85話 重なる心
海で、里香と一緒に過ごした後……。
ぼくたちはホテルへ向かい、体を重ねた。
……最初は上手くいかなかった。
最後まで、上手とは言えなかったと思う。
でも……より深く里香を感じることができた。
里香もまた、同じ思いをしているのだと伝わってきた。
ぼくらは体を重ね、お互いの心をより深く……理解した。
あの行為は、コミュニケーション手段の一つなんだって、理解した。
重ねることでわかることがある。
性的な心地よさとはまた別の、快感だ。
お互いが重なって、一つになる。
知らなかった部分を知ることができる。それが……うれしい。だから恋人達は行為に及ぶんだろうな、とボンヤリ思った。
「…………」
汗だくの状態で、ぼくは目ざめる。
隣には同じく汗まみれで、何一つ身に纏っていない里香が居た。
「…………」
ぼくはそっ、と布団かける。今は冬だし、さすがに風邪引いちゃうからね。
「しんちゃん……」
ふへ……と里香が柔らかくほほえむ。
「ありがと……だいすきぃ……」
お礼なんて不要だ。だってもうお互い、強く深く結ばれてるんだ。
里香に対して何かをするのに、もう理由を必要としない。
どこで見たことがある。
理由がないと合わないのが他人で、理由を作ってでも会いたいのが友達で、理由がなくても会いたいのが、恋人だって。
まさに、ぼくは今、その状態だ。
もう理由なんてぼくらには必要ない。
お互いは、お互いをよく理解してる。お互いを求め合っている。
ぼくらは二人で一つなんだから。




