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その後もダンジョンの森を進み、二日半掛って森を抜けることが出来た。
他の階と違って順番に道を潰していけばいい訳ではない。なので進む方向をどうするかが問題だったんだけど、アルクの「ひたすら真っ直ぐ進んだ」という言葉に従った結果だ。
森の中でコンパスとかも無しによく進めると思うけどアルクには方向が分かるらしい。不思議能力が色々あるよね。方向音痴とは無縁で羨ましいです。
ただね、宝箱はなかったしアイテムのドロップもなかったのが気になった。別方向に行ったら何かあったかもしれないなってちょっと思う。
さて、それでですね、結構強い魔物なんかにも時折遭遇しながらやっと森を抜けたんだけど、今度は目の前に水、というか大きな湖が広がっていた。
なんかね、やたらと透明度が高いんだよ。水辺が砂浜みたいになっていて、かなり先まで底が見える。そして見渡す限りどこまでも水面が広がっていた。
「これ、どうやって進めと?」
他に進める道はないかと歩いてみたけど、ずっと水辺が続くだけだった。これ端っことかあるんだろうかって感じだ。
どうやらここから先はこの湖を行くしかないらしい。だけど困ったね、おじいちゃんがここで終わりにしたのも納得な気がする。
アルクに聞いたら、おじいちゃんは船を用意することも考えたそうだ。だけど他に頼まれた仕事があったりで取り合えず区切りをつけてそのままになったらしい。
あー、なるほど。扉を別の場所で使っちゃうとここには戻れないし、また最初からは時間も掛かるし面倒だよね。
「船かぁ。どうする?」
「「「行きましょう」」」
みんなに聞いたら進む気満々だった。
まあそりゃそうだよね。せっかくここまで来たし、記録更新にもなる。何よりこの先が気になるよねぇ。
そんな訳で準備の為に私達はいったん家へ戻ることにした。
船はマリーエさんが騎士団にボートがあるはずだと言う。なので確認と手配をお願いしたけど、あと何が必要だろう。水上戦ってあったりする?
救命胴衣は流石に持ってないので一応浮き輪を探しておこうかな。蔵にあった気がするけど使えるだろうか。
エミール君やロイさんは武器について何やら話し合っていた。今までとは状況がかなり変わるから色々と考えないといけないようだ。確かに剣だけじゃ厳しいかもしれない。
その後も少し話し合いはしたけど、この日はこのまま解散することになった。
そして色々と準備もあるし、私も少し仕事をしたかったので明日の集合は午後からということにした。まあ船がなければ進めないので出発は準備が整えばの話なんだけど。
では、とりあえず二十階層到達おめでとう!
お疲れ様でしたー!
◇
翌日、私は午前中は予定通り仕事をした。
しかしパソコンを開いてデスクワークなんだけど、なんだかダンジョンなんて行ってるとギャップがあり過ぎて感覚がおかしくなるというか……
うん、気持ちを切り替えよう。
そうして私は仕事に集中した。だけどしばらくして、伯父さんから久しぶりに電話があった。伯父さんはかなりご機嫌な様子で、どうしたのかなと思ったら、なんでもここ最近のお店の売り上げが良かったのだと言う。
年末年始はギフトが大量に売れたし、二月はバレンタインデーがあった。三月のイベントはひな祭りとホワイトデーだ。
ひな祭りのケーキはホームページに掲載したけど飾りがとっても可愛いデコレーションケーキで、予約制でそこそこの数が出たらしい。
そして驚いたのがホワイトデーなんだけど、なんと毎年売り上げはバレンタインと変わらないくらいかそれより多いのだそうだ。
バレンタインの売り上げが多いのはなんとなく分かるけど、ホワイトデーもなんだって思って不思議な感じがしたんだよね。だけど伯父さんの話を聞いてちょっと納得した。
なんかね、男性のお客様は買い方が豪快らしい。女性ってどれにしようってすごくじっくり商品を選ぶじゃない?
で、悩んで悩んで結局買わなかったりとか。
だけど男性の場合は来店して商品を一瞥。店員さんに「これを十個」とか時間を掛けずにさっさと買って帰っていくらしい。値段もあんまり気にしない人が多くて、結構高めの物がよく出るんだそうだ。
あと当日のケーキもかなり売れるらしく、ホワイトデーはかなりの稼ぎ時なんだと伯父さんは教えてくれた。なんだか意外だったけど、ケーキ屋さん事情が知れてちょっと面白かった。。
ああそれと、卒業式シーズンでギフトも出て焼き菓子は欠品が出るほどらしく、改めてお店が繁盛しているなぁって思う。
それでそんなホクホクな様子の伯父さんからは、また新しい依頼があった。今度は「トークアプリを活用したい」というもの。
実は以前にお店の登録はしてあって友達の数もそれなりらしいんだけど、全然発信してないから「もったいないのでどうにかしたい」とのことだった。
また新しい事をと思ったけど、既に手を出して放置だったか……。
私はアプリ系はよく分からないので「ちょっと見てみます」と言っておいた。
「うん、よろしくねー」
伯父さんは相変わらずだった。
さて、では調べますか。
◇
お昼頃、何やら外が騒がしいというアルクの言葉にガイルの家に移動した。
そうしたらね、なんと騎士団の人達がボートを担いで持って来てくれていたんだよ。ちょっとびっくり。
だけどそういえばマリーエさんに収納鞄を渡すのを忘れていたんだよね。失敗。しかし今更気付いても遅いけど、まさか担いでくるとは思わなかった。
玄関前のスペースに結構大きめなボートが三隻置かれた。ちゃんとオールもあるけど、そうか、モーターじゃないんだ。
私は騎士の人達にお礼を言って、お土産にお菓子を渡したらすごく喜んでくれた。それで騎士さん達は帰っていったんだけど……うん、マリーエさんと一緒にどうして騎士団長まで残ってるんでしょうね?
騎士団長さんが一緒にボートを運んできてくれたのは見ていたし、ありがとうございますって思う。だけどこの後、この人どうするつもりなんだろうか。
その後、ボートをさっさと鞄にしまい、エミール君とロイさんもやって来たのでとりあえずみんなでお昼ご飯を食べることにした。
もちろん騎士団長も当然って顔で一緒に食べてたね。何でだろう。しかもご飯の減りが早いっ。
それで午後からは予定通りダンジョンに行くことにしたんだけど……
「俺も行く」
騎士団長の言葉にびっくり、というかまあ予想通りというか。
……暇なんですかね?




