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ついに、ついにやってきました城下です!
いやー、長かった。先日「王都見学に行く!」って宣言したんだけど、やっと実現した。
結局ギルベルト殿下は来れなかった。本当はみんなの説得もあって予定を合わせて一緒に行こうって事になったんだけど、直前でトラブルがあって行けなくなったのだ。
「別の日に……」
なんてことも言われたけど、延期なんてしないよ。私がそう言ったら殿下はしょげていたけど、もう待たないって決めてたからね。
でもそうしたら何故かエルンスト殿下が付いてきた。ガイルからお城の私に用意された部屋に行ったらね、そこに殿下が待っていたんだよ。なんで?
「親睦を深めたいと思いまして」
本人はそう言うけど……いやこちらとしてはあまり仲良くなりたいとも思っていないし、出来れば距離を置きたい。一緒に出掛けるとかしたくないんだけどなぁ。だけどそうはっきり断る事も出来なくて……もう、なんでこうなるかなぁ。
そういう訳で本日のメンバーは私とアルク、マリーエさんとエミール君、そして殿下だ。残念ながらヒナちゃんは不参加。しばらくは学校の行事などが続くらしく、こちらに来れるのは少し先になるとすごく残念がっていた。
ロイさんは……どこ行ったんだろう。まあいつもみんなで行動という訳でもないから別にいいんだけど、最近姿を見ていないのでちょっと気になったり。まだ薬草の研究してるんだろうか。
いやそれにしても銀髪美人が二人もいると迫力がある。アルクはフェミニン系美人、殿下は怜悧なクール系で方向性の違う綺麗さだし本人達は何とも思ってないんだろうけど、目立つものは目立つ。なのでアルクにいつものように術で気配を薄くしてもらった。
さて、今日は初めての王都巡りということで王道の観光コースをまわることになっていた。
私がお城から出て王都に降り立った時の初めての感想は「都市だなぁ」だ。さすが国の中心というか、まず建物がどれも立派で大きく存在感がある。メインストリートの両端にはどこまでも整然とした建物が並び道も綺麗に舗装されている。店の数も種類も沢山あって行き交う人の数もとても多く、何というかこれまで見てきた町などとはあきらかに規模が違うのだ。
あと今までは地方色が強く、どこかのどかな雰囲気の場所を多く見てきたけれど、ここはそのどことも違う雰囲気があって洗練された美しさなんてものも感じられた。
「なんていうかすごく栄えてますね」
「陛下の御膝元ですからね。人が集まりますし物流も盛んです」
殿下は王都の整備などにも関わっているようで色々と教えてくれたんだけど、どこか誇らしげというか、私達が感心したり褒めたりする度に嬉しそうにしていた。
私達は時折気になった店を覗きながらのんびりと進んだ。
「アルク殿の力は素晴らしいですね。こんなに注目されずに歩けるとは思いもしませんでした」
そう、私達は本当は馬車でと言われたけれど、それを断って歩きで観光をしていた。殿下を歩かせるのっていいのかなーと思わなくもないけど、本人も楽しんでいるようなのでいいことにしよう。町歩きは良い。
しばらく通りを進み、私達は広場にある鐘楼に向かった。
「おお、高い」
見上げる高さの塔は王都のシンボルとなっているそうだ。有料で登れるようにもなっていて、王都を一望できるという。なので私達も入場料を払って一般の人達と一緒に登ってみることにした。残念ながらエレベーターなどはないので階段だけど、ダンジョンで鍛えたのでこれくらいはへっちゃらだ。ふふん。
「貸切にしなくてよろしかったのですか?」
殿下にそう聞かれたけどそんなの必要ない。特権階級の彼は不思議そうにするけれど、迷惑を掛けたい訳ではないのでそういうのはすべてお断りしていた。
「すごーい! 良い眺め~!」
登り切った塔の上階はぐるっと周囲が展望エリアになっていて素晴らしい景色が広がっていた。
鐘楼の正面、メインストリートの先にはそびえ立つ城が見える。外観は白い壁と青い屋根や塔が並び、優美でありながら歴史や重厚さも感じる。うん、やっと全貌を見る事が出来てなかなか感慨深い。しかしあそこで短い期間とは言え寝起きしたり生活したんだなーと思うと不思議な気分だ。
そのまま今度は反対側に行くと、王都の街並みが良く見えた。広場から放射線状に広がる道と建物の屋根はどれも青く、整然と並ぶ様子はとても美しい。高い建物なんてこの鐘楼以外にないから遠くまで良く見渡せるし、眺めは最高だった。これは登った価値は十分にあると思う。
その後は劇場や役所などの歴史ある建物を見学したり、有名な芸術家が監修したという噴水を見たりと観光を続け、あっという間にお昼になった。
「本当にこちらでよろしいんですか?」
どうやらお昼は一度城に戻るつもりだったらしい。殿下に確認されたんだけど、私には行ってみたいお店があったんだよね。
「はい、ここがいいです」
ここは事前に侍女の人達からリサーチした今話題の人気店だ。
歩いてきた高級店が並ぶ通りからは数本入った所にあり、どちらかというと庶民的で若い女性が多い可愛らしいお店。通りに面してテラス席も多く、日差しを遮る白いパラソルが並んでいる。
私達が店に入った時はオープン直後なのに既に席はほぼ埋まっていて、案内された席はテーブルが小ぶりな為に二席に分かれて座ることになった。
「で、なんでこの組み合わせ?」
私はアルクと殿下に挟まれ、もう一つのテーブルにはエミール君とマリーエさんという別れ方になった。
「なんでと言われましても、必然というか……」
エミール君は困っていたけど、私はマリーエさんと一緒の席でご飯が食べたかったのに。
お店のお客さんはほとんどが女性だ。たまに男性も居るけどカップルだし、こういう所はさ、きゃっきゃと楽しくご飯を食べる場所だと思うんだよね。アルクはデザートならいいけどご飯は食べないし、この人は……ちろっと横をみたけど、うん、無理そう。
少し不満はあったけど、仕方なくお店の一番人気を注文して料理が来るのを待った。でね、しばらくして待ちに待った料理が運ばれてきたんだけど……
「あれ、これって……」
なんだか見覚えのあるものが目の前にあった。




