表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

209/215

209




「あー、その、そろそろいいか?」


 どのくらいそうしていたのか、ぎゅうっと抱き着いていたアルクから少しだけ顔を上げてみると、しびれを切らした様子のベル様がこちらを見ていた。他にも少し困った顔の陛下に泣きそうな顔で笑っているマリーエさんやエミール君。殿下やロイさんは少し呆れ気味にこちらを見ている。


 せっかくアルクを堪能していたのにって、ちょっと不満だったけど仕方ない。私はアルクの背中をポンポンして離してもら……えなかったので向きだけ変えた。


「ええーと、ただいま、です」


「ああ、おかえり……じゃなくてだなぁ、お前アイツに刺されたそうじゃないか。大丈夫なのか、というかなんだそれは? その体はどうした!?」


 ベル様の言うアイツは、ノーマイーラのことだろう。刺された時は誰だろうって分からなかったけど、記憶を見たアリア様とお兄さんが教えてくれた。それであの時の彼女の言葉の意味が分かったんだけど、まさか自分が標的になるとは思わなかったのですごく驚いた。


 あとベル様への執念がすごいって思うけど、確か埋められてたはずだよね。何でここに居たんだろうって不思議だった。


「体は無事じゃなかったです。なのでこうなりました。ただ私、こっちが本体らしいんですけどね」


 私の場合、精霊体といってもキラキラしているとかフワフワ飛んでるとかがない。人の時と違いがあまりなく、自分で鏡を見てもよく分からなかった。たぶん色々出来ると思うけど、どうやっていいのかもよく分からなくて、お兄さんには「人でいた感覚が抜けてないんでしょうかねぇ」なんてことを言われた。なので今度アルクに教えてもらおうと思っている。飛べたら落ちなくてすむよね。


 私は刺されてからのことをみんなに話した。ただ、ここにはベル様以外にフランメルの人がたくさん居るから、ベル様の事情は伏せておく。だってねぇ、ベル様はこの世界の神様みたいな存在だし、そんな存在の身内とかお仕事や個人の事情なんてものを聞かされるのってどうなのかなぁと思ったのだ。困るだろうしベル様だって嫌だろう。現にベル様は余計なことは話していなかったしね。


 そんな訳でアリア様やお兄さんのことは言わずに精霊体になった私は偶然助けられて戻ってきたことにした。で、その際に小さい頃の記憶を取り戻したり、私が元々精霊体が本体だったことを知ったとも話したんだけど、みんなぽかーんとして驚いていたよ。


「またなんというか想定外なことに……」


「リカ様が精霊様……」


 一部は呆れたように、一部は何故かキラキラとした顔を私に向けてきた。まあ「賢者様とサクヤ様のお孫様ですからねぇ」と納得はしていたようだし、とにかくみんな私が無事で良かったと喜んでくれた。うん、あんまり無事ではないんだけどね。


 あとマリーエさんは、また私を守れなかったってすごく落ち込んでいたし物凄い勢いで謝られたんだけど、あれは状況的に仕方ないって思う。それに普段の町中とかたまにいる変なのもしっかり撃退してくれるし、ダンジョンでいつも十分に守ってもらってる。


 そしてみんなが落ち着いたところで、私はさっきから気になっていたことを聞いてみることにした。


「ところで、その黒くてウネウネしてるの、何?」




     ◇




 黒いウネウネはなんとノーマイーラだった。


 いやびっくり。


 だってなんだか動いてる変なものがあるなぁって、ずっと視界に入って気になっていて、だから塊を指さして聞いてみたら、みんなが一斉にアルクを見たんだよ。


「え、アルクが何かしたの?」


 私は振り返って聞いたら「……あれはリカを刺した女だ」とアルクが言った。


 それを聞いて初めてそれがノーマイーラだって分かったんだけど、何をしたらああなるんだろうって思った。だって原型がない。でも見ていたら、なんとなく手らしきものが出来てきたので元に戻ろうとしてるのかなってことに気が付いた。そうか、死なないんだっけと思い出してベル様を見たんだけど、ベル様はものすごく嫌そうな顔をしていた。


 とりあえず私が刺されてから多少の時間は過ぎていたらしく、現場は酷い状態なので一旦無事な天幕に戻ることになった。


 そして少し落ち着いて今は話し合いをしているんだけど、相変わらず私はアルクから離してもらえないので抱き込まれて一緒に座っている。ただもう今更で恥ずかしさもないし、周りも何も言わなかった。


