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「えーと、ベル様がここに居る理由はだいたい分かりました。だけどそこに私がどう関係してくるんですか? どうやってここに来たのかも私はよく分かってないんですが……」
「ああ、ここへ辿り着いたのはその指輪の力だ」
「指輪? このダンジョンで見つけた呪いの指輪のことですか?」
そう聞いたら「いや呪いってなんだ」と笑われた。
「それはここへの通行証のようなものだ。しかし城のものではなくダンジョンで見つけたというのは……」
なんだか不思議そうにするベル様。何かおかしな所でもあるんだろうかと思いながらも、ベル様が黙ってしまったので私は質問を続けた。
「じゃあ、この指輪をして扉を出したからここに繋がったってことですか?」
「ああ。普通は入り口からだが、外界から直接来たのだろう? お前は元々、異界を渡る力があるからそれが可能だったのだろう。しかし通常以上に力が必要だったはずだ。その指輪はお前の力を留めて蓄える役割もしているから、おそらくその力も使ったのだろうな」
へー、そんなこと出来るんだこの指輪。そう思って改めて眺めてたみたけど、あまり特別な感じはしなかった。
あとここへ来る前にも扉は使ったよねと思ったけど、「お前がここへ来たいと願ったのではないのか?」と逆に聞かれてしまった。別にそんなこと願った覚えはない……と否定しようとして、そう言えばあの時、「どこでもいいから別の場所に行きたい」なんてことを考えたような、となんとなくだけど思い出した。なるほど、そういうことなのかな。
「そう言えばこの指輪、外れないんです。私の前に指輪を付けた人はこんな風にならなかったのに」
「ふむ、それは私も聞いたことがないな。適性だろうか。お前の力の強さや異界を渡る力に反応したのではないか」
えー、それで外れなくなるとか困るんですけど。それになんだか結構いい加減な回答だよねって思う。
「こういうアイテムってベル様が作ったんじゃないんですか?」
「いや、私ではない」
そういえばさっきもそんなこと言っていたなと思ったけど、ベル様はモノ作りは専門外だそうで、アイテムの作成には担当者がちゃんと居るらしい。ただエネルギーの供給がなくなった後は生成システムも色々とおかしくなっているらしく、じゃあこの指輪もイレギュラーなのかなって聞いてみたら「分からん」って返された。うーん。
あとダンジョンのデザインなどにもそれぞれ担当が居るというから、それは是非コンセプトなどを聞いてみたいものだと思う。
それにしても力を留めて蓄える、だって。なんだかイメージ的には指輪じゃなくて瓶の蓋とかコルクみたいなものを想像してしまうんだけど、いつもはこういう力って自然と体外に放出してしまっているらしい。なのでそんなものを留めて体に影響ないのかってちょっと心配になってしまった。
「そうだな、体内に熱が籠る感覚があるらしい。怠くなるようだぞ」
確認したらやっぱり影響はあるらしい。怠いの嫌なんですけどー。そう文句を言ったら「一時的なものだから我慢してくれ」だって。
「つまり、あれですよね、その蓄えた力でこの状況をなんとかしようってことですよね?」
「理解が早くて助かる」
えー。いやいや、いくら蓄えたって無理でしょ、そんな膨大なエネルギーの代わりとか。
「綻びが出来ればそれでいい。お前の持つ力の性質ならそれも可能だろうと考えている」
「はぁ……いやでもやり方とか知らないですし」
「それはこちらでなんとかするから心配ない」
むう、つまりあれか、私に蓄電池になれってことだよね。普通はそんなに長く指輪をすることはないらしいんだけど、力を借りたいからしばらくそのままで居て欲しいって……いやだから指輪が外れないって言ってるんだし、ほぼ強制だよね、これ。もうっ!
