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 さて、結局最後まで見て周って、少しいいかなと思った物もあったけど、やはりモリス工房の家具が一番良いという結論になった。アルクも異存なしとのことなのでこれは工房に突撃するしかなさそうだ。


 イヨさんに他の階を見るか聞かれたんだけど、モリス工房の方が気になるので今日の見学はここまでにしてもらって、このまま訪ねてみようと思う。行くぞー!


 私達はイヨさんにお礼を言って展示棟を後にし、途中でお昼時なことに気付いて軽く食事をとった。その後は職人の工房が集まる通りへ向かう。


 住所を聞いたけれど私にはよく分からなかったので道案内はマリーエさんに任せてある。いくつもある通りの内、似たような造りで一人で来たら絶対迷いそうな建物ばかりが並んでいる道を進んで行った。


 しばらく行くと「あそこのようです」そう言ってマリーエさんが一軒の建物を指さした。近づいて見ると確かにモリス工房の看板がかかっている。扉の両脇がガラス張りになっていたので少し覗き込んでみたけれど、暗くて中の様子はまったく分からなかった。


 私は少し緊張しながら扉を開けようとしたんだけど、すぐに「私が先に入ります」とマリーエさんに止められてしまった。別に危険とかはないと思うんだけどな。


 扉は普通に開いて中に入ることは出来たんだけど、室内は薄暗くて人の気配がなかった。休憩中だったかな。


「どなたかいらっしゃいませんか?」


 マリーエさんが店の奥に向かって声を掛けたけれど反応がない。何度か繰り返してみても同じで、出直さなくてはいけないかと思ってあきらめかけた時、店の隅の階段から声がした。


「あの、何かご用ですか?」


 現れたのは若い男の人だった。シャツの袖をまくっていたのか、それを直しながら階段を降りてくると頭を下げながら謝ってきた。


「すみません、上で片付けをしていたもので気付きませんでした」


「こんにちは。突然すみません。展示棟でこちらの家具を見てやってきました。ぜひあの家具を購入したいのですが可能でしょうか? 面談が必要と伺ったんですが……」


「あの家具をですか? それは、ありがとうございます」


 私はその後も家具が素晴らしかったとべた褒めしたらその男の人はすごく嬉しそうだった。お、いい反応なのでは。これはもしかしてスムーズに交渉できるかも、そう思ったんだけど……。


「ただ、すみません、私の一存ではあの家具は販売できないんです。実はあれはこの工房の親方の作品なのですが、実はその……先日、亡くなりまして。なので、今あの家具の所有は親方のおかみさんにあるんです。私の方から話をしてみますので、少しお時間をいただけないでしょうか」


 なんと、親方がお亡くなりになっていた。なんだか大変な時に来てしまったみたいだ。


 男の人は名前をニールさんと言い、くすんだ金髪とこげ茶の瞳の優しそうな人だった。モリス工房の従業員とのことで、今日は部屋の整理のために来ていて近々工房は閉めることになっているらしい。イヨさんの説明でとても歴史のある工房だと聞いていたからすごく驚いたけど、話をするニールさんもすごく残念そうにしていた。


 私達はお悔やみと突然の訪問を詫び、出来ればおかみさんへの交渉はお願いしたいとニールさんに依頼してお店を後にした。連絡先として宿泊先を告げたらちょっと引きつった顔をしていたのは何だったんだろうね。


 そんな訳で家具の購入はすぐに出来なかったけれど望みをつなぐことはできた。工房を閉めるのはかなり気になるけれど初対面であまり色々聞く訳にもいかないし、とにかく後はニールさんからの連絡を待つしかない。どうか上手くいきますように!


 その後は展示棟に戻ることも考えたけれど、町の観光をして過ごした。初めての町は楽しいね。


 夜はまたふかふかベッドで快眠し、翌朝、部屋で食後のオリジナルブレンドの紅茶を楽しみながら今日の予定を話し合っていたらフロントの人がやってきた。


「お客様に取り次いで欲しいというモリス工房のニールという者が来ております」


 おお、昨日の工房の人! 部屋に来てもらうより行った方が良いかなと思って、私達はすぐにニールさんのもとへ向かった。ロビーに着くとニールさんは隅っこの方で小さくなって立っていて、私達を見つけるとものすごくほっとしたようだった。


「おはようございます。こんな朝から申し訳ありません。お出掛けになる前の方が良いかと思いまして」


「全然かまいませんよ。昨日お願いした家具の件ですか?」


 待ちきれなくてこちらから聞いてしまった。どうかなどうかな。


「はい、おかみさんに話をしたらお譲りするのは構わないとのことでした」


 やったー! 思わずアルクと両手でハイタッチしちゃったよね。そのあとマリーエさんに「あちらでお話を」と促されて、私達は近くのテーブルで話を続けることにした。


「価格はこのようになっております。なのでこちらでご納得いただけるようであれば、ご購入よろしくお願い致します」


 そう言って深々と頭を下げられた。差し出された紙に書かれた値段はごく平均的な価格だとマリーエさんに教えてもらった。私にしたら高額商品だけど、あれは逃したくないのでここは思い切って購入したいと思います。もちろんおじいちゃんのお金だけど、もう割り切って使わせてもらうことにする。


「ぜひ購入させて下さい」


 私が購入の意思を伝えたらニールさんはとても喜んでくれた。あの家具はニールさんも制作に携わった思い入れのある作品とのことで、「こんなに気に入って下さる方に買って頂けて本当に良かった」と言ってくれて余計に嬉しくなった。うん、絶対大事にします!





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