91話 帰りの電車で、夢を見出す
上田 真司の妹となった、ダリア。
彼ら三人は熱海に出かけていた。
色々あって、彼らは今電車に乗っている。
贄川家が車を出そうかと言ってきたのだが、帰りの電車のチケットを事前の予約していたので、申し出は固辞したのだ。
「くー……」「すー……」
ボックス席に座る真司達。
正面には初々しいカップルが並んで、眠っている。
「なんてまあ、幸せな顔してらっしゃること」
真司達は二人手をつないで眠っている。
昨日の夜、今朝と、お互い求め続けたからか、寝不足なのだろう。
「…………」
異性として好きな、兄が、他の女とドンドン心と体の距離を詰めている。
けれどダリアは……幾ばくかの寂寥感こそあれど、嫉妬するようなまねはしない。
ダリアは真司のことも、里香のことも大好きなのだ。二人が幸せなのが、自分にとって幸せなのだ。
「…………」
手をつないで、仲良く眠っている二人。一歩引いて、この位置から二人を眺めるのが、最高の時間だ。
「写メしとこ」
このたびでたくさんの写真を撮った。スマホをフォルダーのなかには、思い出がいっぱい。
その最後の一枚として、写真を撮る。
パシャッ……。
「うん、よく撮れてる……ふふっ」
仲の良いカップルがそこには写ってる。何年後かわからないけど、多分二人は結ばれるだろう。
「そのときに、結婚式のムービー流すのもありかもね」
ああそうか、そういうのもありだな。じゃあ、とダリアは決意する。これからたくさん、ふたりの思い出をとってあげよう。
そうなると、良いカメラがほしくなる。
「バイトでもしよっかなー」
今お金に不自由は全然してないけど、さすがにお小遣いとしてもらったおかねで買うのは、違う気がした。
自分で働いて、手に入れたカメラに、ふたりの幸せな道程を記録して、最後に二人に披露するのだ。
「なんか、いつの間に将来の夢決まってるし……うける」
今まで生きてきて、将来に展望なんて持てなかった。でも里香と出会い、そして何より真司とであって運命は180度変わった。
ふたりには、何度感謝してもしきれない。特に真司には深い深い感謝の念を抱いていた。
「やっぱ、自分で働いて稼いでカメラ買おう。うん、そうしよ。……あんがとね、お兄ちゃん♡」
こうして長かった熱海旅行は、無事終了したのだった。




