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「私は貴族でもないし、おかみさんに頼まれたような後見にはなれません」
ニールさんが落ち着いたところで、私の思っていることを話すことにしたんだけど……。
「え、あなたが貴族じゃない?」
話し始めてすぐ、私が貴族じゃないってことにすごく驚かれた。え、なんでニールさんがそんなに驚くのかな。どう見たって私は貴族じゃないでしょう。私の方がびっくりなんだけど。
「いえ、あの、こちらに宿泊していらっしゃるので、てっきり身分の高い貴族の方だと思っていました」
うんよく分からない。確かに高級な宿だけど、そこに泊まっているだけで貴族ってことになるんだろうか。私は説明を求めてマリーエさんを見た。
「こちらの宿は王族やそれに近い高位貴族の方が宿泊する専用の宿です。リカ様は確かに貴族ではありませんが、それ以上に尊い身分のお方ですので、くれぐれも失礼のないようにお願いいたします」
マリーエさん、ニールさんに脅しをかけないように。えっとね、詳しく聞いたらこの「銀の靴」はほぼ王族専用の宿らしい。なんでも毎年開かれるコンテストの審査に王族の方が参加されるらしいんだけど、その時の宿泊場所として作られたのがこの宿なのだそうだ。
本当はコンテスト当日とその前後だけ稼働するそうなんだけど、今は開催が近いのでその準備期間にあたっていて泊まることが出来たらしい。ええっ、私が泊まって良かったんだろうか。
「リカ様の宿泊に関しては王族の方よりぜひ使って欲しいとのことで許可は頂いております」
あ、そうですか。なんというか部屋がやたらと豪華な理由が分かったよね。
「貴族じゃないけど尊い身分、王族から許可……」
あーあ、ニールさんが混乱してる。
「えっとですね、とりあえず私は貴族ではないです。そこはいいですね?」
聞いたらニールさんがこくこくと頷いてくれた。うん、よし。
「でですね、後見にはなれませんが、だからと言って工房を追い込んだ貴族のことは私も許せないし、ニールさんの力になりたいとは思っています」
オッケー? ニールさんはこくこくと頷く。
「それで私なりに色々考えたんですけど……今度のコンテストに出品してみませんか?」
「え、コンテストですか?」
うん、コンテスト。工房がこんなことになった原因でもあるし、思う所も色々あるとは思うんだけどね、工房存続やニールさんの今後のことを考えるとこれが一番効果的ではないかなと思うんだよ。
「確かにきっかけはコンテストですが、だからといってコンテストに対して否定的な思いはありません。できれば私も出品したいと思いますが、こんな状態でなにも準備をしていませんし、これから取り掛かっても私一人では時間も足りません。間に合うとは思えないです」
ニールさんから冷静な意見。でも出品したいとは思っているんだね、良かった。本人にやる気があるかどうかが一番大事だ。
「確かに今から家具を作るのは大変だと思います。だけどちょっと考えていることがあって、こういうのはどうかなと……」
私はおかみさんの家を出てから考えていたことをニールさんに話してみた。別にね、そんなにたいしたことではないんだよ。ちょっとした思い付きだ。こういうのって受け入れられそう? アルクやマリーエさんにも意見を聞いみたんだけれど、二人とも首をかしげていた。
「私の知る限りでは聞いたこともありません」
マリーエさんはあまりイメージがわかないのか困惑顔だった。だけどニールさんは最初こそ驚いて聞いていたけど、私の考えていることをちゃんと分かってくれたみたいだ。
「面白い、と思います。それにこれなら私一人でもなんとかなるかもしれません」
ニールさんがちょっとやる気になってくれたみたいだ。その後はニールさんの質問に答えたりしながら結構長い時間を費やして計画を立てていった。実行するのはニールさん一人なんだけど、これならコンテストへの出品はなんとかなりそうかな?
一応、工房は手放さなくても済むようにマリーエさんにお願いして手をまわしてもらった。だからあとはニールさんの頑張りとコンテストの結果次第だ。受賞できるかどうかは分からないけど、少しでも注目されて顧客が付けば良いなと思っている。私に出来るのはアドバイスするくらいだからね。もどかしいけど仕方ない。
一通り話し合いも終わったらお昼をだいぶ過ぎていて、みんなでご飯を食べに行くことにした。最初はニールさんは遠慮しようとしていたんだけど、どうも早く作業に入りたそうにしていることに気が付いて強制連行した。作業に熱中してご飯をおろそかにするとかは絶対駄目だよと釘もさしておいた。ちょっと目が泳いでいたのでこれは常習犯かもしれない。
翌日、おかみさんのところへお見舞いに行き、ニールさんがコンテストに出品するという話をしたらすごく喜んでくれた。コンテストの結果次第では何も変わらないかもしれないとは伝えたんだけど「あの子がまたやる気を出してくれたことが何より嬉しい」と言って涙を流してお礼を言われてしまった。
あとついでに、ニールさんが寝食を忘れて作業に没頭しないかが心配なのだと言ったら「私がそんなことはさせません!」と、おかみさんが急に元気になった。寝込んでなんかいられないと急にベッドから出ようとするから驚いたよね。無理は駄目ですよ。
アルクに頼んで少しおかみさんの体を診てもらったんだけど、どうも心臓の機能が弱まっているらしい。なんとかならないのかとアルクに言ったら、回復魔法みたいなものを使ってくれた。うん、アルク万能。
おかみさんは最初きょとんとしていたんだけど、体が楽になったことに気が付いてすごく驚き、ものすごく感謝された。ずっと神様みたいに拝まれてアルクは困っていたけどね。
おかみさんには契約はしなかったけれど、他言無用をお願いして絶対に無理をしないことを約束してもらった。マリーエさんは横で見ていたけれど、驚きで目を見張った後はちょっと遠い目をしていた。うん、あなたも他言無用でね。




