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 翌日、副騎士団長からは騎士団長を快く貸し出してもらうことが出来た。


 甘い物が好きだと聞いたのでアルク特製お菓子詰め合わせセットを持って行ってもらったおかげかな。


 騎士団長は自分が活躍できるとあってとてもご機嫌だ。しかも早くダンジョンへ行こうとかなり早い時間にやってきた。マリーエさんは引きずられるように連れてこられて、少し怒っている姿が珍しかった。


 結局エミール君とロイさんを待たなくてはいけないので出発はいつも通りになったけど、何だか朝から騒がしくて疲れてしまった。これだけ見ても騎士団長の周りは色々大変そうだなと思う。


 さて、いつものお茶も飲んだことだし、そろそろ出発だ。



     ◇



 今回もボートは無事だった。


 いつボートが壊されるかとか心配だし、扉を開けるのがドキドキするので早くこの水上を脱出したいと思う。


 昨日の魔物の場所からはかなり距離を取っていたので、まずはそこへ向かうことにする。こういう時に方向がちゃんと分かるアルクは便利だよね。


 今日は漕ぎ手がいるのですごいスピードで目的地に着くことが出来た。


 あの海坊主はいるかなーとちょっと心配したんだけど、同じ場所に現れてくれた。魔物って出現場所は固定されているんだろうか。


 とりあえず少し離れた場所でボートを停止させる。一定の範囲まで近づくと寄ってくるんだけど、この辺りだと魔物は停止したままでいることは確認済みだった。



 魔物を目の前にして騎士団長はもの凄くやる気だ。


「はっはっはっはっ、お前が俺の相手か! すぐに焼き尽くしてやろうではないかっ!!」


 船首に足を掛け、魔物に向かって剣を向けて叫んでいる。


 うん、テンション高いね、頑張れー。


 だけどね、ロイさんからストップが掛った。


「あ、ちょっと待って下さい。少しだけ昨日の案を試してみませんか?」


 案って何のことだろうと思ったら、あの「凍らせて砕く」というやつだった。


 ええ、もう忘れようよと思ったんだけどロイさんはしつこかった。


「アルク殿なら一部なら凍らせることが出来るのではないでしょうか」


 どうもね、ロイさんはやってみたくてうずうずしているらしい。


「後進の為にもここはあらゆる手段を試すべきです」


 もっともらしい事を言っているけど、たぶん自分が興味あるだけだと思う。


 エミール君は「後進の為」という言葉に「まあ確かに」とちょっと肯定的だったけど、マリーエさんは苦笑していた。アルクはどうでもよさそうだけど、何故かみんな私の方を見ている。え、なにこれ、私が決めるの?


 前方では待てを言われた騎士団長はイライラしているし、早くしないといけなそう。えー、困ったな。


「うーん、じゃあちょっとだけやってみようか」


 興味がない訳じゃないんだよね。そんな訳でいきなりですが実験スタートです。


 まずはアルクだ。昨日は氷の塊をぶつけるような攻撃だったけど、今日はいつもと違うやり方でお願いする。やはり全体は難しいようなので部分的に凍らせてもらうことになったけど果たして凍るのかな……。


 そう思って観察していたら、魔物の一部が白っぽく色が変わってなんとなく凍ったように見えた。


 でもこれ、砕くのは難しそうじゃない?


 なのでまずは騎士団長に刃を飛ばしてもらうことにする。最初は色の変わっていない場所を攻撃してもらったけど傷はまったく付かなかった。少しへこんだようには見えたけどね。


「なんだあの魔物」


 騎士団長は話は聞いていたようだけど、自分の剣で切れないことに驚いていた。


 そして次に色の変わった部分に向けて攻撃してもらう。


 ザクッ。


 音を立てて刃が魔物の体を傷つけた。おお、なんか傷口がパックリ綺麗に切れてる。


「いい感じですね」


「うん、思ったよりちゃんと攻撃出来てるね」


 カチンコチンに固まっている感じではなく、半冷凍みたいな感じかな。攻撃は出来るようになったのでこれは成功ってことでいい気がする。


 魔物は痛みを感じるんだろうか。体をウネウネさせるけど切り口はそのままだ。すぐに傷口がくっつきそうにも思えたけど、かなり奥まで凍っているのかもしれない。


 魔物はあの場から動かなかった。なのでこの攻撃を続ければ削っていけそうだよねとロイさんと話していたんだけど、途中で騎士団長が会話に割って入って来た。


「なあ、もう実験とやらはいいだろう? やっていいか?」


 どうやら我慢の限界らしい。


 ロイさんはもうちょっと続けたそうだったけどまあいいか。


「あ、はい、じゃあお願いします」


 という訳で、今度は本命の炎の攻撃だ。


 騎士団長が「おう、任せとけ」そう言って剣に炎をまとわせた。


 ……お願いだからボートは燃やさないで欲しい。


 あれ、でも炎の刃も飛ばせるんだっけ?


 ダンッ。


 そう思った時には騎士団長は飛んでいた。


 踏み込みで先頭のボートが大きく沈む。


 ええ、ここから届くんだと思ったけど、そういえばあの球体の時も凄い跳躍力だったっけ。



 剣にまとわせた炎をさらに大きくし、魔物の頭上から一気に振り降ろす騎士団長。


「たあああああっ!」


 ザクッジュワアァア――。


 魔物の表皮がジュワジュワと煙を出して燃えている。そこへさらに剣を押し込む。



「キュエーーー」



 口がどこかにあったのか、魔物の絶叫のようなものが聞こえた。


 傷口の広がりと共に炎が広がり、焼き切られた魔物は炎に包まれ燃えていく……。



 なんかね、どんどん全体が黒くなっていって、それまで見えなかった何本もの腕が水の中から伸びてきた。


 ゆらゆら腕が揺れている様子は巨大なイソギンチャクみたいで……なかなかの気持ち悪さだ。



 そして燃え続ける魔物は溶けるよに崩れ、やがて……水中に消えていった――。




 おお、見事に一人で倒しちゃったねぇ。


 マリーエさんとエミール君はちょっと悔しそうだ。


 しかしあの魔物、反撃らしいものもなかったし何だったんだろう。どうも今までとは勝手が違うというか……うーん。


 あ、ちなみに騎士団長は切りつけた後にそのまま水に沈んでいった。


 まあ、あまり心配はしていなかったけど、騎士団長はしばらくしてひょこっと水面に顔を出した。


 で、こちらに手をブンブン振って言ったのだ。


「なあ、下に何かあるぞ!」


 え、何かって何?




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