60話 お昼ご飯
遅くなり申し訳ございません。
ぼく、上田 真司。
恋人の里花、義妹のダリアと一緒に、試験休みを利用して、熱海に旅行へきていた。
ぼくは里花と同じ部屋に泊まることになった……。
がちゃ、と部屋の扉を開けると、そこには銀髪のギャルが立っている。
上田ダリア、ぼくの義妹だ。
にやにや、と笑っていた。
「日が高いうちから、お盛んなことで~」
「「ちっがう!」」
どうやら同じ部屋で、せ……せ……わわ!
あれをしているのだと、思っていたらしい!
「違うから……!」
「そうだよね、しんちゃん!」
「うん、ちがうから……!」
確かにぼくはここに、里花ともう一歩、次のステージに進むために来た。
けどさすがにそんな、来て早々だなんて……。
「わかってるって~冗談だよ」
……か、からかわれてただけだった。
まったくもお……。
「じゃ、昼ご飯いこっか」
「そだね」
ぼくらは既にお昼ご飯を予約してる。
海沿いにあるお食事処だ。
「駅からちょっと離れてるみたいね」
里花がスマホを操作して、位置情報を調べる。
「ホテルでタクシー呼んでもらう?」
「あー、問題ないよ。助っ人にあーし、頼んどいたから」
ダリアとともに、ぼくらはホテルの玄関へと向かう。
「へいらっしゃい! 三郎タクシーでっせ!」
「三郎さん……」
ぼくらの知り合い、贄川 三郎さんが、玄関口で待っていた。
スーツの上から半纏をまとっている。
むっきむきなので、半纏がぴちぴちしていた。
「ダリア嬢から運転手任されてよぉう!」
「え、良いの?」
「もち! というか、最初からそうするつもりだったしね! ささ、乗った乗った」
送迎車がまた、ホテルの前に止まっていた。
当初は自分たちだけで回ろうとしたけど……。
「気にしなくて良いっていってんだから、ありがたく送ってもらうよ、ね、お兄ちゃん?」
「そそそ。真司くんのためなら、おれぁえんやこーらだぜ!」
三郎さんはいつも通りにかっと、明るい笑みで答えてくれる。
突然の申し出だったろうに、嫌な顔絶対しない。
好意に甘えてばっかりで、申し訳ないけど……うん。逆に好意をむげにするのもよくないね。
「じゃ、お願いします」
「よろしくです!」
「あいあい! さ、のったのった~」
ぼくらは三郎さんの運転する送迎車に乗って、ホテルから南東へと下っていく。
「わ……! 見てしんちゃん! 海よ海!」
ぼくの隣に座る里花が、窓に張り付いて、目を輝かせている。
「わぁ……冬の海って、綺麗だよね」
「ね!」
乾いた青空を反射して、どこまでも続いていく、広い海。
今日はよく晴れているからか、海面に光が反射してキラキラと綺麗だ。
でも一番きれいなのは、海を見て目を輝かせている里花、だと思う。ふふ。
「ん? なぁに?」
「ふふ……里花がかわいいなーって」
「にゃっ! ど、どど、どうも……」
「ふふ……」
里花が照れたのか、うつむいて自分の髪の毛を手で触る。
「だいぶ、黒くなってきたね」
里花は最初、髪の毛を金色に染めていた。
だがクラスメイト達への復讐のため、里花は染めるのを辞めた。
黒髪の清楚な美人になって、見返そうと。
「変かな? ちょっとプリンみたいで、嫌なのよね」
頭頂部の部分から、先端に向かって黒くなっている。
確かに遠目に見るとプリンに見えなくもない。
「でも世界一おいしそうなプリンだなぁ」
「も、も~♡ おいしそうって、食べるつもり?」
「うん。ほっぺとか、もちもちしてそう」
「やー♡ もー♡」
はっ……! し、視線を感じる。
前に座っているダリアが、にまにまと笑っていた。
「「あ、いや……その……」」
「あー、ごめんね、邪魔して。続けて」
「どうぞ続けて!」
二人からバッチリ見られてたー!
くぅ……恥ずかしいよぉ……。
「いやぁ、相変わらずりかちゃんと真司くんは仲いいね~」
信号待ちしながら三郎さんが尋ねてくる。
「ん? もうしたの? ね、もうしたの?」
「「…………」」
そ、それは……まだ……だ。
でもそれは……うう……。
「はいはい、三郎さん。信号変わったから」
「お、はーいはい」
三郎さんのせいで車内に気まずい雰囲気が!
ああもう……いい人なんだけど、下世話なんだよなぁ。
そうこうしてると、昼飯を食べる食事処へと到着した。
「三郎さんはどうするの?」
「おれぁ適当に時間つぶしとっから、ご飯たのしんでてちょー」
三郎さんに悪い気がした。ぼくらだけおいしいご飯を食べるの……。
「あ、マジで気にしなくて良いよ。おれ、あっちの飯屋いっとくっから」
すぐ近くにも食事処が何件もあった。
「いえーい、サボれるし経費で昼飯食えるしラッキー」
……といって、三郎さんがスキップして離れていった。
まったく……。
「それじゃ、お昼ご飯食べよっか」




