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 結論、ヒナちゃんは無事日本に帰ることが出来た。


 私はすごくほっとしたし、ヒナちゃんも「帰れたぁ」って泣き笑いしてた。


 アルクに聞いたらヒナちゃんは神力を持っていると言っていた。身体強化も使えていたしね。なので大丈夫だとは思っていたけど実際やってみるまでは不安だったんだよ。本当に良かった。


 一応確認してみたところ、ヒナちゃんは私と手を繋がなくても一人で扉をくぐる事が出来たし、扉特典で言葉も分かるようになった。これは嬉しいよね。ヒナちゃんも大喜びしていた。


 みんなも良かった良かったって喜んでたんだけど、問題はこれからなんだよ。前から色々話はしてあったのでヒナちゃんに聞いてみる。


「どうする?」


「うん。あのね、一度電話してみる」


 ヒナちゃんが言うので私は自分のスマホを手渡した。家に帰るにしても送って行かないといけないし、あちらのご両親とは私も会うつもりでいる。ここまできたら無関係ではいられないからね。


 事情を聞かれるだろうし、誘拐犯扱いされたりしたらどうしようとか思わなくはない。だけどね、こちらに連れ戻して、それでさよならとはいかないと覚悟はしているのだ……うう、でもかなり不安。


 あとは家に戻ったら、しばらくヒナちゃんは外出とか出来なくなるかもしれない。でも日本に戻れたのに家族に連絡しないでいるとか無理でしょう。ご両親だってどれだけ心配しているかと思うし、一刻も早く安心させてあげたい。なによりヒナちゃんを帰してあげたいって思う。


 その辺りは殿下にも話はしてあって、それはそうだと納得してくれたし、夜会への出席は絶対って言いながらも結局優しいんだよね。一応、ヒナちゃんが夜会に出席出来ない場合は代わりに私がメインで出るってことにはなっている。出来れば出たくないけど、まあとにかく、夜会なんてどうでもいいんだよ。


 ああそれで電話ね。最近は家に電話を引かない家も増えてるけど、ヒナちゃんの家には固定電話があるそうだ。手元にヒナちゃんのスマホは無いし、両親の番号も覚えていないそうだから連絡先があって良かったと思う。いきなり家に帰るのはドキドキするってヒナちゃんも言っていたしね。


 ヒナちゃんが緊張した様子で電話を掛ける。


 今日は土曜日、時刻はお昼前だ。果たして家には誰か居るだろうか。知らない番号からの電話に出てくれるだろうか……。


 トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル…………カチャ


「……あ、もしもし……お母さん? ヒナだよ。うん、うん……うん。そう、大丈夫、元気だよ」


 お母さんの声に安心したのか、話しながらヒナちゃんは泣いていた。


「うん、今ね、助けてもらった人の所に居る……。うん、里香さんってお姉さん」


 しばらく話していたんだけど、今から迎えに行くと言われたようで住所を聞かれた。


「お父さんとお母さん二人で来るって言ってた」


 会話を終えたヒナちゃんが言う。そうか、ご両親来るのか……不安しかないよぅ。



 一度ガイルに戻って状況を伝え、皆には一度お城へ戻ってもらい、私とヒナちゃんは日本で待機することにした。あ、アルクも人型で居るよ、一人じゃ心細いし。


 隣の市なのでそれほど時間も掛らず来るだろうと思い、私とヒナちゃんは急いでお昼ご飯を食べてしまうことにした。ヒナちゃんに「何が食べたい?」って聞いたら「カップ麺!」とのリクエスト。えー、それでいいのって思ったけど、ヒナちゃんは久々の味にめちゃくちゃ喜んでいた。


 さあそろそろ到着するだろうか。換気してカップ麺の匂いを消し、お茶の準備をしてご両親を待った。うー、なんか緊張してきたー。


 ヒナちゃんはね、信じてくれるか分からないけど、行方不明だった説明にあったことを全部話してみるって言うんだよ。ヒナちゃんがそう言うなら私は見守るだけだ。


 それに扉を出して実際行き来を見せれば信じずにはいられないだろうとも思う。だからご両親がここに来てくれるのはありがたいし都合もいいのだ。


 外で車の音がする。どうやら到着したみたいだ。


 よし、気合を入れていこう!




