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沈んだ気持ちのまま日々は過ぎ、ヒナちゃんがやってくる日になった。
今日のメンバーはマリーエさんとエミール君、ロイさんと騎士団長、そしてヒナちゃんとアルクと私だ。こうして予定がある時はちゃんとアルクは家に居る。
騎士団長はここしばらくは真面目に仕事を頑張ったと言って副騎士団長に許可をもらってきたそうだ。どっちが上司なんだかって不思議に思う。
あとロイさんを迎えに行ったらギルベルト殿下がずるいずるいと相変わらず喚いていて、彼は今日も執務があるとかで見送りだった。なんだかどんどん幼児化してないかって思うし、そんな恨みがましい目で見られても困る。
さて、あれから二度ほど探索はしたけど二十三階層はまだ攻略できずにいた。あとアイテムも全然出ていない。なのでみんな今日こそはと張り切っているし、そろそろ何か出てもいい頃じゃないかとは私も思っている。
という訳で、れっつダンジョン!
気合十分で向かったダンジョンは最初から魔物もそこそこ出てきているけど問題なく倒して順調に進んでいた。だけど、気になる点がひとつ。
何故かアルクとヒナちゃんの距離が近い……ような気がする。
なんだか気が付くと二人で話してるんだよ。今までそんなことはなかったし、だから余計に気になるんだろうか。
何を話しているのかなと思ってヒナちゃんに聞いてみたんだけど、「え、あーっと……新しいケーキ屋さんの話とかですよ」だって。絶対それだけじゃなさそうだし、ごまかされた感じがする。
私はちょっとモヤモヤしてしまい、だけど次の瞬間ヒナちゃん相手になにやってるんだろうって反省した。少しアルクのことに敏感になり過ぎているのかもしれない。
そうして一人落ち込みながら歩いていたんだけどね、最近のメンタルの低迷でどうも調子が悪く、更に頭痛までしてきて私は思わず溜息をついてしまった。ほんと、最悪。
「大丈夫ですか? どこか具合でも悪いのですか?」
マリーエさんが心配そうに声を掛けてくれた。ああ、いけない。
「ううん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
私はそう言ったんだけど余計に心配そうにされてしまった。あとアルクもやってきて「どうした?」って顔を覗き込まれるし……心配されるのが嬉しいなんて別に思ってないから。
結局アルクがあまりにも体調を気にするものだから、私はその場でポーションを飲むことにした。外傷がある訳じゃないからほんの少しね。効果はすぐに出て頭痛は治った。だけどさすがにメンタルまでは回復しなくてポーションも万能じゃないんだなって思う。
いや十分に凄いんだけどね、欲深い私はついもっとイイモノを求めてしまうというか。
それでふと、また何か混ぜて「気分が上がる薬」でも作れないかなーとか考えたんだけど、いやそれはちょっとやばい薬っぽいなと思い直して留まった。あ、でも蘇生薬なら……いや、自制自制。
まあそんな莫迦なことを考えたおかげか、少ーしだけ気持ちも浮上してそのまま探索を続けることにしたんだけど、こういう時に「みんなで勝手に探索行ってきてねー」って出来ないのはやっぱり不便だなと思う。扉の使い勝手向上、なんとかならないものかなぁ。
そして進んで行った先で、またもや見つけちゃったんだよね。
今度は竹じゃなくて箱だった。
別に光っている訳じゃないし特別な感じもしない黒い箱。
「お、何だ宝箱か?」
「いつもの箱とは少し雰囲気が違いますね」
「確かに、装飾もないし簡素です」
「それに、二つもあるなんて。こんな事は初めてではないですか?」
そう、箱は二つ並んで置いてあったんだよ。しかも何故か大小の大きさ違い。黒い箱ってだけで私にはイメージが良くないし警戒してしまう。
「まあいいからとりあえず開けてみようぜ」
「開けてみよー!」
