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家は町の中心に近いので、しばらく町中を行き、南の門をくぐって壁の外に出ることになった。そう、ガイルの町は周囲に壁がぐるっとめぐらされているのだ。
以前アルクに連れて行ってもらった高台からは町が壁に囲まれている様子を少し見ることができたけど、こうして間近で見るのは初めてだった。かなり高くがっちりと石が積みあがっているのですごく圧迫感がある。
門には警備の人が立っていて、出入りする人達をチェックしていた。馬車の御者台側には小窓が付いていて、マリーエさんと会話ができるようになっているんだけど、門では私達は何もせずに馬車に乗っていて大丈夫だと言われた。マリウスさんから通行証をもらっているので、この辺りはどこでも出入り可能らしい。
覗いていたらマリーエさんが出したカードに警備の人がどうぞどうぞと馬車の通行を促しているのが見えた。すごいね、フリーパスかな。
門の外は田んぼが広がっていた。畑もあるようだけど田んぼの方が圧倒的に多く、門から続く道の両側にずっと続いている。農民の人達の住居は基本的には壁の中の町にあるので通いで作業をしているとのことだった。
日本はだいぶ寒くなってきたけど、ガイルは暖かい。ここは年中こんな感じらしくて、米の二期作が行われているとのこと。近くには大きな川も流れているし、夜は少し冷えるので寒暖差で美味しいお米が育つんだそうだ。美味しいご飯ばんざい。
壁の外には出たけど、このあたりもまだガイルになるそうで隣の町までは馬車でもしばらくかかるらしい。で、ですね、出発早々ですがお尻が悲鳴をあげた。
馬車のシートには綿が入って布張りしてあるんだけど、うっすいのよ。本当に申し訳程度というかペタペタ。道が舗装されていればまだましなんだろうけど、そんなことある訳もなく。
これは駄目だと思ってすぐに扉を出してガイルの家からクッションを持ってきた。敷く分と寄りかかる分と抱える分。うん、だいぶ良い感じだ。でも低反発クッションが欲しいなぁ。
アルクはいらないって言うからマリーエさんにお尻用を渡してあげた。マリーエさんはクッションを見て、どこから持ってきたのかと不思議そうにしていたけど、私の扉の力のことって知らないんだろうか。マリウスさん辺りから聞いていると思っていたけど、そう言えば誰にも聞かれたことはないなと思う。
あのカードを作った住民登録って、こういう力のことも分かるんだろうと勝手に思ってたけど、どうなんだろう。アルクに聞いてみたら知らないって言うのでマリーエさんに聞いてみた。
「住民登録の内容ですか? そうですね、まずは神力の登録ですね。神力は型や特徴があって個人でそれぞれ違うので、それが記録されて本人確認ができるようになります。あとそこから血縁関係なども知ることが出来ますね。過去の登録と照合をすることも可能です。一般的には生まれた時、あとは居住した時にその地で登録をします。神力のほかには名前や性別、年齢、登録日、変更内容、婚姻や賞罰の有無など様々なことが記録されます」
私が登録した時のことを思い出しながら聞いていたんだけど、あれ、年齢とか聞かれた覚えがないな。使い方とかは聞いたけど、最初に板に手を置いた以外に書類を書いたりもなかったし。
「実務に関してはあまり詳しくないのですが、通常は出生時に登録されますし、途中で登録先を変えても情報は紐付けされます。なのでそれまで登録が一切ないというのは想定外なのかもしれません」
マリーエさんは少し考えて答えてくれた。なるほど、私はイレギュラーなわけね。だけどカードはちゃんと使えているから問題ないのかな。あと、個人の神力の能力はどうなんだろう?
神力の登録と同時に記録されるのか、一番聞きたかったことを聞いたらあっさり答えが返ってきた。
「登録はされませんね。個別の能力までは分かりませんから」
あ、分からないんだ。ということは、アルク以外誰も私の力を知らないってことだよね。
「能力については本人の申し出で登録することは出来ます。その際には慎重な確認や調査などがされますが、認められるとカードに記録されるんです。能力の証明になるので就職先を探す時に有利だったり、役所にも同時に記録されるので雇用側に利用されたりしています。まあ、実際に力を見せて採用される場合がほとんどなので、登録しなくても問題はないですし、中には自分の力を表に出したくない人もいるので誰もが登録する訳ではありません。能力と言えないような力の弱い人も多いですしね」
そっかー、申告制なんだ。ちょっと勘違いしてたよ。あまり知られない方がいいというアルクのアドバイスで今まで他の人の前で力を使ったことがなかったんだけど、てっきり公開とかはされなくても役所の方では把握されていると思い込んでいた。
今回のお出掛けは観光はもちろんなんだけど、扉の有効範囲を調べる目的もあった。ガイルの町中では全域で使えそうなことが分かったので、外に出たらどうなるかを実験しようと思っていたのだ。さっきはちゃんと使えたし、今後も試しながら進むつもりでいる。
あとねぇ、扉を使ってやろうと思っていたこともあったんだよ。