     ◇




「おお、ここが異世界! 凄い、素晴らしい!!」


 何故かヒナちゃんのご両親と一緒にガイルの家に居ます。


 うーん、なんか色々思ってたのと違ったんだよねぇ……。




 ヒナちゃんのご両親が家に着き、親子の感動の対面が終わると私は物凄く感謝されてお礼を言われた。あれ、なんかちょっと違うってこの時にまず思った。


 落ち着いた所でお茶を出し、お話タイムに突入。ヒナちゃんはこれまでの事をご両親に話した。自分が異世界に行ってしまった事、あちらでの出来事、出会った人の事。所々私が補足したけどヒナちゃんは一生懸命に説明し、ご両親は最後までちゃんと話を聞いてくれた。


 でね、聞き終わってヒナちゃんのお父さんは言ったんだよ。


「そうか、大変だったな、良く無事でいてくれた……」


「え……お父さん、あたしの話、信じてくれるの?」


「ああ、もちろんだ。娘の言葉を信じない訳ないだろう」


 隣のお母さんも頷いているし、あまりにもあっさり異世界に行ったなんて話を信じるって言うから、ヒナちゃんも私もびっくりしてしまった。そして続いた言葉にさらに驚いた。


「それにな、こちらのことは心配するな。おそらくそんな事だろうと警察にはまだ届けていないし、学校にも体調不良だと言ってある。幸い春休みが重なったから実際休んだ日数はまだ少ないし、勉強もすぐに追いつけるだろう」


「「え?」」


 おそらくそんな事だろうって……は? 何どういうこと?


 なんだかこちらがパニックになってしまった。だけど色々話して分かったのは、ヒナちゃんの家、森家は「異世界へ渡ることが多い家系」なんだということ。何それって感じだけど、ヒナちゃんのおばあちゃんは異世界経験者だし、なんとお兄さんも現在異世界留学中らしいです。マジか……。


「お兄ちゃん、海外留学って……」


「ああ、うん、一応対外的には海外ってことにしてるんだ。だけどあいつ、最近あっちで就職するとか結婚するとか言っててなぁ……」


 えーと、なんかお兄さんは移動手段が向こうにあったらしくて、たまに異世界とこちらを行き来しているみたいだ。あ、私達が行ったのとは別の世界ね。


 その後も色々と話を聞き、森家の皆さんは私みたいに扉を出せるとかそういうのではなく、何かのきっかけで異世界に行きやすい体質、ということらしい。お父さんは残念ながらそういう経験はないそうなんだけど、親族やご先祖様には異世界に行った人が結構いるとのことだった。


 ちなみにヒナちゃんのお母さんは結婚する時にその話を聞いたそうだけど、もちろん最初は信じていなかったそうだ。だけど息子が異世界に行ったことで信じない訳にはいかなくなったと話してくれて、ちょっと遠い目をしていた。


 ヒナちゃんが異世界に行った後、やはり鞄や服などはこちらに戻っていたそうだ。幸いにも戻った場所は家だったようで、それを見て「あ、異世界行ったな」とご両親は思ったらしい。なので警察にも届けなかったし、いつ戻ってもいいようにヒナちゃんが居ないことを隠した。


 ちゃんと対応マニュアルみたいなものが代々受け継がれているそうで、慌てず騒がず冷静に対処。いざという時用にはお医者さんとか弁護士さんとか、警察関係の人なんかにも人脈があるらしいというから驚きだった。


 だけど異世界に行って戻ってこれないなんてことは考えなかったのかなって思ったら、どうも森家の皆さんは「幸運度」が非常に高く、色々あっても大抵なんとかなるんだそうだ。


「私は里香さんに会えたもんね!」


 ヒナちゃんはそう言うけど……その幸運度って……うーん。


 ヒナちゃんのお父さんは私が持っている扉の力に興味深々で、ぜひヒナちゃんの行った異世界に行きたいというので連れて行くことになった。お父さんには神力が有りお母さんには無かったけど、手を繋げばお母さんも扉はくぐれた。あと手は繋いだままでいないと駄目だけど、言語特典はちゃんと付くなど思わぬところで検証も出来てしまった。


 はぁー、なんかこっちが驚くばかりだったなぁ。


 異世界行く人って意外に多かったりするんだろうか……。




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