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 ――ベルスベディア?



 うーん、どこかで聞いたことがあるような……


 え、あれ、それってまさか……



「初代様?」


 半信半疑で言ったのだけど。


「ふむ、そう呼ばれるのも久しいな」


 まさかのご本人らしい。


 ベルスベディア・フランメル……フランメル建国の王で神の使徒、だっけ?


 いやいやいや、え、本当に?


 詳しくは知らないけど、相当昔の人だよね。あ、いや人ではないのかな、在位が二百年とか言ってたし。あと神格化されて祀られてたよね、と神殿で見た石像を思い出したんだけど……そうか、どこかで会ったことがあると思ったのはあれか。


 私はまじまじと目の前で優雅にお茶を飲む初代様を眺めてしまった。本当に存在したことにびっくりだし、まさか会えるとは思わなかった。へー。


「……で、ここってどこなんですか?」


「いやお前……もう少し何か他に言うことが……いやいい」


 何だかちょっと残念そうな顔をされたんだけど、私は十分驚いてますって。ただ驚きすぎてどうリアクションしたらいいのかが分からないのと、色々と不思議体験はしているので多少耐性があるというか慣れたっていうか。それにここで一人で大騒ぎするのもなんか違うなって。


 そんな私に少し不満そうな顔をした初代様はとっても人間くさく見えた。


 でね、そう言えばと思って私も自己紹介してみた。誰って聞いておいて私も名乗ってなかったことに気付いたんだよ。散々身の上話(?)をした後だし、もしかしたら知ってたりするのかな、なんて思ったけど「知らん」って返されたし。


 で結果、何故か「私のことはベルでいい」と言われたんだけど、ベルスベディアは本来の名前じゃないそうだ。実際はもっと長くて複雑で、私には発音も難しいらしい。アルクと一緒だ。一応「さん」付けもどうかと思うので、私は「ベル様」と呼ばせてもらうことにした。


 ちなみに「ベルスベディア・フランメル」って呼ばれてるけど、フランメルは勝手に後付けさられたんだそう。国名がフランメルだからなんだけど、「この地をフランメルと言っていたのがそのまま付いただけなんだが……本来はこの世界の名がフランメルだったんだがなぁ」だそうで、国名はまさかの解釈違いで付いたものらしい。陛下は知ってるのかね、これ。


 しかし世界の名前だって……やっぱりベル様って……


 ああそれで今居るこの場所の事ね。


「ここはフランメルであってフランメルでない場所、だな」


 意味不明。どっちなんだろう。


「出入口はフランメルに繋げてあるが、場所的には切り離した空間になる」


 うーん、きっとすごく難しい話だと思うので、ふわっとしたイメージで理解したことにしておこうと思う。つまりあれでしょ、収納鞄を大きくしたようなもの、だよね。


「……まあ、それでいいのではないか。しかしその理解の仕方なら、さっきお前が話していたダンジョンも似たようなものだぞ」


 へー、やっぱりそんな感じなんだ。予想はあってたみたいだよ、ロイさん。


 あとね、補足としてここの時間は外と同様に流れていると教えてもらった。はっきりいって全然そんなこと考えてなかったけど、気が付いたら浦島太郎なんて怖すぎる。


「それで、どうしてここに居るんですか? ここがお住まいなんですか?」


 なんだかそうは見えないんだよね。住環境には適さなそうというか。あ、でもさっきみたいに手を一振りすれば色々出せるんだから大丈夫なのかな。それとも、そもそも何も必要ないとか。


「いや、ここは住まいではないさ。私も戻りたいんだがなぁ……」


 そう言って遠い目をするベル様は、哀愁を帯びた表情で「まあ聞け」と静かに語り始めた。



「――その昔、私達はこの地に降り立った。詳しくは言わないが、別世界の崩壊により救済された者達の受け入れ先のひとつとして作られたのがこの地、フランメルだ。とは言え作り立ての何もない世界だったからな、まず人の住める状態にする必要があった。私達は大地を整え、大気を調整し、土壌や水質を植物や生物の育つ環境に整え、その後に人々をこの地に移すことにした」


 ……はい?


