121
朝です。
昨日はなかなか眠れず、朝方近くまでジタバタしながら横になっていたんだけど、やっと眠れたと思ったら変な夢を見てうなされながら起きるっていう最っ低な朝を迎えました。
夢の内容は覚えていないけど、気持ちに引きずられたみたいだ。どうせなら幸せな夢を見たいのに、どうも私の頭はそういう優しい作りにはなっていないらしい。おかげで寝不足だし気分も最悪だった。
結局グダグダして、夕方近くになってやっと実家を出ることにした。心配を掛けたい訳ではないけど、帰るのは気が重い。
途中で予定通りに伯父さんの店に寄ってケーキを大量買いした。今は大容量の収納鞄があるからね。アルクのケーキも美味しいけれど、これはまた別にストックしておきたいと思っていたのだ。
事前に電話して用意してもらったんだけど、大きな箱で三箱はなかなかの量だったし、従業員割引きしてもらったけどさすがに良いお値段になった。
でね、精算が終わり、車まで一回で運べないななんて思っていたら後ろから手が伸びてきた。
え?
振り返ったらアルクが居た。なんで。
「遅いから心配した」
そう言って箱を二つ持って運んでくれた。私も一箱持ってアルクの後ろを着いていく。
なんだか周りでキャーキャー言う声が聞こえた気がするけど、私はそれどころじゃなかった。だって心の準備が出来てない。
どうしよう、どんな顔したらいい? 何を話せばいい?
いつもどんな会話をしていたかとか混乱して何も思い出せなかった。
アルクに促されて車のトランクを開ける。
荷物を置いたアルクは私に向き直るとちょっと顔をしかめて私の顔に手を伸ばしてきた。
ビクッて、私は過剰に反応してしまう。アルクはちょっと困った顔をしたけど、私の顔を覗き込んで言った。
「目が赤いし腫れてる。何かあったのか?」
アルクの顔が見れない。うつむいて言い訳をした。
「何でもないよ。ちょっとこすって赤くなっただけだから」
それだけ言ってさっさと運転席に座り、エンジンをかけた。
車の中で何を話したかとかよく覚えていない。アルクの質問になんとなく返していた気がするけど、緊張していて内容なんて入ってこなかった。
家に着いて、私はちょっと体調が悪い事にしてすぐに休むと言った。アルクと二人でいるのが辛かったのだ。早く一人になりたいと思った。
アルクにはすごく心配されたけど、大丈夫としか答えられない。
ああ、もっと普通に出来ると思ったのに。これじゃ全然駄目だ。
今夜一晩眠ったら、明日は全部忘れていないかな……。
◇
再び朝です。
結局よく眠れませんでした。最悪だね。
「……はぁ」
残念ながら起きても何も忘れられなかった。
でもね、いつまでも沈んだ気分でいるとみんなにも心配かけちゃうからね。カラ元気も元気うち、その内きっと普通に笑えるようになるよね。
「よしっ」
ちょっと気合を入れて起きて、アルクにも「おはよう」ってちゃんと挨拶できたよ。
「体調は? 起きて大丈夫なのか?」
「うん、寝たら元気になったよ。心配掛けてごめんね」
会話も出来る。
そう、これ以上勘違いしないように適度な距離を保てば大丈夫。
いつも通りに朝ごはんを食べて、ガイルに行ってお茶を飲む。
みんなが順にやってきて、お休み中にあった事の話などで盛り上がった。
マリーエさんはフランツさんと正式に婚約したそうですごく幸せそうだった。あと二人に触発されてか、騎士団内では今空前の婚約ラッシュが起こっているらしい。
それからエミール君はリリーナさんと演奏会に行ったんだって。デートだよね、仲良いなぁ。
「みんないいなぁ、私も恋人欲しい……」
「「「えっ」」」
思わず漏らした私の言葉に、何故かみんなが反応した。
「な、なに?」
「あ、いえ、リカ様がその、そういう事をおっしゃるのは珍しいなと……」
「そうかな?」
みんなが揃って頷いた。
「何か心境の変化でも?」
なんだか興味深げにされたけど、曖昧に笑ってごまかした。
あとアルクが何か言いたそうな顔をしていたけど見ない振りをした。
◇
その日はダンジョンに向かっていつも通りに探索した。
今までの水上での憂さを晴らすように「陸はいいですねっ!」って三人とも笑顔で魔物を切りまくりでした。ストレス発散できたかな? ちょっと羨ましい。
そういえば、今度の二十一階ではさっそくポーションなどのドロップ品が出た。やっぱりあの二十階層が特殊というかイレギュラーな階だったんじゃないかなと思ったのは私だけではないだろう。
魔物を倒してのドロップ品はどの階でもそれなりにあったんだよね。それがあそこではまったくなかったというのは不思議だった。
それにね、あの鍵。
あれだけ特別な場所に置かれていて、しかも唯一あの階で取得できたアイテムだ。
素通りしていた可能性もあるし、隠しアイテムというか特別感がすごくある。
エミール君の鑑定では「扉の鍵、回数制限なし」としか分からなかった。情報が少ないよね。一応、宝箱とかの鍵ではないことだけは分かったけど、それ以外は不明なままだ。
今の所使えそうな場所は見当たらないけど、いったいどこの鍵なんだろう。
でね、その日の探索を終えてそろそろ家に戻ろうかと思った時にロイさんが言ったんだよ。
「あの鍵、リカ様の扉には使えないんでしょうか」って。
え、私の扉に鍵穴なんてあったっけ?
みんなでちょっと顔を見合わせてしまった。
とりあえず扉を出して確認してみる。
だけど鍵穴は……ないよねぇ。
一応あの鍵も鞄から出したよ。でね、なんとなくドアノブの下あたり、鍵穴がありそうな場所に鍵を持っていったんだよね。
そうしたら……なんと鍵の先が扉に吸い込まれていった。
「え」
思わず声が出た。
そしてこれはもしかしてって思ってちょっと捻ったら「カチッ」って音がしたのだ。
「「「「おおっ」」」」
これにはもうびっくりだよね。
振り返ってみんなの顔を見た。
みんなが頷き、扉の先に注目が集まる。
一体どこに繋がっているんだろう。
「開けるよ?」
ドキドキしながらノブを捻ったら……
鍵が掛かってました……あれぇ?