だけどそんな私の思いとは別に騎士団長は既に箱に手を掛けていたし、久々のアイテムの予感にみんな開ける気満々だった。
だけどうーん、何だっけ。大小の二つの箱ってどこかで聞いたことがあるような気がするんだけど……
あれ、これってもしかして……
「ちょっと待って!」
◇
私の静止は間に合わず、箱は開けられてしまった。
しかも大きい方が……
そして私の悪い予感は当たって、また例の黒いものが箱の中から出てきたんだよねぇ。はぁ。
黒い塊は魔物に変わり次々と私達に襲い掛かってきた。まるで竹の時の再現だ。ただ魔物の性質は前回と同じだと早々に分かったのでさっさと対処して戦闘時間は短くできた。だけどやっぱり数が多いのと最後のミミズがムカデに変わってより強暴になり、そちらに時間をかけることになってしまった。
いやもう怪獣だよね。暴れまわるムカデはダイナミックに動き回って私の方にも向かってくるんだよ。杖で防御してるし、ちょっとやそっとじゃ破られないとは分かっていてもあんなのが近付いてきたらもう全力で逃げたくなる。「やだやだ来ないで―、キャーっ!!」って叫びまくったし、本っ当にめちゃくちゃ怖った。
まあムカデは倒せたし、途中のポーション補給もあってみんなには怪我もなかった。私としてはこんな戦闘もう嫌だって思うんだけど、前回参加できなかった騎士団長とヒナちゃんは喜んでいたし、他のアルク以外の三人も満足そうだった。この温度差はなんなんだろう。
それにしても前回といい魔物はどうして最後に大きくなったんだろうね。最初から巨大化して更に数匹出てきたらさすがにみんなでも倒すのは厳しいと思うんだけど……何か大きくなる為の条件とかあるんだろうか。
でね、今はもう一つの小さい箱をどうするかの相談をしているところだ。
「あの、リカ様は先ほど箱を開けるのを止めようとしていらっしゃいましたが、何かこの箱について知っていらっしゃるんですか?」
「ああ、別にそういう訳じゃないんだけど、私の世界のお話を思い出してもしかしてって思ったんだよ」
「お話ですか。先日の「かぐや姫」のような?」
「うん、大きいつづらと小さいつづら、あ、「つづら」っていうのは竹で作った箱のことね。それが出てくるお話があったなぁって」
「あ、それってもしかして「舌切り雀」ですか?」
「そうそう、ヒナちゃんよく知ってるね」
ヒナちゃんはこの話を知っていた。昔おばあちゃんに昔話はいっぱい聞かせてもらったのだそうだ。
「確かお爺さんが可愛がっていた雀がお婆さんの洗濯ノリを食べちゃって、怒ったお婆さんが雀の舌をハサミで切っちゃうんですよね。で、どこかへ行ってしまった雀をお爺さんが探しに行ったら雀のお宿があって歓迎してもらって、それで帰る時にお土産のつづらをもらうんでしたっけ?」
「そう、大きいつづらと小さいつづらがあってどちらがいいか聞かれるんだけど、お爺さんは重いのは持って帰るのが大変だからって小さい方を選ぶんだよ。で、家に帰って開けてみたら金銀財宝が入っていたんだけど、お婆さんはどうして大きい方にしなかったって怒るのね。それで自分が行って大きい方をもらってくるって出掛けるの。それで雀に会えたお婆さんもつづらを選ばせてもらえて、もちろん大きい方をもらって帰るんだけど、途中で気になってつづらを開けちゃうんだよ。すると中から化け物が出てきて逃げ帰るっていうお話」
自分で話していて色々突っ込み所がある話だなぁとは思うけど、昔話だからね。どうしてって聞かれても答えられないからあまり追求はしないで欲しい。
「つづらは大きい小さいじゃなくて重いのと軽いのって場合もあるらしいけど、私が知ってるのは大小バージョンかな」
「ふむ、なかなか面白いですね、リカ様の知る話を連想させるようなことが続くというのは」
まあ竹には女の子も宝物も入っていなかったし、ただ竹が光ってたってだけ、大きさ違いの箱があっただけ、とも言える。言えるんだけど……ただの偶然、というにはちょっと疑問があるのも確かなんだよねぇ。
「で、この小さい箱、どうする?」




