表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/215

109



 エミール君は今はガイルの役所の一室に部屋を構えてお仕事をしている。細かい所はともかく、そろそろ目処も付きそうとのことで最後の頑張り中だそうだ。


 事件後、エミール君は領主様やクロフトさんへは真っ先に報告をしたそうなんだけど、相当驚かれたらしい。そりゃそうだろう、ダンジョンの杖に異界に魔物召喚、何それって話だよね。


 少し前に「婚約したい」なんて、これまで恋愛に無関心、というより嫌悪していたような次男についに相手が! と喜んでいたお父さんとお兄ちゃん。フリだとわかってもこれで少しは結婚に前向きになってくれればと喜んでいたんだって。


 なのに突然こんな事件の報告でしょう。最初は理解が追い付かなくて固まっていたそうだよ。可哀そうに。


 しかしさすがは領主様と次代様、すぐに再起動したらしい。だけどね、「リカ様の周りは思いもよらないことが起こりますね」って、そういう変な認識はやめてもらいたいと思う。私のせいじゃないもん。


 あとね、クロフトさんから通信がきて無事で良かったと言われたんだけど、何故かあの日の私の恰好も誉められたんだよね。「とてもお綺麗でしたよ」って。


 なんでクロフトさんが知ってるんだろうと思ったら、例の鏡を使った映像を送ってもらったって。え、何それどういうこと?


 エミール君を問い詰めたら、どうやら私の衣装の出資者はクロフトさんだったらしい。


「カランでのリカの衣装が随分と質素だったと兄上が気にしていまして。その、もっとふさわしい物をと指示されたんです。それで当日の姿を見たいと言うので……」


 私の肖像権っ!


 エミール君には厳重注意しておいた。いくら衣装代を出してくれているとはいえ、本人に無断では駄目だと思うんだけど。


 こちらではそういうのって許されるのか聞いたら「ないですねー」ってロイさんが笑ってたし、マリーエさんも首を振っていた。


 エミール君は私が怒ったことにすごく慌てて謝ってきたけど、しばらくはご飯のお替り無しって言ったらめちゃくちゃシュンとしていた。


 本当にもう、ちゃんと反省してよね!



 さてもう一人、すごく厄介な人がいる。


 そう殿下だ。


 あの人が面白がらないはずがないよね。主従は似るものなんだろうか。


 事件からしばらくして殿下からの通信が来た。


「一応を気を使って直後には連絡しなかったんだぞ」


 そう言われたけど、そういうのはわざわざ言葉にするものじゃないと思う。


「体調はどうだ?」


「おかげさまで何ともないです」


「そうか、それは何よりだ。あいつから詳細は聞いているが、今回は本当によくやってくれた。お前がいなければどうなっていたことか……不測の事態でよくあの場を救ってくれた、礼を言う」


 うん、こうやって私なんかにもちゃんと頭を下げられるのはこの人の凄いところだよね。


「王都に来た際には褒美も用意するので、何か希望があれば言ってくれ」


 え、それじゃあ……


「王都に来るのは決定だし、謁見も菓子の件も無効にはならん」


 むぅ。


「お前本当に分かりやすいな。考えてることが全部顔に出てるぞ?」


 殿下に呆れられた。だけど褒美と言いながら私の希望を叶えてくれないのは酷いと思う。


「しかし素晴らしい活躍だったそうじゃないか。私もその場に“婚約者”として参加したかったぞ。間近で見れなくて残念だ」


「はあそうですか……」


 なにが間近で、だ。本当に大変だったのに分かってないでしょ。しかも私がリリーナさんの婚約者候補に殿下をあげたことまで知ってるみたいだし……ロイさんめ、しゃべったな。


「お前の持つ力はもちろんだが、杖の性能も凄まじいようだな。おかげで死者を出すこともなかったと聞いた。しかも異界の魔物を切った剣もダンジョンの物なのだろう? やはりダンジョンアイテムの力は目を見張るものがある」


 実は騎士団長の剣もダンジョンの剣だったらしい。昔なにかの褒美で下賜されたものらしいけど、どうりで炎が出るとか規格外な訳だよね。


 出てきた魔物は普通の剣でも切れたけど、あの凶悪な手はダンジョンの剣でないと切れなかっただろうとみんなが言っていた。二本の剣があの時あの場になければ最悪な事態になっていたかもしれない、と。


 だけどね、確かに私の持つ杖やマリーエさん達が持つ剣であの場はなんとかなったけど、あの事態を引き起こしたのもダンジョンの杖なんだってこと分かってるのかな。素晴らしいとか言ってないで管理をもっとちゃんとして欲しいものだ。


 私が苦言を呈したら一応神妙な顔で殿下は頷いてくれた。


「うむ、それについては申し訳なく思っている。把握していなかったこちらの落ち度だ。今後はアイテムの管理体制を見直す為に対応を急いでいる」


 うん、ぜひそうして欲しい。あれ、だけど……。


「もしかして私達が見つけたアイテムとか没収になったりします?」


 国の管理になって取り上げられたりするんだろうか。


「いや、それはないから安心しろ。もちろん場合によっては提出させることもあるだろうが、あくまで危険な物がないかの把握と所在確認を徹底する予定だ」


 それは良かった、ちょっと安心。便利な収納鞄とか取り上げられたら嫌だもん。


 だけどあんな杖のような危険な物がこれ以上ないといいんだけど。滅多にある事ではないと思うけど、今回みたいなことはもう勘弁して欲しい。あれをもう一回やれと言われても私には無理です、対応しかねます。


 殿下はその後も色々言いたい放題、一方的に私はいじられた。いい加減終わりにして欲しいなー。


「ああ、それから」


 そう思いながら通信を切れずに困っていたら、何故か急に殿下はにっこりと良い笑顔を浮かべた。


「オムライスとミートソース、それにチョコレート、だったか? 大層美味いらしいな。ぜひ私も食べたいぞ」


 え?


 よろしく頼むと言われて唐突に通信は終わった。


 ロイさんめー、しっかり話してるし本当に余計なことを。



 ……あれ、だけどそういえば何か忘れているような気がするんだけど……何だっけ?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