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紅茶に混入していた珍しい花には、鎮静効果だけでなく驚くべき性質があることが分かった。
紅茶として飲んだだけでは通常の鎮静効果のみだけど、他の薬と併用することで頭痛や怠さ、めまいなどを引き起こす場合があるというのだ。
「相互作用」という言葉を知っているだろうか。
一般的には、二種類以上の薬を一緒に飲んだ時、薬同士の相性が悪いと薬の効果が強く出過ぎたり弱まってしまう事をいう。そして相互作用は薬と薬だけでなく、薬と食品でも起こる。
私達の世界で有名なのは、血圧の薬とグレープフルーツなどの組み合わせだけど、つい最近、私もその話を聞いたばかりだった。
先日、伊予柑をもらった時にお母さんが話していたんだけど、近所の人に言われたそうなのだ。「血圧の薬を飲んでいるのでグレープフルーツや伊予柑が食べられない」と。
なんでもグレープフルーツなどに含まれる成分が体内の代謝酵素の働きを邪魔して薬の分解を遅らせるそうだ。すると薬の効き目が強く出てしまって副作用が現れる可能性が高くなるのだという。
つまり、これと同じような現象が混入された花びらによって引き起こされたということ、らしい。
ロイさんが話を聞いた侍女は不眠で睡眠薬を服用していた。現在も薬は時々服用しているそうで、その薬と花びらの成分でめまいや頭痛などの症状が出てしまったのだろうと推測される。
ああ、彼女、エリーゼさんには紅茶を提供してもらってすぐにお礼としてポーションをあげたよ。体調もすぐに回復して仕事に復帰できるととても喜んでいたそうだ。
ではマリーエさんや私の場合はというと、二人とも薬は服用していなかったが共通して飲んでいた飲み物があった。それは薬草水。
まあよくあるフレーバーウォーターみたいなもので、水にフルーツやハーブを入れて香りや風味をつけた飲み物のことだ。
王妃様はこの薬草水を飲んでいたそうで、時には睡眠薬も服用していたらしい。王妃様の生活をなぞっていたマリーエさんはさすがに睡眠薬は飲まなかったものの薬草水は飲んでいた。
マリーエさんが飲んだのは鎮静効果や睡眠効果のある薬草が使われていて、城内では一般的に使われているレシピだそうだ。
どうもこの薬草とお茶の時間に飲んだ紅茶が反応したようで、薬草の摂取量が少なかったので出た症状もわずかだったらしい。
そして私もお風呂上りに飲んでいたんだよねぇ、薬草水。あの時、マッサージの気持ち良さに寝落ちしたと思っていたけれど、どうも薬草の効果も強かったようでそれが翌日まで残っていたらしい。わずかだけれどそれが紅茶を飲んだことで花の成分と反応し、腕輪の効果が発動したのではというのがロイさんの考察だった。
アルクも前日の陛下の威圧で腕輪も限界だった可能性は高く、わずかな反応で壊れたというのはあり得るとは言っていた。
だけどうーん、どうもこちらの薬草って私には効果があり過ぎるような気がする。私の知っている似たようなハーブの成分なんて半日あれば体外に排出されると思うけど、やっぱり何か違うんだろうか。それとも私の体質とか相性の問題?
後日発見した文献には、花びらと同時に他の薬類を摂取しなくても反応するとの記述があり、これが原因不明の症状となってしまう要因と書かれていた。持続時間がとてもが長いようで確かに関係を疑うことも難しいだろうと思う。
なんて厄介な花だろうと思うけど、紅茶などで飲むように成分を口から摂取することで作用が出るので普通では起こりずらい事象でもあるそうだ。あと、引き起こされる効果や症状は人によってまちまちらしく体質や摂取量によっても大きく変わってくるらしい。
この花はとても珍しく、国内ではほとんど見かけないのでその性質も知られていなかった。しかも体内に入ってからの変化までは鑑定では分からず、誰も気付かなかったのはそのせいなんだけど……なんとこの花、お城にあったんだよ。しかも王妃様用の温室に。さらに王妃様の部屋にも飾られていたんだから驚くしかないよねぇ。もうびっくり。
温室の係の人によると、この花は先代の王妃様の頃から育てられているそうで花の性質については鎮静効果がある以上の認識はなく、他の花と同じように栽培していたそうだ。なんとも恐ろしいことだよねぇ。
ここまでの話は、もちろん一日で分かった訳ではない。調査で徐々に明らかにされていったんだけど、ただひとまず原因が突き止められた時点で問題の紅茶はすべて秘密裏に回収された。
紅茶は王妃様専用だったし、定期的に納品されるので数は少なかったけれど保管されていたすべてに花びらが混入されていたことが確認された。
問題はいつ誰が花びらを混入させたか、だ。
確証はなかったけれど様々な事実、調査結果を鑑みて城内の何者かによるものだと私達は考えていた。なので私がうっかり捕まったあの時、城の警備に協力を依頼した。
まず紅茶の保管場所の実態調査と監視、その後に鏡を設置してもらったりと色々お願いして最終的には犯人を捕まえる計画を立てた。
そして商会から定期納品があった日の夜、恐らく今までも同じようにしていたのだろう。慣れた様子で保管室へ侵入し紅茶へ異物を混入させた人物を捕らえることに成功したのだ。
最初は抵抗し、「無実だ、何もしていない」と喚いていた犯人だったけれど、室内に設置した鏡にはばっちりと犯行の様子が記録されていたので言い逃れは出来ない。
さらに例の新薬、自白剤を使ったので犯行の一部始終が明るみになった。
いやー、なんというか、恨みって怖いよねぇって話だ。
ほんと、嫌だわー。




