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えーっと、早速やってきましたお馴染みの塔です。
階段が辛い。毎回ここまで来るのに疲れてるのが私だけっていうのがさらに辛いけど、体力お化けのみんなと同レベルなんて絶対無理だ。付いて来てるだけ褒めて欲しい、そう思っていたらアルクが頭をなでてくれた。うん、ちょっと嬉しい。
ダンジョンに通うようになって、これでもかなり体力ついたと思うんだよね、私。しかも最近は適度を超えて結構ハードだし。昔は会社帰りにジムとか行ってみたいとか思ってたけど、まさかダンジョンで体を鍛えることになるとは思わなかったなぁ。遠い目。
さて、本日はフルメンバーだったりする。
いつもの私達五人にヒナちゃん、あと騎士団長と殿下まで付いてきた。暇なのかな。
殿下は自分もダンジョンの剣を宝物庫から借りてきたらしくてちょっと自慢げだったけど、いやここに居る全員ダンジョン武器持ってるからね?
しかしこの人数、これでは過剰戦力だ。先日は三人であっという間に塔の下の魔物は倒しちゃったし、また騎士団長あたりから暴れ足りないとか文句が出そうだなぁと思う。
でね、またもや塔から落ちて、思った通りにサクッと魔物を撃破。案の定騎士団長がブツブツ言ってたけど私はスルーした。
それでついに最後の塔に向かったんだけど、なんだかちょっと今までと様子が違ったのだ。
「……中身、ありましたねぇ」
「本当だ、なんかあるー!」
そう、ついに「アタリ」が出た。
「これはポーションですか?」
ポーションによく似た入れ物に入っている液体のようなモノ。
「いえ、これは……え、蘇生、薬……?」
「は、蘇生?」
おおっと、また何やら凄いのが出たようだ。
エミール君の鑑定によると、それは「死後一定時間以内に服薬すると蘇生が叶う」というまさに奇跡の薬だった。
「一定時間というのはどのくらいですか?」
「うーん、魂が肉体から離れる前、とありますがそれ以上は分かりません」
なにその曖昧な説明。しかも魂って。本当にそんなものがあるんだろうかって考えてしまうけど、いやここならアリなのかな。
しかしそれよりも、だ。
「ねえ、なんでまた落ちてるの?」
「「「さあ?」」」
せっかくのアタリだったけど、いつもと同じように宝箱の蓋を開けた時点で床が消えたのだ。なんで?
最後まで浮遊の気持ち悪さを味わなきゃいけないとか、本っ当に最悪。
だけどみんな慣れたものだよね。慌てないし普通に話をしてる。さっきの会話だって落下しながらなのに落ち着いていた。
しかしこれはあれかな、全部の塔に行ったから最後に蘇生薬が出たのか、それとも最初からここにアタリがあったのか。どちらにしろ落ちることは確定だったんだろうか。うーむ。
それにしても、蘇生薬……
これってフラグとか、言わないよねぇ?
とりあえず蘇生薬なんていうミラクルな薬は大事に収納し、私達は落ち続けた。
最後の塔でアイテムをゲットしたけど、果たして下には何が待ち受けているのやら。
「なーんか嫌な感じするよねぇ?」
「何かありそうですねぇ」
みんなもうんうんって頷いている。
「これ試せるかな?」
先の付いていない棒を持ってちょっとワクワクしてるヒナちゃん。さっきの場所では戦う間もなく戦闘が終わってしまった。なのでこの先に期待しているようだ。
「ヒナちゃんはあまり無理しちゃ駄目だよ? ヤバいと思ったらすぐ後退してね?」
「了解でーす!」
うーん、なんか不安。まあ私よりは断然強いし武器もあるから大丈夫だとは思うけど、無茶して怪我したりしないで欲しい。勿論みんなもね。
その後はこれまでの魔物の特徴や戦い方など、戦いに備えて情報共有をしながらゆっくりと落ちていった。
やがて徐々に下方が見えてきた。
油断せず、全員臨戦態勢で臨む。
辿り着いた先は……だだっ広い部屋。
いやこれって部屋って言うのかな。広さで言えばドーム一個分とかそんな感じ。
そしてそのど真ん中に、私達は降り立ったんだけど……
「これはまた……」
