86話 共依存
明け方。ぼくが目を覚ますと、隣にいたはずの里香がいなかった。
「里香……?」
途端、さみしい気持ちになってしまう。もうぼくの隣に彼女がいないって状態が、ただならぬストレスとして感じるようになってしまった。
あって当然のものがないと、そわそわして、落ち着かない。眼鏡とか、財布とか。それと同じ。まあ物と同じではないけど、物のたとえとして。
ぼくは里香を探す。今すぐ、即刻、抱きしめてあげたいって気持ちでいっぱいだ。
やがてぼくは、部屋にある露天風呂にたどり着いた。
内風呂の、すごい版。ここには露天風呂が部屋ごとに設定されているのだ。
「あ、しんちゃん? おはよー」
里香がふにゃふにゃと、ぼくに笑いかけてくる。
ぼくは……彼女の柔らかい、子猫みたいな笑みを見て心から安堵し……そして、むくむくと黒い感情がわき上がってきた。
彼女のそばまでやってきて、隣に座る。そして、ぎゅーっと抱きしめる。
「どうしたの?」
「勝手に居なくなったから、その罰」
里香がぽかんと目を丸くしていたが、くすくすといたずらっ子のように笑う。
「おやおや、しんちゃん君は、あたしがいなくなってさみしかったのかなー?」
「そのとおりだよ、もう。勝手に居なくなるなんて」
「ごめんごめん~♡」
全然反省して居なさそうだ。
「何その顔?」
「ふふっ♡ だぁって、しんちゃんが、アタシに執着してくれてるのがさー、うれしくって」
まるで反省の色が見られないな。よし、ちょっといたずらしちゃおう。
「じゃあ次はぼくが同じふうに、突然いなくなっちゃおうかな?」
「えーーーーーーーー! だめーーーーーーーーーーーー!」
今度は里香が慌てる番だった。
ぼくのことを、ぎゅーっと強く抱きしめてくる。
「しんちゃんがいなくなったら死ぬわよ!?」
「し、死なないよ……」
「無理! 死にます! 離れないでください!」
なんだかおかしくって、ぼくは笑ってしまう。
似たもの同士だなって、そう思った。