「それで、私はどのくらい力を溜めればいいんですか?」
「ふむ……お前の器は大きいようだから、かなり溜められそうだな。もう数日はかかるだろう」
私を見て満足そうに頷くべル様。なんでも個人で蓄えられる容量に限界があるらしく、私はそれが他よりも多いらしい。なので出来るだけ頑張れとのことだったけど、え、それって大丈夫なのかな……すっごく不安。
私は怠いの嫌だなって思ってぐちぐち言ってたんだけど、そこであれってちょっとおかしな事に気が付いた。
「あの、フランメルって閉じられてて外界と遮断、されてるんですよね?」
「そうだな」
「じゃあ、私が扉で行ったり来たりしてるのって何なんです? それにベル様も私の扉を使えばここから出られるんじゃ……」
そうだよ、何でこんな事に気が付かなかったんだろう。私の力を溜めて云々よりも早くて簡単じゃない。それともベル様は私の扉が使えないとか何か特殊な事情でもあるんだろうか。まさか気付いてないってことはないと思うけど……。
「お前の力は非常に特殊だ。この世界と行き来出来る時点でおかしい」
ええ、なんかおかしいとか言われたし。協力しないぞってちょっとムッとしてしまう。
ベル様が言うには、偶然、別の世界を訪れてしまう迷い人と違って、自分の意志で世界を行き来できる「渡り人」と呼ばれる存在は本当に希少なんだそうだ。私の場合はこの世界だけだけど、これだけ自由に出入り出来るのは珍しいことで、加えてこの世界は閉じらてる状態な訳だし、珍しいよりはおかしいだろうって言われた。
「それに確かにお前の扉を使えば私はここから出られるだろう」
「だったら……」
「しかし、それでは駄目なのだ」
うん? どういうことだろう。
「例え私がここから出られたとしても、こちらの状況は何も変わらない。それでは意味がないのだ。私のチームの不祥事でこんな状況になってしまったからには、私は責任者としてこの世界を正常な状態に戻す義務がある。このままにしておくことは出来ない」
あー、そういうことかぁ。
「それにな、こんな状態のまま帰ってみろ、何を言われるか分かったものじゃない。しかも遮断されているとはいえここまで何のアプローチもないんだ。失敗したとみなされて上層部には見捨てられている可能性だってある。その状況で何かしらあちらで手段を講じたとしても、実行に移せる保証もない」
頭のおかしい部下に冷たい上層部って……なんか中間管理職の悲哀のようなものを感じる。ベル様被害者なのに可哀想。
そしてベル様は、私がこの世界を訪れたことは奇跡なんだと言うんだよ。
ここが閉じられてから迷い人の訪れもほぼなくなったけど、何かのはずみでこちらに来てしまうってことはあるらしく、そういう人にはもしかしたら世界を渡る力があるかもしれないとベル様は考えた。
限りなく可能性は低くかったし、例えその力があってもそれがこの状況を変えるだけの力かどうかも分からない。だけどベル様はそのわずかな可能性を期待して待ち続けた。そうしてついに現れたのが私なんだって。
「こんな機会はもうないだろう。どうか協力して欲しい」
そう言ってベル様にお頭を下げてお願いされてしまった。
まあそういうことなら協力はするけど、なんていうかさぁ……。
「この指輪を見つけたのも、私が指輪を付けたのもたまたまだし、随分と偶然に頼るんですね。それに私みたいな力が必要ならおじいちゃんだって良かったんじゃないですか?」
さっきのような話の内容の割には必死さがないというかのんびりしているというか。私がこちらに来てから結構経つし、おじいちゃんに至ってはもう何十年も前のことだよね。それともこのくらいはベル様にとっては誤差でしかないんだろうか。
「いや別に偶然に頼った覚えはないのだが……。しかし、お前以外にも同じような力を持つ者がいるのか?」
あれ、知らないんだ。
「私よりだいぶ前にこの世界に来ていましたよ」
「それはおかしいな。城の者達にはそういう力を持つ者が現れたら教えろと伝えてあったはずだが……」
おや?
「あの、ベル様との連絡手段ってどうなってるんですか? ここはフランメルに繋げてあるって言ってましたけど……」
「ああ、城に入り口がある」
「お城……じゃあお城の人はここに来れたりするんですか?」
「そうだな、指輪とある程度の力があれば扉の力がなくとも入り口から入れる。力が足りなくても私を呼ぶことは可能だし、私が招くことも出来る」
おやぁ、ベル様の所に行けるなんて話は聞いてないし、そもそも会えるとか生きてるなんてニュアンスのことは言ってなかったよね。ただ秘密にしているだけなんだろうか、それとも……
「あのー、ベル様が最後にお城の人に呼ばれたり会ったのっていつですか?」
「最後に……王位争い後に何度か城に行ったが、その後に呼ばれたのは……そう言えばないな」
ベル様はうーんって顔して答えてくれたけど、自分の言葉にあれぇってなってた。これはもしかしてって思う。うん、陛下達に確認かな。




