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「リカ様ひどいですわ、何も教えてくださらないなんて!」


「そうですわ、後から色々聞かされてとても驚いたのですよ!」


 またもやギルベルト殿下に連れられ、途中で気付いて逃げようとしたら引きずられてラビニア様のお部屋に放り込まれました。酷い。さっきまであんなにありがとうとか言ってたくせに。


 殿下はひらひら手を振るとそのままどこかへ行ってしまった。なので部屋には三人だけ。マルティナ様とラビニア様は逃がさないとばかりに私に迫ってきた。


「「リカ様っ!」」


「えーと、こちらにも色々事情がありまして……」


 前回二人に会った時は、花の事などある程度は分かっていたものの犯人を捕まえる前だった。まだきちんと説明出来るような状況ではなかったので黙っていただけなんだけど……きっとそれを言っても文句は出るよねぇ。


 うん、なのでここは潔く謝ってしまおう。で、早々に逃げたい、そう思ったんだけどね……


「しっかり、説明していただきますからねっ!」


 ――逃げられませんでした。


「いやあの、もうある程度は知ってますよね?」


 そう言ったら私の口から直接話を聞きたいし、詳細は知らされてないって返された。で、結局たっぷり時間を掛けて最初から全部説明させられました。疲れた帰るー。



「じゃあ今、お兄様とミランダは話し合いをしてるのね?」


「そうですね、ちゃんと誤解を解けるといいんですけど……」


 実は少し心配していた。あの状態のミランダ様はかなり強敵だと思う。大丈夫かな陛下。


「うーん、まあ大丈夫じゃないかしら。お兄様は昔からミランダの事となると人が変わるし、絶対離さないわよ」


「そうですね、陛下はミランダ様が本当にお好きですから」


 まあ二人を良く知ってる人が大丈夫というののなら大丈夫なのだろう。陛下とミランダ様のエピソードをいくつか聞いたんだけど、お互い大好きだよねって感想しか出てこないような話ばかりだった。なんだかなぁ。


「それにしても本当に良かったわ。これでもう安心ね。リカ様、ありがとう」


「心より御礼申し上げます、リカ様」


 二人から感謝の言葉をもらった。うん、なんか今更感が……はい、そうですね、良かったですねー。




「それにしても、ルシアナとはねぇ。まさかとは思ったけど、あの子ならやりかねないかしら」


 カップを片手に眉をしかめながら呟くマルティナ様。


「確かレスタリック家の方でしたわよね?」


「ええ、そう。昔からすごく我の強い子でねぇ。大人しそうな顔してるのに何でも自分が一番じゃないと気が済まない子だったわ」


「私、お会いした記憶がないのですが……」


 ラビニア様が少し不思議そうに首をかしげた。


「ああ、それはね、レスタリック家があの子を外に出さなかったからよ」


 マルティナ様が語ってくれたのは陛下の妃選定の時の出来事だった。


 なんでも王太子が十歳になると王妃の選定が始まり、良家の女の子が集められて顔合わせのパーティーが開かれるそうだ。つまりお見合いパーティーだね。


 パーティーは何度か開かれて人数が絞られ、候補者達はお妃教育を受けながら数年間の交流やパーティーを通して人となりや王妃の適正などを確認される。


「ルシアナは候補者の中で一番家柄が良くて後ろ盾も大きかったし、周囲が次期王妃ってもてはやしたのがいけなかったのね。本人はすっかりその気だったし、すり寄ってくる人も多かったと聞くわ。ところが、選ばれたのはミランダでしょう? もうルシアナは大激怒よ。あんな地味で冴えない子が選ばれるのはおかしい、あり得ないって騒ぎ始めてね。不敬罪になるんじゃないかって事まで喚き始めたから慌てて周りが押さえこんで退場させたのよ」


 ある時、王太子はパーティーに花束を持って現れたそうだ。最終的な妃の決定権は王太子にあるそうで、ついに誰かが選ばれたのかとその場の全員が王太子の向かう先に注目した。そして王太子は、満面の笑みで待ち構えていたルシアナの横を素通りし、その後ろで控え目に佇んでいたミランダ様の前で跪き求婚した。


 ルシアナの怒りは凄まじく、暴れて手が付けられない状態になったそうだ。そしてパーティーでの失態は多くの貴族の記憶に残ることとなった。


 普通、妃候補に選ばれたというだけでも非常に名誉なことであり、王太子との婚約が調わなくとも婚約の申し込みは数多く舞い込むものだ。しかしそんな醜態をさらしたルシアナへの申し込みなどあるはずもなく、父であるレスタリック家当主は頭を抱えた。


 結局、監禁同然の生活をルシアナは強いられ、その後は多額の持参金付きで辺境の貴族へと嫁がされることになった。だけど嫁ぎ先でも早々にやらかして夫婦仲は最悪。それでもレスタリック家との約束なのか離縁はされなかった。


 そうしてほぼ別居状態が長い間続き、二年ほど前に子供が家督を継いだことでルシアナは離縁されてレスタリック家に返されることになった。困ったのはレスタリック家だ。扱いに困り、王都にある屋敷のひとつにルシアナを押し込めたんだそうなんだけど……ルシアナはその屋敷でミランダ様への復讐計画を立てたという訳だね。


「レスタリック家の管理不行き届きってことかしらね」


 なるほど、それは管理責任とか言われそうだ。まあなんにしても、そのルシアナって人はよく長い時間恨みを抱えてられたよねって感心してしまう。そのエネルギーを他にまわせれば良かったのに。


「マルティナ様、よくそこまでご存じですわね」


 ラビニア様が感心していた。うん、確かに。情報収集能力が凄い。


「あら、貴族たるもの常にまわりの動向には目を光らせておくものよ。ああ、そういえば家を継いだその息子だけど、どうもルシアナじゃなくて愛人の子供って話よ」


「まあ」


 ラビニア様が目を丸くして驚いていた。いやいや、え、それ大丈夫なやつ? 公然の秘密なのか、貴族のゴシップ怖い。


 マルティナ様は口元にお扇を広げ「話す相手は選んでるわ」って言ってたけど、くれぐれも気を付けて下さいね。





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