周囲を囲むのは魔物達。そう、そこには数百の魔物が待ち構えていた。どれも今まで見てきた白と黒いのだけど、とにかく数が多い。
そして例のごとく地上に着くまでは大人しくしていた魔物達は、私達が地上に足を付けた途端、一斉に襲い掛かってきた。だけどこちらもヤル気は十分。その場で佇む私とアルクを残し、みんなは着地と同時に四方へ散っていった。
「ここなら遠慮なく戦えるなっ!」
騎士団長の言葉通り、最初からみんな飛ばしまくりだった。
殿下は氷刃を飛ばしながら鮮やかな手並みで魔物を切り刻み、マリーエさんは軽やかに空中に躍り出ると剣を巨大化して魔物を薙ぎ払う。
エミール君は大鎌を振りかざしながらザクザクと魔物を切り裂き、ロイさんは鋭い鞭を自在に操って魔物を貫き雷撃を容赦なく見舞う。
かたや騎士団長は炎の一振りで一気に殲滅すると刃を飛ばしながら群れの中に突っ込んでいき、ヒナちゃんはモーニングスターをフルスイングして鉄球をぶん回した。
ガキッ、バキッ、ザクッ
ドスッ、ガシッ、ドシャッ
吹き飛ぶ魔物に抉られる地表。
巻き上がる砂塵に飛び散る魔物の体液。
辺りに魔物の叫びが木霊する。
いやもうみんな気持ちいいくらいに次々と魔物を屠っていくのだ。数では負けるけど、それをものともしない圧倒的戦力で押しまくる。
しかも今まで対峙してきた相手というのもあるのか、確実に急所を狙って仕留めていく様子は安心感すらある。飛んでくる針や衝撃波はちゃんとかわしているし、私の言葉も覚えてくれているようだ。
それにしても騎士団長の炎の出力がいつもより高いような気がする。アルクが強化してるのもあるけど、こういう場所だと被害を心配する必要もないし本来の力を解放出来るのかもしれない。武器の威力が高すぎるというのも厄介だよね。それにみんなはみんなで騎士団長に巻き込まれないように、それでいて絶妙に連携の取れた動きをしているのは見事だと思う。
しかし何故だろう、マリーエさんがやたらと力押ししているような気がする。指輪の力を使うのはいいけど、いつもの華麗な剣さばきはどうしたのかなってちょっと思う。これからこのスタイルでいくつもりなんだろうか。騎士団長の力技はともかく、ヒナちゃんまで鉄球で魔物をドカドカ蹴散らしてるし、なんだかパワー型が増えていくような……いやまあいいんだけどね、別に。
私は完全に見学しているけど、たまーにみんなの攻撃をすり抜けてこちらに向かってくる魔物がちらほらいた。だけどそれは私の傍らに立つアルクが一撃で仕留めてくれるので防御を展開することもない。
「ふむ、威力が上がっているな」
アルクは空気の弾を打ち出すような感じで魔物の体を貫通させているけど、新しい杖でこちらも威力倍増らしい。
みんな強いなぁ……。
いやしかし、今までが三~四匹の魔物相手だったのに急にこれって酷くないかなって思う。
周囲を見たけど今までと同様に出入口は見当たらなかった。逃げ場もないし、これだけの数の魔物に囲まれたら普通は死を覚悟する場面ではないかと思う。あ、その為の蘇生薬なんだろうか。えー。
幸い蘇生薬を使う事態にはならなそうだけど、これって少人数で挑んだらどうなっていたんだろうって考えると結構怖い。私達はいざとなったら扉で脱出も出来るけど、今後はもう少し慎重に探索する必要があるかもって思う。
だけどねぇ、危ないならダンジョンに行かないのが一番なんだよなぁ。私は別に戦いとかしたくないし怖いのも嫌だし……。そう、私の求めるゆったりのんびりまったりライフにダンジョンは必ずしも必要ではないのだ。だけど……
チラッとみんなの様子を見る。
うん、絶対反対されるよねぇ。困ったものだ。
戦いはほどなくして終わった。
もちろん私達の圧倒的大勝利だ。
見回せばあたりは死屍累々。
しばらくしたら消えるんだけど、魔物の山があちこちに出来ていた。うげぇ。
だけどね、いくらなんでも満足しているだろうと思ったら「暴れ足りない」って騎士団長。ちょっと呆れてしまったけど、もっと戦いたかったっていうのはみんなも同意見らしい。
いやもうみんな興奮し過ぎだよ、アドレナリン出過ぎ、クールダウン!




