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結局、クラウスは謹慎を言い渡されたんだけど、納得がいかなくてお兄さんに随分と文句を言ったみたいだ。だけどお兄さんのマリウスさんはまったく取り合ってくれなかったんだって。
「誰に何を言われたのか知らないが、お前は自分がどれだけのことをしたのかさっさと理解しろ。リカ様という方は住民登録で賢者様との血縁は確認済みだ。何故情報を集めない? 事前に確認しない? 言われたことを鵜呑みにして突き進んだお前の後始末を、これまで何度してきたと思っている? しかも今回は相手が相手だ。もしあの方がガイルを出て行かれたらどうなることか。メルドラン領を出る可能性もある。そうなったらお爺様が黙っていないぞ。メルベルク家の存続も危ういだろう。王家が出てくる可能性だってあるんだ。ああ、お前はもういい何もするな。大人しく謹慎していろ」
私が町を出るくらいどうでもいいと思うんだけど。しかも家の存続とか王家って大げさ過ぎない? まあ私の事はともかく、どうやらクラウスという人はこれまでも色々やらかしてきたらしい。毎回後始末をさせられてきたお兄さんは今回のことでかなり切れているようで、クラウスはそれ以上話も聞いてもらえず部屋に軟禁状態だそうだ。
そんな訳で、ネロさんはマリウスさんになんとか私との謝罪の場を持てるようにセッティングして欲しいと頼まれて来たという。私に会いに来れる人が限られるのでしょうがない事ではあるんだけど、間に立つことになったネロさんには重ね重ね申し訳ないです。
私は別に二度とあのクラウスという人に会わないようにしてくれれば謝罪とかいらないとは言ったんだけど、それでは駄目みたいで結局会うことになってしまった。私の希望が通らない時点でどうなのかなぁと思うんだよね。謝る方の都合、体面とか形式とかメンドクサイね。
で、翌日の昼間、役所までやってきた。
家まで来るとか言われてお断りしたんだけど、メルベルク家に私が行くのもなんか違うし、役所の応接室で会うことに落ち着いたのだ。「家まで馬車で迎えに」とかも言われたけどそれも丁重にお断りした。ちょっと乗ってみたい気もしたけどね。
もちろんアルクも一緒だ。アルクは私に行かなくてもいいとは言ってきたんだけど、社会人として一応対応しておこうと思う。だけどなるべく早く終わらせたい。
役所の前ではネロさんと副町長のオリバーさんが待っていてくれて部屋まで案内してくれた。この間通された所より大きい部屋で、既に二人の人が中に居た。
たぶん町長のラベールさんと若い方がマリウスさんかな。二人とも明るい茶色の髪と瞳で穏やかそうな雰囲気が似ていた。赤髪でちょっときつい感じのクラウスとはだいぶ感じが違うから、あちらはお母さん似なんだろうか。
私が部屋に入るとすぐに二人から丁寧なご挨拶をいただいた。
「はじめてお目にかかります、私はガイルの町長をしているラベール・メルベルクと申します。こちらは長男のマリウスです。この度はクラウスが大変失礼なことをしてしまい誠に申し訳ありませんでした。本来でしたら本人に謝罪させるのが筋かとは思いますが、これ以上ご不快な思いをさせるような事は出来ず、代わりに謝罪させていただきたいと思います。本当に申し訳ございませんでした」
二人は深々と私に向かって頭を下げてきた。こんな風にいきなり謝られるとは思わなくてかなり焦った。しかもずっと頭は下げたままだ。
思わず貴族って頭下げたりするんだとか考えてしまったけど、私の貴族に対する偏見だろうか。もちろん本物に会ったことなんてないから小説とかのイメージだけなんだけどね。
「あ、いえ、はい、謝罪は受け入れます。なので頭を上げて下さい」
こう言うしかない。私の言葉に二人はやっと頭を上げてくれて、その後は座って少しお話をすることになった。
あのクラウスの家族だからと思っていたけど、まともそうな人達みたいだった。だけどね、私に何か希望や要望があればできる限りかなえたいと言われたけど、急にそんなことを言われても困る。とりあえずクラウスという人にはもう会いたくないということは念押しして伝えておいた。
しばらく話は続いたんだけど、私は長居するつもりはなかったので早々に帰ろうとした。だけど挨拶をして立ち上がろうとしたその時、扉が勢いよく開いた。デジャブ?
「賢者の孫はここか!」
おーい、またかい。さっき私、二度とこの人に会いたくないって言ったよね。言ったよね?
向かいに座る二人を含めて私とアルク以外はみんな顔が青くなっていた。
扉を開け放ったクラウスの後ろには「駄目です、戻って下さい」と引き留める人達がいたけど、本人はそんなのおかまいなしだ。私を見つけるとまっすぐこちらに向かってきた。ものすごく怖い。
「クラウス! お前は家で謹慎だと言っただろう! 何故ここに居る? リカ様にこれ以上の無礼を働くつもりか!」
マリウスさんの立ち直りが早かった。すぐに私の前に立ってクラウスからかばってくれる。アルクも私の横にいた。
「兄上、そこをどいてください。私は覚悟を決めたんです!」
何やらよく分からないけど真剣な顔をしたクラウスは尚も私の方へ向かってこようとした。
マリウスさんの指示で警備の人達がクラウスを取り押さえようとしたんだけど、さすがは騎士志望? 警備の人達を振り切って、一気に私の近くまでやってくると、突然跪いて言ったのだ。
「俺と結婚しろ!」




