93話 恋人と特別じゃない、けど特別な日
ぼく、上田真司。恋人の里香と結ばれた、翌日のこと。
義妹のダリアは、ちょっと用事があるから~って家を出て行った。
リビングのソファでごろ寝しながら、ひとりでスマホをいじってると、里香からラインがきたっ。
「おはよーっと」
ぼくはラインを返す。すると『へんじはや~』と帰ってきた。
『里香もへんじはやいよ~』
『そうかな? しんちゃんのラインだからだね!』
『じゃあぼくもりかのラインだから速いんだね』
スタンプが送られてきた。デジマスのヒロイン、ちょびが照れてるスタンプ。
ふふふっ。
『最近ね、りか』
『なんですかね? しんちゃん?』
『こうしてなんてことないこと、話してるだけで、なんかたのしい』
『それはある。あたしもたのしい。しんちゃんから返事がくるだけで、たのしい』
あの熱海の一件があってから、里香と思いが重ねる時が多くなった気がする。
ぼくが感じてることを、里香もまた感じてくれてる。
それがどんどんと多くなってきて、それが、うれしいんだ。
『おいこら』
『え、なに?』
『パス』
『パス?』
『会話とめないでよ。さみしいよ』
『かまってちゃんめ』
『うるさい。だれのせいだだれの』
『あ、ぼくか。ごめん』
『うむ。……てゆーか、しんちゃん暇?』
暇、かぁ……。
『うん。特に予定ないかな。ダリアとこのあとご飯行くくらい』
『予定あんじゃん!』
しゃー、と今度はデジマスのサブヒロイン、みけちゃんが怒ってるらいんスタンプが送られてきた。
『三人でいこうよ。ダリアも良いっていいうよ』
『だめです。二人で行ってきなさい』
『その心は?』
多分、ダリアに気遣ってるんだろうなぁ。最近ずっとぼくらいちゃいちゃしてたから。
『熱海では、あたしがしんちゃんとずっといちゃついてたでしょ。ダリアもさみしがってるよ。お兄ちゃんとして、妹をかまってあげなさい』
ほらね、ぼくの予想通りだった。ふふ。
でも里香は本当に、友達のダリアのことが好きなんだなぁ。こうして気にかけてあげてるしね。
『でもそうすると、恋人はどうかまえばよいでしょうか?』
『ラインで良いわよ。十分しんちゃんとつながってるし。それだけで今は満足』
身体を重ねてから、目の前に里香がいなくても、不安に駆られることはなくなった。
ぼくがいないとこで、ほかの男と~みたいな、そういう不安。
こうして何気ないメッセージを送って、会話して、それだけで、結構心が満たされる。
『しんちゃん、あくまで今はだからね! 普通に会いたい気持ちはあるんだから』
まあ、そこについてはぼくも同意見だ。
『ビデオ通話に切り替える?』
『だめ。しんちゃんをぎゅーってしてちゅーってできないから、余計フラストレーションたまります』
『あらまあ。たしかにぼくも、ビデオ通話だと里香をぎゅーってしてちゅーできないから、辛くなるかも』
『でしょ?』
『うん』
『じゃ、ダリアとご飯食べて、時間余ったら、ちょっと会いましょ? せっかくの試験休みなんだし』
里香に会える。ふふ、それだけで今日は特別なハッピーデイになるな。試験休みが加わって、ウルトラハッピーデイだ。
『しんちゃんー! もー! 急にパス止めないでよっ』
あ、またさみしがってる。
『ごめんごめん』
『罰としてあとで会うときに、しんちゃんからぎゅーしてね。アタシからはしないからね』
『えー』
『えーって?』
『どーせ里香の方からぎゅーしてくるでしょ』
『う・・・とにかくぎゅーしてくださいね』
ふふ、わかりましたよっ……と。って、あれ?
「じー」
「あ、ダリアお帰り」
義妹のダリアが後ろから、ぼくのラインを見ていた。
外から帰ってばっかりだからか、鼻の頭がちょっと赤くてかわいい。
「おあついですね、新婚さんは~」
「い、いやいや! 早いよまだぼくら高校生だし」
「あらまあ、ご結婚は確定的なので?」
「そりゃもちろん。里香のこと、大好きだし」
するとダリアが、にまっと笑う。
「お兄ちゃん、前より照れずに好きって言えるようになったね。これもエッチの影響かしら~」
「もう、馬鹿なこと言ってないで。ご飯行こう」
「はーいお兄ちゃん。ふふっ」
ぼくがダウンジャケット着ると、ダリアがぼくの腕にコアラみたいにひっつく。
「あ、いちおう言っとくと、これは兄妹のハグだから。お兄ちゃん、勘違いしちゃめーよ?」
「わかってるって。いこ。どこがいい?」
「ラーメン!」
「じゃあ金龍飯店かな」
駅前にある、安くておいしくて、量のある中華そば屋さんだ。
「お兄ちゃんとだったらどこでもいいよ。何食べても高級フレンチだし~♡」
「なんだそりゃ。さーいこいこ」
ぼくらは並んでマンションを出るのだった。




