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 さて、今日は久々にダンジョンです。


 初参加が約一名。この人の希望で今日はみんなでダンジョンに行くんだけど、私としては城下に行きたかったなぁって思う。


 まあすごく楽しみにしていたみたいだし、前から行きたいって言ってたからね。今回は譲ってあげよう。


 今日の探索は二十二階層からだ。二十一階層は少しずつ進んで先日やっと先に進めたばかりだった。


 ロイさんが王都に向かっている間はマリーエさんとエミール君と一緒にダンジョンに行っていたんだけど、王都に着いてからはロイさんが居なかったりエミール君が忙しかったりで探索はお休みが続いていた。アルクとマリーエさんだけでもいいんだけど、私を見てなきゃいけないからもう一人は居た方が良いよねっていうみんなの判断だ。


 実はね、三人で探索にも行ったんだけど魔物は強くなってきているし、倒すのは問題ないんだけど数がいると二人じゃ対応が出来ない場面が出てきた。そうすると必然的に私に向かってくる個体が増える訳だ。


 一応杖があるから弾いてるし、私だって頑張ればとは思うんだけど……あまり信用がないのと安全面考慮で三人以上の同伴が望ましいってことになった。お手数お掛けしてすみませんって感じ。


 いつも思うけど、私が死んだらダンジョンから帰るのってかなり大変だと思う。とりあえずアルクは平気そうだけど、他の人はねぇ。ああでも、収納鞄あるから食料とか水はあるし日数は掛かりそうだけどなんとかなるかな。


 こちらの世界にいると時々自分が死ぬ時の事を考えてしまう。別に自殺願望なんてないよ。でも実際危なかった事もあったし十分あり得るんじゃないかなと。まあ死んじゃったらそれはそれで仕方ないとは思ってる。あっちでだって交通事故で突然なんてこともあるし、ダンジョンなんて場所に居たら交通事故以上の確率で死にそうだと思うんだよ。


 ただね、前に私が死んだらって話をしたらみんなに凄く嫌がられたし怒られた。鞄に何が入っているかとか、家の事とかお金の事とかお願いしておいた方がいいかなって思ったんだけど「縁起でもない、止めて下さい」って。もしもの話なんだし別に聞いてくれてもいいと思うんだけどなぁ。


 なのでとりあえず遺言は書いて鞄の中に入れてある。この歳でまさか遺言を書くとは思わなかったけど、そんな形式ばった物じゃなくて私の希望とかを箇条書きにした簡単なものだ。一番死にそうにないアルクにそのことは話してあるけど、なんだかすごく悲しそうな顔をされたっけ。


 いやあのね、別に私、死のうとしてる訳じゃないから。それに痛いのとか嫌だし危ない状況になったら全力で回避はするつもりだからね?



 朝食後、お城の私の部屋にいつもの五人プラス殿下の六人で集合し、一度ガイルへ戻る。


 殿下の護衛を連れて行くとかどうかでちょっと揉めたみたいだけど詳細は知らない。結局殿下は一人で来たし、あくまで殿下は私の部屋に遊びに来ただけってことになっているらしい。ふーんって感じだし、とりあえず死なないでねって思う。


 私達はガイルから扉を開けて久々にダンジョンへ足を踏み入れた。



「おお、ここがダンジョンか! 思った以上に広くて明るいなっ」


 ギルベルト殿下の声が弾んでいる。嬉しくて仕方ないみたいだ。


「じゃあ行ってみようか」


 全員がこちらに来たことを確認して出発だ。みんなの顔は期待に満ちていた。



 二十二階層はちょっと変わっている。今までも迷宮とか森とか湖とかあったけど、今回は階段だ。


 なんかね、立体的ですごく複雑なんだよ。吹き抜けの空間のあちこちに階段があってそれが上へ下へと続き、さらに分岐したり回廊で繋がっていたりとまるで迷路のようだ。しかもそれぞれの階段の幅や大きさ長さが違うので遠近感も狂う。自分達がどちらへ進んでいるか、どちらから来たかもよく分からなくなるし……まるでエッシャーかペンローズかって感じで頭がおかしくなりそうだった。


