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扉に鍵が掛った。
ただそれだけ。
あれだけ期待したのに何だったんだろうねぇ、はぁっ……。
まあ確かに開いてる扉に鍵を掛けたら閉まるよね、当たり前なんだけど。
でね、もう一回鍵を差し込んで回して、開いた扉の先はいつもと変わらないガイルの家だった。
なんだかがっかりというか気が抜けた。
「うーん、どういうこと?」
鍵を使えたんだから何かが起こると思ったんだけど。
「本当に。何か使い方が違うんでしょうか……」
みんな首をかしげている。
ちなみに鍵は、使った後はちゃんと抜くことが出来た。
そして家に戻ってからまた鍵を使ってみたら、やはり鍵は吸い込まれて回す事が出来た。だけど同じように鍵が掛るだけ。もう一度回して開けても扉の先は先程のダンジョンだったし何も変化はなかった。
「何も変わらないねぇ」
思わず何度も使ってしまったけど、鍵は今も手元にあるし回数制限なしというのはこういうことなのかな。でも何も起こらないんじゃ意味がない。どういうことなんだろう。
「他の扉で試してみてはどうでしょう?」
「確かに、鍵穴がなくても鍵は入ったからね」
ということで家にある普通の扉にも使ってみることにした。だけど今度は鍵が入らない……。
「ふむ、吸い込まれていきませんねぇ」
色々と他の扉でも試したけど、結局どの扉にも鍵は使えなかった。
「つまり、リカ様の扉でないと使えない訳ですね、ふむ」
どういうことでしょうかね。私にはさっぱり分からない。
なのでお茶を用意することにした。こういう時は一息つこう。
今日は珍しく日本茶にした。
実家に行って和菓子の詰め合わせをもらったんだよね。今日はそれをお茶うけにしようと思う。
頂き物だという伊予柑も一緒に沢山もらってきたんだけど、それはまた今度にしておこう。アルクにケーキに使ってもらうのもいいかもしれないって思ってる。
沸騰したお湯をカップに入れて冷ましてから急須に注ぐ。熱湯は駄目だからね。お茶を蒸らしたら少しずつ分けて味が均等になるように、最後の一滴までしっかり注いでいった。
香りが良い。
「ふぅ」
ああ、緑茶美味しい。なんか沁みるなぁ。
みんなは緑色のお茶が珍しいようだった。コーヒーは相変わらず見かけないけど、緑茶は市場でも少し見掛けた。発酵度合いが違うだけで、茶葉自体は緑茶も紅茶も同じだからね。
だけど紅茶が主流で緑茶はあまり飲まれていないみたいだ。一部地域の嗜好品という扱いらしい。
お茶を楽しみながらお菓子もつまむ。みんな最中やお饅頭に興味深々だ。うん、あんこ美味しい。緑茶と合うよね、糖分補給~。
少し落ち着いた所でロイさんが、どら焼き片手に話し始めた。
「鍵が閉まるということは……」
あれ、ずっと考えていたのかな。
「その状態を保てる、とは考えられないでしょうか」
「保てる?」
「ええ、保存もしくは維持とか。鍵を使ってどこかの扉を開けることばかり考えていたのですが、もしかしたら逆なのでは、と」
うん? どういうことだろう。
「リカ様の扉は最後に使った場所が記憶され、新たに使うとそれが上書きされるんですよね?」
「うん」
家の外から扉を出すとガイルの家へ繋がる。で、行き来が出来る。その後に別の場所で扉を出すと今度はそこと家が繋がって前の場所へは行けなくなる。家へ繋がるのは固定だけど、繋がる先は上書きされていく。
「もし、ですよ。この鍵を使って扉を閉めることで保存が出来たら。別の場所で扉を使っても、その後に鍵を使って扉を開けたら……」
「……保存した場所に行ける?」
おお?
「可能性はあるかもしれないと。しかし、それを検証するには今はリスクが大きいですよねぇ」
「確かに」
もし仮説が違ったら、あそこまで進んだダンジョンの探索が終わりになってしまう。それはかなりもったいない気がする。
でも場所の保存が出来たらすっごく便利だよねぇ。もの凄く試してみたいんだけど……。
結局、ダンジョンは行ける所まで行きたいという希望が多かったので鍵の実験は後回しする事に決まった。
一応ね、何か緊急事態に備えて探索から帰ると扉に鍵を掛けることにはなった。出掛ける時にまた開けなくてはいけないけど、保存が出来るのであれば保険は掛けておくべきだよね、という考えだ。
仮説が正しいのか、それともまた全然違った事が出来るのか。可能性を考えてその後もみんなで色々意見を交わした。
特定の場所で鍵を使うと特別な場所へ行けるのではとか、何かを封じることが出来るとか、やはりあのダンジョン内に何かあるのではとか。ただ、いずれにしても確かめようがない。
うぅ、やっぱり保存説を試せないのがすごくじれったい。
もの凄く気になるんですけど~。
二煎目の少し渋みのあるお茶を味わいながら、悩み悶える私達なのでした。
あー、芋ようかん美味しい。




