっとですね、私の力、収納だって言ったんですが、本当はこうやって家と他の場所を繋げる扉が出せるんです」


「扉……」


 私は日本のことは言わずに扉の説明をした。最初は戸惑っていたけれど、しばらくして「リカ様ですから」とよく分からない納得の仕方をしてくれた。


 アルクのこともあってだいぶ私達のことに対して適応力が上がってきたらしいとは本人談なんだけど、アルクと一緒はちょっと違うと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