 さらに魔物も出るからね。開けた場所もあるけど階段って戦いには向かないし、羽があって飛んでる魔物とかが多くて戦い辛い。それなのに倒し甲斐があっていいとか……みんなが良い笑顔なのはいつも通り理解できないよね。


「なかなか手ごわいな。これはいい鍛錬になる」


 殿下は嬉々として戦っている。私は相変わらず見ているだけのお荷物なんだけど、殿下もちゃんと戦力だった。剣は幼い頃から必須で習うらしいよ。貴族としての嗜みってやつらしい。


 殿下の力量は良く分からないけど、みんなと遜色なく戦っているからちゃんと強いんだろうと思う。それにエミール君と同じでとても動きが綺麗で優雅だ。


 だけどさ、騎士団もそうだけどそんなに剣が強くても使う所がないんじゃないかって前から思ってたんだよね。別に貴族がダンジョン攻略をする訳でもないし、魔物がダンジョンの外に出るとかもそうあることじゃないって聞いたし。そう思って質問してみたら、戦力の必要性を力説されてしまった。


 ああ、そういえばこの世界では銃などは今の所存在していないみたいだ。なので戦力は人の数やそれぞれの強さ。剣技や腕力、あとは騎馬の数や馬を操る技量などが重要らしい。まあもちろん他にも色々あるようだけどね。


 話を聞いて分かったのは、領内の治安維持はもちろん、他領とのもめ事や衝突なんかも結構あるということ。同じ国の中でもみんな仲良しとはいかないようだ。領主同士の話し合いで解決もあるけど、武力でってこともあるそうで、それってかえって揉めそうだけど大丈夫なのかなって疑問に思う。


 あと魔物がダンジョンからあふれたりすることは少ないみたいだけど、外で自然発生することもあるから油断できないそうだ。町や村が近い場所で発生すると非常に危険で被害も大きくなる。しかもまとまった数で出る事が多いから討伐はかなり大変だそうだ。これが各領内で年に数回は起きているという。


 あとは外国との争いごと。いきなりきな臭いけど、周辺国はかなり好戦的な国が多いらしい。この国フランメルが自ら戦いを仕掛けるなんてことは滅多にないそうだけど、逆にちょっかいを出されることは度々あるようだ。


 フランメルは資源も豊富で非常に栄えている。周辺国から見るととても羨ましい手に入れたい土地らしく、今の所は返り討ちにしてるけど、そういう好戦的で強欲な国には手を焼いているとのことだった。困るよねぇ、そういうの。


 しかし平和な所だなって思ってたのに、やっぱり争いとかあるんだと分かって心が沈む。騎士団とか武力を持ってる時点で多少は察したけど、ガイルとか町中に居るとそういうのは感じないし、のどかでのんびりした良い所としか思えないんだけどねぇ。


 まあ、ぬるま湯育ちの私としてはどうにも実感は難しい。なるべく無関係でいたいし、私が知ってる人達が巻き込まれたり悲しい思いをしないようにと願うくらいが精々かな。


 武器提供? チートで無双? 無理無理、そういうの絶対無理だから。



 色々話をしながら二十二階層も徐々に進んで行った……あれ、進んでるんだよね、これ……?


 ちょっと進み方に不安を感じながらも探索を続けたけど、この日は時間切れで終了となった。殿下の都合で探索は午前中のみと最初から決まっていたのだ。本人はすごく残念がっていたけど、お昼ご飯を食べて解散だ。


 お昼のメニューはあれだよ、前に催促されたオムライス。今日はケチャップ以外にデミグラスソースも用意したらみんなすごく喜んでくれた。


 しかしなんというか、王子様がオムライスを食べて満面の笑顔って……。


 食後はお茶とチョコレートを食べて非常に満足そうに殿下は帰って行った。しかも「次はミートソースだな」だって。はいはい用意しときまーす。




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