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ルシアナ様はすっごく綺麗な人で、しかも話を聞いたらとっても可哀想な人だった。
側に居た女の人が教えてくれたんだけど、本当はルシアナ様がこの国の王様と結婚して王妃様になるはずだったのに、ズルをされて別の人が王妃になったんだって。しかも王妃になれなかったからって家の人からいじめられて遠い所に嫁がされて、そこでも意地悪されたりすごく辛い目にあったらしい。
でね、今は嫁ぎ先から逃げて王都に戻ってきたそうなんだけど、長年の恨みがあってどうしても仕返しがしたんだって。それをあたしにお願いしたいって言うんだよね。あたしはルシアナ様に同情したし、そんな酷い目にあったなら仕返するのも当然だと思った。
具体的に何をしたらいいのか聞いたら、あたしの持ってる薬の知識で、ズルをして王妃になった人を苦しめて欲しいって言われた。方法は任せるって。まあ今までも似たような事はしてたし方法はいくつか思い付いたよ。上手くやれる自信もあった。だけどね、場所が問題だった。だからちょっとなぁって思ってたら、女の人は城へはメイドとして入れるって言ってきた。
あたしはびっくりしたよね。誰でも行ける場所じゃないって知ってたから。だってお城に行くには身元がちゃんとしてないといけないし、紹介書ってやつがないと駄目なんだ。
前にお城で働けたら安泰だって誰かが言ってたのを聞いたことがあった。寝る所も食事も心配ないしお給料もすごくいいって。もしかしたら結婚相手も見つかるかもって女の子達の憧れの職場なんだって。あたしには絶対無理だって思ってたのに。
しかもね、メイドのお給料はそのままあたしがもらっていいんだって。その上に報酬までくれるって言うんだよ、凄くない?
あたしは迷ったけど、ルシアナ様に「モリー、あなただけが頼りよ」ってお願いされたから引き受ける事にした。ルシアナ様はすごく喜んでくれて「どうかよろしくね」とほほ笑んでくれた。あたしはこんなに優しそうなルシアナ様を苦しめるなんて許せないって思ったし、今までにない大仕事にちょっと興奮もした。
やがてメイドの仕事を覚える為にしばらくの間ルシアナ様の屋敷で働き、それから紹介書を持って城に向かった。あたしはあっさり雇われることが決まったけど、城に入るのに検査があって持ち込もうと思っていた薬を全部没収されてしまった。
あたしは困って返して欲しいと訴えたけど、決まりだからと返してはもらえなかった。薬が欲しければ城内に薬師がいるからそこに行きなさいって言われたし、体調に不安があるなら雇えないとも言われたので大人しくするしかなかった。
城への出入りはかなり厳しかった。人も物もすごく厳しく検査されたし、色んな能力の人が居て、隠してる物なんかが見つかると兵士に連れて行かれてしまうんだ。あたしの場合は普通の薬ばかりだったから大丈夫だったけど、もしあれが毒とかだったら牢に入れられたんだろうなって思うとすごく怖かった。
あたしは最初、洗濯を担当する部署に入れられた。すごく大変だったけど体力には自信があったので頑張った。そしたらなんか褒められたし、しばらくしたら今度は掃除をする部署に異動になった。
行動範囲が少し広がって、お城の中も少しだけ歩き回れるようになった。あとメイドの恰好をしていると、警備の兵士はあまりあたしのことを気にしないって事が分かった。あたしが仕事してますって顔をしてれば結構色んな所に行けたんだ。
あたしは薬を持ち込めなかったので、どうにかしてここで薬を調達しないといけなかった。なのでまず薬師の所に行った。あたしは自分で薬を調合したいから薬草が欲しいって言ったんだけど渋い顔をされた。しかもあたしが欲しいって言った薬草は扱ってないなんて言う。本当に意地悪だと思う。
でもね、ある時片づけておいてって言われた物の中に少ししおれた花があって、それがあたしが知ってる物だと気が付いた。まさかこんな物がここにあるなんて思わなくてびっくりしたし、あたしはついてるって思った。
あたしはこっそりその花を回収して自分の部屋に持って帰った。あとから調べたらお城の中に花を育てている場所があることが分かって、だとしたらあの花もまだあるかもしれないってそう思った。
