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 王城とガイルの二重生活、いや日本も含めて三重生活が続いている。とはいっても、単純に行ったり来たりしているだけだし、扉を使えば部屋を移動する感覚しかないので負担は何もない。ガイルに戻る時にはエレノアさんにひと言告げればオッケーだし、隠す必要がないってラクだとしみじみ思う。


 あ、エレノアさんには私の力は知られている。一応お城の中で知っているのは王族とエレノアさんのみとの事だったけど、王族からの絶対的な信頼を勝ち得ているエレノアさんて何者なんだろうね。あの眼力は只者じゃないと思うけど……。


 城での予定は事前に教えてくれる。それに合わせて戻るようにしているんだけど、私の訪問は非公式なので特に面会などの煩わしいものはない。あるのは王族の方々からの食事やお茶会のお誘いくらいだけど、それも皆さん忙しいのと気を遣ってくれていて頻繁にある訳でもなく、かなり自由にさせてもらっている状態だった。


 本当はすぐにでも城下を見て周りたいんだけど、一緒に行きたがる人が居て待ったが掛っている。勝手に行こうかとも思ったけど、後で文句を言われるのも面倒なので大人しくしている。私、えらい。


 ああ、でもお城の中は色々見て周ったんだよ。こんな機会は滅多にないからね。最初は案内人がついてざっと見学出来る場所の説明をしてもらい、その後はアルクと二人でゆっくり周ってるんだけど、まあ広い広い。迷子になるレベルで広かった。


 いざとなったら扉で家に帰ろうと思ったけど、アルクがいるので今の所は扉を使う事態にはなっていない。私一人だったら無理だろうなぁと思うけど、一人で行動すると絶対みんなに怒られるからしてないよ。


 お城の中はどこもかしこもキラッキラだった。広間の吹き抜けには絢爛豪華なシャンデリア。煌びやかなダンスホールや蔵書数が半端なさそうな図書室に優美な劇場。置いてある物がどれも素晴らしく高価そうな美術室なんてものもあった。どこもね、天井や壁に繊細な彫刻や絵が描かれていたりと部屋自体が芸術って感じだ。


 あとバルコニーからの眺望も素晴らしかったし、そこから見える数あるお庭もとても美しかった。場所によって趣向が違い、季節の花が色とりどりに咲き誇る様子は見事だし、池があったり森があったり、ここって庭だよねって確認しちゃうくらいには広大だった。こんな場所でピクニックとかしたら楽しそうだなぁ。今度お弁当持ってこようかな。


 いやしかし、すべてにおいて整えられた城内や庭を見て、ついお手入れが大変そうだなぁなんて思ってしまうのは私が庶民だからだろうか。お城の維持管理って相当だと思うけど、権威を維持するのも大変だよねぇ。税金いっぱい取ってるのかなぁ。


 まあそんな事を考えながらフラフラしてたんだけど、ここでは私の事を知らない人が大半だ。なので大抵どこへ行っても「お前誰だ?」って感じの目を向けられるんだよね。入城出来ている時点で身元は保証されているし、変な行動を取らなければ別に捕まるようなことはないんだけど、まあ不審者扱いされなようになるべく目立たないように行動はしている。


 してる、つもりだったんだけどねぇ……なんと絡まれました。


「ちょっとそこのあなた」


「あなたどちらの家の方?」


「所属はどこなの?」


「へっ?」


 いきなり詰め寄られて慌ててしまった。


 いやー、ちょっとトイレと思ってアルクと離れた時だったんだよね。


 お城には大勢の人が出入りしているし働く人も多い。なのでトイレだってそれなりにあるんだけど、やっぱりちょっとね。私としては慣れ親しんだ日本の高機能トイレがいい訳ですよ。


 それで物陰で扉を出して家に帰っていたんだけど、戻って来たところでいきなり捕まってしまった。いやびっくり。アルクどこー?


「ちょっと聞いているの? あなた最近見掛ける子よね」


「ねえ、一緒に居たあの方はどなたなの? お名前はなんとおっしゃるの?」


「あなたばかりずるいじゃない、さっさと教えなさいよ」


 えーと、あの方って……あ、もしかしてアルクのことかな?


 なるほど、この人達アルク狙いか……。


「あの方の事を教えてくれるなら、あなたがサボっていた事は黙っていてあげてもいいわよ」


「そうよ、じゃなきゃ侍女長に報告するわよ」


「いいの? あなたきっと罰を受けるか辞めさせられるわよ?」


 なんか順番に話すの面白いね。息が合ってる。だけどなんだ、サボってたって。辞めさせられるってどういう……え、もしかして私ってなんか勘違いされてる?


「どうせあなた、名前も聞かないような下級貴族でしょう? 私達に逆らったらどうなるか分かるわよね?」


 おお、なんか脅されたよ。


「ちょっと、何とか言ったらどうなの?」


 どうしようかと考えていただけなんだけどイラつかせてしまったらしい。一人が前に出た。


 ドンっ。


「あっ」


 急に肩を押されてふらついた私は、そのまま尻もちをつく形で床に座り込んでしまった。思ったより力が強かったのもあるんだけど、服の裾がね、長いのよ。後ろに下がった時にどうやら踏んでしまったらしく、見事にすっころびました。


「痛っ~」


 恰好悪いな、もう。だけどこれはどうしたものかね。誤解を解くか、逃げるか、それともアルクを売るか?


 そんなことを考えていたら別の場所から声が掛った。


「ちょっと、あなた達、そこで何をしているのっ?」


 座り込む私とその私を取り囲む三人。状況が悪いと感じたのか、三人は顔を見合わせるとそのまま早足で去って行った。だけど去り際に私を見て「ちっ」って……。うわぁ、舌打ちされたよ、ひどくない?


 さっき声を掛けてくれた人は私に近寄って「大丈夫?」と手を引いて立ち上がらせてくれた。


「ありがとう」


「いいのよ、それよりさっきの三人は質が悪いから気を付けた方がいいわよ」


 そう言うとその人もすぐに去って行ってしまった。


 ぽつんと残された私。


 うーん、なんだかなぁ。お城の中も色々ありそうだよね。どうやら私は侍女と間違われたみたいだけど、ああいうのは良くないよね。それにまた絡まれたらどうしよう、面倒だなぁ。そう思っていたらアルクがひょこっと現れた。


「どこ行ってたの?」


「追いかけられて逃げていた」


 顔をしかめて話すアルクに、ああなるほどと思いながらもちょっとジト目で見てしまう。キョトンと不思議そうな顔をするアルク。はあ、まったく、この元凶め。




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