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 商談する訳でもないし必要かなと思ったんだけど、しばらくして案内人がやってきた。


「本日担当させていただきますイヨと申します」


 そう挨拶してくれたのは、ピンクに黒のラインが入ったワンピースの可愛らしい女性だった。こちらでは制服が採用されているようで、受付けの人も同じ格好をしている。うん、可愛い。


 イヨさんは今まであまり見かけなかった黒髪で、すごく親近感を持った。だって黒髪の人って本当に少ないんだよ。瞳は明るい茶色だったけど、聞いたらお母さんの家系がガレイスト領出身で、そちらでは黒髪の人がとても多いとのことだった。領によって外見の特徴、特に髪色がだいぶ違うらしく、ガイルは比較的色んな人がいたから知らなかったけど、メルドラン領では茶色い髪の人が多いというのをマリーエさんが教えてくれた。


「何かご覧になる物でご希望はございますでしょうか?」


 イヨさんの質問に、アルクとマリーエさんの二人が私を見た。あ、私が答えていいってことかな。


「えーと、まず家具を見たいです。もし気に入った物があれば購入も考えています。あと、洋服とか他にもどんな物があるかを知りたいので一通りは見てみたい、かな」


「かしこまりました。それでは一階が家具の展示となっておりますので、まずそちらをご案内しますね。本日は閉館まであまり時間がありませんが、明日もご覧になりますか?」


 にっこり笑ってイヨさんが聞いてきた。ここに到着した時点で夕方だったからね。今日見れるとしても少しだけかな。


「はい、明日も見てまわりたいです」


「承知致しました。では明日も見学されるということで手配させていただきますね。それではまず家具のフロアからご覧いただいて、明日は他の階も順番にご案内致します。こちらへどうぞ」


 私はマリーエさんに勝手に決めてしまってすみませんと言ったら「とんでもありません。リカ様のお好きなようになさって下さい」と言われた。え、でもさっき止められたし注意されたし……という思いは飲み込んだ。食事やお茶に関しても、自分のことは気にしなくていいので私のタイミングで取って欲しいとも言われたんだけど、ふーむ。


 とりあえず、まずは見学をすることにして私達はイヨさんのあとに続いた。受付のある部屋から隣の部屋に移ると、そこは巨大なホールになっていてちょっと驚いた。どどーんと空間が広がっていて、区画ごとに家具がまとまって置いてあるようだ。なかなか壮観だね。家具は大きいけれど、天井もそれなりに高いからすごく広々している。なんだか見ごたえありそうでいいねぇ。


 展示棟の中を見て、なんかこう日本の大型コンベンション施設とかで開催されている家具のセールみたい、なんて思ったりもした。だけど日本の家具店みたいにテーブルとか椅子がそれぞれまとまって展示されているのではなく、一つの区画に色んな種類の家具がそれぞれ置いてあるんだよね。


「こちらは工房ごとの展示となっております」


 イヨさんが説明してくれた。ああ、なるほど。特徴が似通ったものがまとまっていたからシリーズごとかなと思ったけど工房が違うのか。区画はそれぞれ結構な広さがあって、一つの工房を見るのにも時間がかかりそうだった。少し選別して見た方が良さそうかなぁ。


 私はイヨさんの説明を聞きながら自分の趣味に合わなそうなものはどんどんパスしていって、気になる物があった時だけじっくり見るを繰り返した。本当は全部をしっかりゆっくり見たい気もするけれど、これだけあるとしょうがないよね。


 私とアルクの趣味はそれほどかけ離れてはいないので見る物も似通っていた。まあ、アルクは気になる物があったら私を置いて行ってしまいそうだけど、今のところ立ち止まる所は大体一緒だった。マリーエさんは退屈してるかもだけどここは我慢してもらうしかない。


 見ている内に私の好みを掴んだのか、イヨさんが勧めてくる工房の傾向が変わってきた。端から勧めるんじゃなくて顧客に合わせてくれるのは嬉しい。


 私は説明の合間に、こういう展示方法はこの国では一般的なのかを聞いてみた。そうしたらそんなことはないと言う。とても画期的で領外からも視察に来るほど珍しいとのことだった。私はそうなんだと感心していたんだけど、次のマリーエさんの言葉に驚いた。


「このような展示方法は賢者様がご提案なさったと聞いております」


 ええ、おじいちゃん?


 マリーエさんはイヨさんにこの町の歴史を話すように促した。


「はい、このカランの町は、昔は職人が多く集まるだけの無名の町でした。しかしある時、賢者様が町に立ち寄られたのです。賢者様は町の人々に数多くの助言をされました。町の人々は賢者様の指示に従い、町を整備し、この展示棟を建設しました。このような商品の展示や販売方法は他に類を見ず、今でも各地から手法を取り入れたいとのお申し入れや視察を数多く受け入れております。

 今日のカランの繁栄があるのも、すべて賢者様のお力。我々カランの住民は賢者様に多大な感謝と尊敬をささげております!」


 両手を胸の前で握りしめて、イヨさんはキラキラ笑顔で語ってくれた。


 うわー、賢者様ここでも活躍してた。いやでもさ、助言だけでここまで町を発展させたのは町の人達の努力だし凄いことだよね。おじいちゃんの登場には驚いたけど、住民の皆さんこそ尊敬します。


 あとね、イヨさんによると技術を高めるために年一回、工房対抗のコンテストがあるそうだ。顧客に対する良いアピールにもなるので毎年盛大に開かれているらしい。中でも注目はやはり家具の部で、王都や他の領からも見学に訪れる人が大勢いるそうだ。


 そんなに人気のコンテストなら見てみたいよね。そう思ったらなんと近々開催予定らしい。この展示棟の裏にある別棟で行われるそうなので、是非見に行きたいと思う。







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