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 その後も馬車は進み、日が傾き始めた頃にそろそろ隣の町が近いとマリーエさんが教えてくれた。窓の外を見るといつの間にか周りに木々が増え始め、なだらかな丘が先の方に見えた。この丘の向こうに町があるらしい。


 これから向かうのは「カラン」という町だ。メルドラン領内でも屈指の職人の町と言われているそうで、話を聞いた時からどんな所かすごく楽しみにしていた。


 しばらく進むと丘の頂上辺りに着いたようで、町の様子が見えるという。なのでマリーエさんにお願いして一度馬車を停めてもらい、私とアルクは外に出た。


うーん、なんだか体がガチガチする。心配していた車酔いは大丈夫だったけれど、乗り心地はかなりひどかった。改良とかできないものかな。


 さて、マリーエさんが教えてくれた通りそこからは町を一望できた。もう少し距離はあるけど町の形など全体が分かる。第一印象はなんというか、黒い?


 今までいたガイルが米の栽培や農業が盛んだったり、町の中も流通が盛んで市場が大きく存在していたりとにぎやかで明るく開けたイメージだったのでだいぶ感じが違う。


 遠目だけどがっしりした建物が密集している場所が多く、町全体がギュッと詰まっているような感じだ。あと、町の向こう側に森が広がり、その背後に岩山がそびえている様子も見えた。


 マリーエさんの説明によると、密集している建物のほとんどは職人の店らしい。一階が店舗、上が住居、建物の後ろ側が工房になっている造りが多く、通りに面する間口は狭いけど後ろに長い構造になっているとのことだった。


なるほど、確かに大きな通りに対して両側にずらっと長細い建物が並んでいるようだ。どんなお店があるんだろうね。すごく楽しみだ。



 ガイルには貴族の居住区などがあったけれどカランにはほとんど貴族は住んでいないらしい。これから向かう町の門に近い通りは宿屋が多く、商品を買いに来たり職人を探す商人などが多く滞在しているとのことだった。


 マリーエさんはここで宿をとってはどうかと言っている。他の案としてはもう少し先にも村や町があるのでそちらに移動するのも可能だけど、宿はあまり期待できないとのこと。あと、馬車で夜を過ごすことも出来るそうだが絶対にお勧めできないとも言われた。


 今回の旅の最終地点はメルドランの領都の予定だ。だけど大体のルートだけでどこへ泊るかなどは決めていなかった。だって毎日家に帰るつもりだったからね。


 私はアルクに「どうしようか?」と視線を送ったけど、「リカの好きなように」と返されてしまった。宿でも家に帰るでも好きにすればいい、と。


 うーん、まだ扉の事は話さなくていいかな。この町はぜひじっくり見てみたいし、初めての体験ということで異世界の宿にも泊まってみたい。さすがに馬車で宿泊は嫌だし、マリーエさんだって宿の方がいいよね。そう思ってマリーエさんにこの町に泊まりたいと伝えた。どこかお薦めの宿などはあるんだろうか。


「はい、ございますよ。リカ様は宿などご不安かもしれませんが、貴族が使う高級な宿がございますのでご安心下さい」


 なんだかすごくニコニコとそう言われました。うん、まあね、ガイルから出るのは初めてだというのは話してあったし宿もこちらでは初めてだよ。でも、高級な宿ねぇ。改めてマリーエさんの私への認識がどんなものなのか気になった。


「あの、マリーエさんは私の事をどんな風に聞いているんでしょうか?」


 ちょっと本人に確認してみることにした。


「リカ様のことですか? リカ様は賢者様の血縁の方でお孫様と伺っております。賢者様同様にガイルやメルドランに優れた知識や知恵をお与え下さる得難く尊いお方であると。

 最近ガイルにおいでになり、それまでは我々では知ることもできない遠方の国でお育ちになられたので、こちらの国には不慣れだと聞いております。なので、不自由のないようにお助けし、リカ様を害そうとする者からは命を懸けてお守りせよと命を受けております」


 最後はキリっとした顔で言われたんだけど、なんだかすごいね。遠方の国ってのは間違ってはいないし、確かに知らないことも多いので助けてくれるのはありがたいよ。でも相変わらず賢者様の七光りがね。


 これはこれはもう逃れられないんだろうか。だけど、私がおじいちゃんの様にはできないと分かったら態度も変わってくると思うんだよね。ここは今後のことも考えて大人しくしておいた方がいいのかな。


 あと「命を懸けて守る」という話を聞いて、それはちょっとと思ったんだけど、そういう状況は実際ありえるんだろうか? 


「メルドラン内でそのようなことを考える者はおりませんが、賢者様のお力を得たいと思う者は国中におります。リカ様のことは先日の件で王都にも知られておりますし、接触を試みる者が現れるかもしれません。それが穏便にであれば良いのですがそうとも限らず、武力でということもありえない話ではない、というのがマリウス様のお考えです」


 あー、そうなんですね。だからあれだけ護衛をつけろと言われた訳だ。私にそんな価値なんてないのに困ったものだね。だけどそういうのって全然実感がわかないんだけど、これって良くないのかな。


 でもいざとなったら扉を使って逃げられるって考えるとあまり怖さがないのも事実だ。もし命を狙われるとかだったらちょっとまずいけど、誘拐系ならなんとかなるかなぁ、なんて。アルクもいるしね。




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