 えーと、どこから突っ込めばいいのか分からないけど、かなり壮大なお話だ。驚きすぎて言葉も出ないし、現実感がまったくなくておとぎ話としか思えない。


 世界の崩壊にその受け入れ先に作られた新しい世界? 環境を整えるとかなにそのテラフォームみたいなのって思うし、建国どころじゃないよね、まさに神様の御業、天地創造じゃない。ほえぇ。


 私の様子を横目で見ながら、それでもちゃんと聞いていると思ったのかベル様は話を続けようとした。これ以上何を聞かされるんだろうか。というか私にこの話をする必要あるのって思うんだけど……さっきまでの私の話とのレベルが違い過ぎる……。


「移り住んだ者達は住む場所から作らねばならなかったが、救済されたことを理解していたのでとても勤勉に働いた。私達はそれを見守り、請われて力や助言を与えることもあったが、それもある程度のところで切り上げてこの地を離れる予定でいた。しかし……そこで想定外の事が起こった」


「想定外の事、ですか……?」


「ああ、私達のチーム内で予期しない行動を取った者がいた。時期が来て、我々は順番にこの地を離れていき最後に私とそいつが残ったのだが……あろうことかそいつは、この世界を内側から閉じたのだ。その結果……私はこの地に留まざるを得なくなった」


 ベル様はずーんって感じの重く沈んだ表情で大きなため息をついた。えーと、つまりそれは閉じ込められたってこと、なのかな? ああ、それで「戻りたい」なのか。


「えーと、閉じたならまた開けることは出来ないんですか? それに仲間だったんでしょう、なんでまたそんなことをしたんですか?」


 内側から閉じたとベル様は言った。つまり、その閉じた本人も一緒にここに閉じ込められてるってことなんじゃないかと思うんだけど……でも、だとしたら行動の意味が分からないよね。


「仲間と言ってもなぁ、そいつはチームの一員ではあったが私はそもそも面識はなかったし、仕事上も接点は少なくて顔を知る程度の関係だった」


 なんかね、ベル様はお仕事でここに来たんだって。ちゃんと「とある場所」から依頼があってそれに従って世界が創造されて、その世界を整えるのをベル様を責任者にして組まれたチームが行ったんだそうだ。


 ベル様もチーム編成には多少関わったそうだけど全部じゃないし、結構人数もいて末端になると直接会話する機会もほぼなかったようなんだよね。で、そんな末端がやらかした事件らしい。


 いやなんていうかさ、そうやって聞くと物凄く普通のお仕事っぽいし、何かのプロジェクトみたいとか思えるけど内容が内容だからね。なんていうか、うーん……


 私は一応「ベル様って神様なんですか?」って聞いてみたけど、すごく曖昧な答えが返ってきた。「神の定義にもよるな」だって。しかもベル様には上司もいるし、もっと上にも色々いらっしゃるんだそうだ。さっきの「とある場所」もどこさって思ったけど……あまり深入りはやめておこうと思う。知らなくていいことはきっといっぱいあるはずだ、うん。


 話を戻すけど、私の予想通りにここを閉じた本人もまだこちらに居るという。一体何がしたかったんだろう。


「何故そんなことをしたか、だが。そいつは言ったんだ、『これで私とあなたの二人の世界だ』と。仕事上、私は部下の顔と名前は把握していたが、そいつと会話したことすらなかったんだぞ。それなのにあんな手段に出るとは……まったくの想定外だ。チームに入る前から私に執着があったと一方的に聞かされたのだが……はぁ、理解に苦しむな」


 ――は?


 はぁぁ?


 なにそれ。あまりにも壮大な話だったのに、ええー、まさかの恋愛絡み? うそぉ。


「いや、そんな目で見るな。こちらは本当に困っているんだぞ」


 ベル様はそう言うけど、それにしたって、ねぇ……?





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