あとは肝心の王妃様の事。あたしはそんな偉い人達の側になんていけないから、噂話とか誰かが話しているのを聞くしかなかった。だけど侍女ってすごくおしゃべりなんだよ。休憩中によく王妃様の事を話している人を見つけて、なるべくその人の側で話を聞くようにした。
そしたら王妃様はお母さんが亡くなって元気がないって言ってたのを聞いた。ちょっと可哀想だと思ったけど、ルシアナ様の恨みとは別だって思い直してちゃんと仕事をしようと思った。
それから一生懸命王妃様の事を調べて、すごくいい情報を知ることが出来た。なんかね、王妃様が飲む専用の紅茶があるって。あたしはその紅茶にあの花を混ぜようと思った。あんまり関係ない人が巻き込まれるのも可哀想だし、その紅茶なら丁度いいと思った。
それでその紅茶がどこにあるかを探したら、すごく簡単に見つかった。誰でも入れる場所じゃなかったけど、たまにお使いで行く保管室にその紅茶も置いてあった。城に運び込む時はすごく厳しいのに、それが終わるとなんか色々緩いなって思った。城の中の人はみんな信頼されてるってことなのかな。でもそれって甘いよね。
あたしはなるべくその場所に行けるような仕事を率先して頑張った。そしたら次第にあたしにその仕事がまわってくるようになって、保管室の出入りがしやすくなった。すごく順調だった。
でね、花の方も乾燥して粉末に出来たから、さっそく紅茶に混ぜてみることにした。最初に入れる時はすごく緊張した。誰かに見られたらどうしようってドキドキした。だから素早く作業したけど、その時に紅茶に何か入っているのが見えた。摘まんでみたら花びらで、ああこれだったらこの花も細かくしなくて大丈夫かなって思った。粉だと効きすぎる恐れがあったからね。
あたしが入れようとした花は婆ちゃんに教えてもらった珍しい花で、他の薬と反応して具合が悪くなったりする性質がある。この国ではほとんど知られてないから色々使えるって婆ちゃんは言ってた。
王妃様が薬を飲んでるかは分からなかったけど、城の中では薬草水が良く飲まれてる。いい具合に薬草が入ったレシピで、王妃様だってきっと飲むだろうし、この花の効果はすごく長いからきっと何かしら症状は出るだろうって思った。
ルシアナ様は長く苦しめたいと言っていた。だからなるべく弱い効果でいいと思うし、その方が発見もされにくいと思う。まあ疑われてもこの花のことを知ってる人なんてここにはいないだろうし、バレるとは考えにくい。
あたしは紅茶の納品に合わせて、それから何度も花を混ぜた。王妃様はどうやら体調が悪くて部屋にこもっているそうだし、上手く効果が出ているみたいだった。
あたしは休みの日にルシアナ様に報告に行った。
ルシアナ様にも王妃様の様子は伝わっていたらしく、「モリーは優秀ね」っていっぱい褒めてもらえた。ご褒美もくれたし報酬も上乗せしてくれた。すごく良い人だ。
それでもうこの仕事は終わりかなって思ったら、まだ続けて欲しいって言われた。このままなら王妃は城を出る事になるからそれまで続けて欲しいって。長引けば危険は増すけど全然バレる様子もないし、城のお給料もいい。その上報酬ももらえるならこんなに美味しい仕事はないと思った。だからあたしは喜んで引き受ける事にした。
それからも定期的に花を混ぜた。すごく簡単だったし誰にも怪しまれずに作業出来てると思ってた。
あの日、日中に時間がなくて夜の遅い時間に忍び込んだ。上手くいったと思って部屋から出たら、突然あたしは捕まった。訳が分からなかった。
時間帯が悪かったと最初は思った。それに中で何をしてたかなんて分かるはずないって思ってた。なのに何だよ、証拠があるって。しかもあたしが紅茶に何か混ぜたって知ってるし、どういうことだよ。
誰に頼まれたって聞かれたけど、ルシアナ様のことは話しちゃ駄目だ。あの人は可哀想な人だし、それにあたしに何かあったら助けてくれるって言ってた。だからあたしは黙ってルシアナ様が助けてくれるのを待ってればいい。そうだ、待っていればきっと助けてくれる、ルシアナ様が助けて、くれ……る……
え、あれ、あたし……うそ、なんで?
ああっ、ああっ、そんな……
ルシアナ様ぁーっ!!




