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 さて、今日の午後はなんとお城の厨房を見せてもらえる事になっていた。さすがに中を見せてもらうには許可がいるかなと思ってエレノアさんに頼んでみたんだよ。そうしたら時間帯を指定して許可をもらえたのだ。


 さっそくアルクと見学にきたんだけど、おお、これはまた広いね。前に見たデイルズ家の厨房がなかなか立派だったけど、ここは国で一番の規模と設備のはずだし期待が高まる。さて、面白そうな物はあるかなー。


「こんにちは、見学させてもらいに来ました」


 近くに居た人に話しかけたんだけど、なんだか驚かれた。


「え、見学ですか? ちょっと確認してくるのでお待ちください」


 そう言って奥に行ってしまった。しばらくしてやってきたのは髭のおじさんとひょろっとした若い男の人。


「話は聞いている。案内はこいつにさせるからあまり面倒は起こすなよ」


 髭のおじさんは私とアルクを見て、少し面倒そうに言うとどこかへ行ってしまった。ちょっと感じ悪いね。


 残された若い人は頭を下げて挨拶をしてきた。


「あの、俺、チュロって言います」


「リカです。よろしくお願いします」


 私も頭を下げたらすごく驚いて慌てていた。


「僕なんかが案内役ですみません」


 しかもそう言ってチュロ君は謝ってきたんだけど、別に案内してもらえるなら誰でもかまわないって言ったら不思議そうな顔をされた。


「え、でもリカ様は貴族様ですよね、その、嫌じゃないんですか?」


 自分が平民だから気分を害するのではと心配しているらしい。


「私貴族じゃないし」


「え、そうなんですか?」


「うん、そうそう。だから気にしないで」


 最初は少しおどおどしていたんだけど、話していたら落ち着いたのか色々教えてくれたよ。


 まずさっきの感じの悪い人は副料理長らしい。お城の厨房には一番上に料理長、その下に副料理長が二人、あと料理の種類毎に担当長がいてそれぞれの下に部下がいる。で、更にその下に見習いや下働きがいるんだって。チュロ君は見習いとのことだった。


「今日は予定外の会議が入ったとかで料理長が先ほど出掛けてしまったんです。その時、副料理長にあなたの事を頼んで行ったようなんですが……」


 どうも現れたのが小娘ってことで案内をチュロ君に振ったらしい。「どうせ働き口でも探してるんだろう」って、私を貧乏貴族の娘だと思ったみたいだよ。地味な恰好してるからねぇ。


 そういえばこの間も絡まれけど、この格好が原因だったみたいだ。お城で動くのに私は目立たない服がいいってエレノアさんに用意してもらったんだけど、その中でも一番地味なのを選んだんだよね。


 しかも私の顔って平凡だし、凄腕侍女さんの手に掛かれば化けるけど、普通にしてると埋没する。


「リカ様のお顔は癖がないのでお化粧が映えます」


 そんな褒めてるんだか貶されてるんだかよく分からない言葉をもらったのは記憶に新しい。むぅ。


 まあつまり、そんな私が化粧もあまりせずこの地味な服を着て城の中にいると下級貴族の侍女に見られるらしいんだよ。


 ちなみにここでは侍女は貴族女性がなるもの、メイドは平民がなるものらしい。


 下働き的なお仕事をするメイドさんには決められた制服がある。俗にいうメイド服的なやつね。ここのはそんなにひらひらとかはしてないけど、黒地に白のエプロンでとてもクラシカルな落ち着いた雰囲気だ。可愛いけどさ、黒って汚れとか目立ちそうだと思うのは私だけ?


 それに対して侍女は決まった制服はない。各自自由だけど、あまり華美なものや装飾が多い物は駄目らしい。侍女の仕事は王族女性の身の回りのお世話などで、みんなそれなりに良い物を着ている。身分が高かったりお金がある家の人はそのままそれが服に反映されるらしいのだ。


 侍女にも役職や位などがあるからそれによっても服が少し違ったり格が上がったりするそうだけど、役職が上がればお給料も良くなるので身なりを整えることも仕事の内らしい。へーって感じだね。



 話が逸れたけど、厨房で働いている人は貴族と平民の両方がいるそだ。


 役職者はほぼ貴族。稀に平民がなる事があるそうだけど、その場合は一代限りで貴族籍が与えられることもあるそうで大出世らしい。それだけ食事は重要視されてるってことなんだろうね。直接口に入る物だし、責任重大。何かあれば物理的に首が飛ぶんだって。うひゃぁ。


 あれ、でも私、普通に殿下とかにご飯出してるよね。大丈夫なのかな……。


 男性ばかりの職場かなと思ったけど、意外に女性もいる。下働きとか見習いがほとんどだけど、料理人として働いている人もいる。結構力仕事もあるので貴族女性が厨房で働くことはあまりないみたいだけど前例はあるそうだ。


 だから副料理長が私を見て、働き場所を探している下級貴族の娘と思ったのもまあ頷ける。私の事は特に何も知らされていないようだしね。


 ちなみにアルクは私を連れてきた文官って感じで見られたらしいよ。アルクが文官って、なんかちょっと面白いね。そういう仕事とか出来るんだろうかとちろっと横を見たけど……うん、お菓子を作る時は几帳面かな。


 チュロ君はアルクがすぐ帰ると思っていたらしく、ずっと一緒に居ることに驚いていた。しかも私達が普通に話しているのを見て首をかしげていたし、私が何者だろうってちょっと疑問に思ったみたいだ。まあ私は気にせずに色々質問してあちこち見て楽しんだ。


 いやー、でもさすがお城の厨房だよね。ずらっとコンロが並んでるのは圧巻だし、いくつもある大きなオーブンはどうもスチームも使えるみたいだ。設備がどれも立派で大きいし数が揃ってる。


 珍しかったのはフライヤーや自動回転するロースターかな。


「これでカラアゲを作ります」


 チュロ君の説明によるとフライヤーはパーティーの時などに大量の唐揚げを作るのに使うらしい。油がたっぷり入りそうだしバスケットも用意されていて使いやすそうだった。


 それにしても唐揚げ、人気なんだねぇ。カランで流行ってからお城でも作られるようになって、今ではパーティーの定番料理らしい。だけど、うーん。いやまあ美味しいけどさ、もっと高級料理はないのかってちょっと思ってしまうんだよねぇ。


 あとロースターね。大きな串が何本もあって、鶏を丸ごととか大きな肉を焼くのに使うらしい。凄いなー、ぜひ焼いてるところを見てみたい。


 厨房内をぐるっと見て、ついでに食糧庫なども見せてもらった。お肉とかを保存する冷蔵庫が少ないなと思ったら、収納鞄ならぬ収納箱を利用しているとチュロ君が教えてくれた。機能は収納鞄と同じような感じらしいけど結構大きいそうで、箱自体が貴重品なので触れる人も限定されているんだって。なので残念ながら見せてもらえなかった。けちー。


 その後も設備や珍しい調理道具の使い方、普段どんな物を作っているかとか色々聞いた。チュロ君は不思議そうにしながらも、あまりここで働こうとしている人の質問じゃなくてもちゃんと丁寧に教えてくれたよ。なかなか良い人だね。


 この時間は休憩時間らしくて厨房に人は少なかった。おかげでゆっくり見て周れたけど、今度は実際に調理しているところなんかも見てみたいなって思う。


 私達はチュロ君にお礼を言って厨房を後にした。うん、すっごく面白かったー、満足!




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