 私は改めてあの時の状況などを聞かれて説明をした。アルクも色々と確認されたりして、そしてそれが終わると少し遠慮がちに「まだ力を貸してくれるつもりはあるだろうか」とベル様が私に聞いてきた。


 天幕中の視線が集まって妙な緊張感が漂う。あんな目に合って「もうやだ、やらない」なんて、私が言い出すかもと考えたんだろう。


 確かに殺されそうになってまで頑張る必要があるのかって思わなくもない。他にも出来る人が居るななら私はさっさと逃げ出していただろうけど……現状、いないんだから仕方ないよねぇ。


「協力は続けるつもりです」


「では、儀式続行の意思があるということでいいのか」


「はい」


 アリア様達にも頼まれたしね。


「そうか、それは助かる」


 ベル様にお礼を言われたし、私の言葉でまわりの空気が一気に緩んだ。陛下達はとても喜んでいたし、少し私を心配するような顔もあったけど、みんなほっとしていたように思う。逆にアルクは非常に不機嫌だったけど、これはいつものことだ。ポンポンと腕を叩いて私はアルクを落ち着かせた。


「しかし、すぐにも再開したいところなのだが思った以上に被害が大きい」


 頭が痛いというようにベル様は溜息をつく。舞台や周辺の状態はあの有様だし、怪我人も多数いるという。


「え、じゃあポーションを」


 怪我人と聞いてポーションを提供しようと思ったんだけどね。


「ありがとうございます、しかしそれには及びません」


 そう言って陛下がロイさんを見た。


「はい、以前リカ様からポーションはかなりの数をいただいていますので、充分足りております」


 既に手配済みだと傍らのロイさんが教えてくれた。幸い死者は出ていないと聞いてほっとしたけど、一番無事じゃなかったのが私なんだなぁって改めて思う。私がターゲットだったし、周りは巻き添えってことだよね。なんだかなぁ。


「今回は想定外のことが起こってしまったが次は万全の態勢で臨みたい」


 ベル様はなんだかとっても疲れた表情でそう言った。まあ邪魔されるなんて思っていなかっただろうし、現れたのがあの元凶だ。下手をすれば私は死んでいて何も出来ずに終わっていた可能性だってあったし、ベル様もショックが大きいのかもしれない。


 そして別に舞台が壊れていようが私がやることに支障はないはずなんだけど、「確認しなければいけないことがあるから」という理由で儀式はしばらく延期することになった。何を確認するんだろうねぇ。



 話し合いの後、ベル様からは話がある言われて残ったら改めて謝罪された。


「ノーマイーラのことを甘く考えていた。私の管理不行き届きだ。申し訳ない」


 ノーマイーラが悪いっていうのは分かってるし、ベル様も被害者だってことは知っている。ただそうだね、もうちょっとちゃんと管理はして欲しかったとは思う。


「はい、そうですね。今度はちゃんとして欲しいです」


 箱に入れて埋めるとか、やっぱりどうなのって思うよ。


「ああ、そうだな」


 ベル様はしっかり頷いてくれた。背後では相変わらず不機嫌そうな気配と「フンっ」て声がしたけど、それ以上は何も言ってこなかった。どうどう。


 でね、私はここでアリア様やお兄さんに会ったことを話した。


「は?」


「呼びかけたのに返事がないって、アリア様怒ってましたよ。何してたんですか?」


「はぁあ?」


 いあやもうベル様びっくりっていうか、なんでって顔をして困惑していた。なので経緯を説明したんだけど、まさか家族がそんなことをしていたとは思っていなかったようだ。ベル様はすごく驚いていたんだけど、不思議だよね。すごく家族仲は良さそうだったし、そこまで驚くものかなって思う。


「いやその、まあ、母上はあのような方だし、兄上達とも仲が悪い訳ではないが……仕事に関してはお互い不干渉だったし、私は家を出てからはあまり会ってもいなくて……」


 何やらまだごにょごにょ言っていたけど、ベル様はちょっと嬉しそうだった。どうやら末っ子は甘え上手ばかりじゃないらしい。


 それから私はお兄さんから聞いた話や預かった伝言などを伝えた。


「なるほど、状況は理解した。しかしお前には本当に世話になるばかりだな」


「そうですねぇ。私がピンチの時はぜひ助けて下さいね」


 私がそう言うと、ベル様は珍しく少しキョトンとした顔をしたあとに笑って頷いてくれた。


「ああ、そうだな、もちろんだ」


 ベル様も早く家族と会えるといいねって思っていたら、背後から「お前の助けなどいらない」って呟く声が聞こえてきた。まったくもう……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