89話 朝食
ぼく、上田真司は恋人の里香、義妹のダリアとともに、熱海に旅行に来ている。
本家のおじいさんの経営するホテル、その朝食会場へとやってきた。
昨日の時と同様に、ほぼ人が居ない……と思ったんだけど。
「あれ? 誰かいる?」
昨日三郎さんと一緒に食事を作ってくれた、デカいロシア人のおじさんが、隅っこで食事していた。
三郎さんの知り合いのおじさんと、そして、その前には一人の男の子が座ってる。
「そーきゅん、いーちゃんは?」
「あいつ部屋で食べるってさ」
「そっか。引きこもりなのに家族旅行に連れ出しちゃって、大丈夫かしらん」
「そこは大丈夫じゃない? 楽しんでたし、本人も」
会話がちらっと聞こえてきた。
ロシア人さんの家族かな……?
ふと、ロシア人おじさんと目が合う。にこっと会釈してきたので、ぼくも頭を下げて返事をしておいた。
ぼくと里香、そしてダリアの三人はちょっと離れたとこに座る。
「おはようございやす」
「次郎太さん」
スーツに割烹着を着た次郎太さんが、朝食を運んできた。
ぼくらの前にテキパキと、ご飯を並べていく。
「う……量が多そう。食べきれるかしら」
里香が不安そうだ。彼女が言うとおり、ちょっと量多い。
「湯豆腐など、お腹に優しい料理となっております。そこまで重くはないかと」
「それに、食べきれなかったらぼくが食べるよ。安心して」
「しんちゃん……♡ 頼もしい♡ すてきっ♡」
里香に褒められると、朝から胸がほわほわする。
やっぱりいいなぁ、里香と一緒にいるの、すごくすごく楽しい。
「……いいなぁ、彼女。俺も欲しい」
と、ロシア人さんの息子さんらしき人が、こっちを見てそうつぶやいていたのだった。




