55話 旅行の予定
ダリアから旅行へ行きたい、という要望を受けた。
翌日の放課後、里花がぼくの家へと遊びに来ていた。
ソファに座っている里花とダリア。
「こっちのどう?」
「えー、あたしこっちのほうが似合うと思うー」
女子二人がファッション雑誌を並んで読んでいる。
本当に仲いいよなぁこの子ら。
「コーヒー入ったよー」
「「ありがとー!」」
テーブルをかこうぼくたち。
「で、旅行って言うけどどこいく?」
ぼくが言うと、ダリアが鞄から雑誌を取り出す。
「ここなんてどう?」
「熱海……?」
「そ。近いし温泉もあるしさ」
「いいね。里花は?」
「あたしも良いと思う。海も温泉もあるし」
満場一致で熱海になった。
「2月の頭が試験休みあっから、そこを利用していこーか」
「あれ? ダリア、こないだも試験休みなかった?」
里花が彼女に聞く。
ぼくとダリアがお台場でデートしたときも、試験休みだった。
「あれはスポーツ入試の休み。今度は普通の入試。2日休みなのよ」
「へえー……ダリアは物知りねぇ!」
ダリアがちょっと照れくさそうにしながら、雑誌をめくる。
「熱海のホテルって結構あるみたいだけど、どーする?」
「そうだねぇ」
ぼくらは雑誌を見たり、旅ブログを見たりしながら、泊まる宿を探す。
「あ、これよくない? 部屋にちいさな露天風呂ついてるって!」
「「おー!」」
ぼくが雑誌を開いてみせると、彼女が達が目を輝かせる。
「いいわね! ご飯もおいしそう!」
「お兄ちゃんセンスあるねー」
いやはや。
「じゃ、ここに1室でいいよね♡」
「「いやちょっと待って!」」
ダリアが爆弾発言して、里花とぼくが止める。
「んー? どうしたのお兄ちゃん?」
「や、さすがに男女混成で、1部屋はちょっと……」
ダリアがにまーっと笑う。
「あらなぁに、お兄ちゃん♡ あーしらと三人で、エッチなことする気なーん?」
「「なっ!?」」
な、ななん、何を言ってるんだー!
「だ、ダリア! へ、へっへ、変なこと言わないでよっ! そんなこと……するわけないでしょー!」
「あらら、そうなん? 3人も中々いいもんよ?」
「「しません……!」」
ケラケラとダリアが笑うと、
「冗談よ冗談。2部屋予約しとくから。宿の確保はあーしにまかせて」
良かった……3人同じ部屋とか……うう、恥ずかしいよぉ……。
ダリアがタブレットを操作する。
「移動はどうしよう。三郎さんに頼めば車出してもらえると思うけど」
「でも2日間も連れ回すのは悪いわよ。電車とタクシーにしましょ」
どんどんと計画が固まっていく。
ちょっと遅くなったので、途中で出前を頼んだ。
そんなふうにわいわいしてる間に、旅行の計画は無事完成した。
「じゃ、2月頭に旅行って事で」
「「はーい!」」
もう結構遅くなってしまった。
「駅まで送るよ」
「ありがと~」
ぼくは里花とともにマンションを出る。
二人で並んで、駅へと向かう。
「旅行楽しみね!」
「そーだねー」
里花がちらちら、とぼくを見てくる。
ぼくが手を伸ばすと、彼女はうれしそうに笑って、きゅっ、と手を握ってくる。
きゅっ、と指を絡めると、彼女もまたにぎにぎと返してくる。
ぼくらは特に話をするわけでもなく、手をつないで、夜の道を歩いている。
でも里花がすぐ近くにいるってだけで、心が安らかになるし、特別な時間に感じる。
「あ……もうすぐ、駅ね」
里花がちょっぴり残念そうに言う。
「ちょっと遠回りしてきませんか?」
「! それは……いいですね!」
里花が笑ってうなずいてくれる。
ぼくらは公園に寄ることにした。
★
真司が里花を送り届けている、一方その頃。
ダリアはベランダに出て、ひとり物思いにふけっていた。
「…………」
旅行、上手く行くと良いなとダリアは思う。
でも真司が里花をつれて、手をつないで駅まで送り届けていく様を見ると、やはり、胸の中でもやっとする……。
「ダリア。ただいま」
振り返ると真司が帰ってきた。
「随分と遅いお帰りですね」
にまっと、茶化すように笑うと、真司が照れくさそうに頭をかく。
「帰りに公園に寄ってね」
「だと思った。うん、ポイント高いよお兄ちゃん♡」
上手くやれてるようで、純粋にうれしい。
ふたりは部屋の中に入る。
「寒かったっしょ? お兄ちゃん何か飲む?」
「じゃー、ココアで」
「んー」
ダリアはココアとコーヒーを入れてリビングへと戻る。
ソファに座っている兄の隣に、ぽすん、と腰を下ろす。
「はい、どーぞ♡」
「ありがと」
ふたりでそろって温かい飲み物を飲む。
ちら、とダリアは真司を見上げる。
彼はスマホをいじっていた。
おそらくは里花と会話してるのだろう。
……なんというか、少しさみしかった。
ひょいっ、とダリアがスマホを取り上げる。
「どうしたの?」
「べつにー」
真司が手を伸ばしてくる。
ダリアはひょいっ、と遠ざける。
「いじわる?」
「いじわる♡」
「もー、返してよー」
「やー♡」
真司がダリアからスマホを奪おうとし、それを遠ざけるダリア。
人前でこんなこと絶対しないし、里花が居る前で、こんな幼稚なことはしない。
二人きりだからこそ、こんな普通の、兄妹みたいなやり取りができる。
「ごめんねお兄ちゃん、ハイこれ返すよ」
「もー、どうした急に?」
真司にスマホを返す。
「なんかその……かまってほしくって……」
……自分で正直に言って、恥ずかしくなった。
かぁ……と顔が赤くなるのを自覚する。
「い、今のなしで……」
「そっか。そっか。ごめんね」
よしよし、と真司がダリアのあたまをなでる。
心が晴れやかになって、もっと彼に触って欲しくなる。
ダリアは真司の肩に頭を乗せる。
「お兄ちゃん、あーしココアのほうがいいな♡ やっぱ」
「あ、じゃあ新しいの煎れてこようか?」
するとダリアは自分の持っていたマグカップをテーブルに置いて、真司からカップを取り上げる。
こくこく……と彼の飲みかけのココアを飲む。
「だ、ダリア……ちょ、恥ずかしいよ……」
「なぁにお兄ちゃん? 妹との間接キスくらいで、真っ赤になっちゃうの~?」
にまにま、と笑うダリア。
一方で真司もまた言う。
「でもダリアも顔真っ赤ですが?」
「そ……! そんなことねーし!」
「ほんとに? 首筋とか赤いよ」
「ちょっ!? マ!?」
「うそだよ」
「もー!」
妹として彼に甘えるのは、本当に心地よくて。
女として見てくれないさみしさなんて、忘れてしまう。
彼のそばは……危険だ。
無限に甘えたくなる。彼は何でも許してくれるから、いっぱいいっぱい甘えたくなってしまう……。
「ねーえ、お兄ちゃん」
「なぁに?」
ダリアは真司に膝枕してもらっている。
「りかたんとえっちしたい?」
「ぶっ……!? い、いきなり……なに?」
真司の顔が、ものすごい赤い。
「まあまあいいじゃんか」
本当は意識調査だ。
里花は真司と行為をしたいというのが。
真司がどう思ってるのか、先に探りを入れておいた方が良い。
里花だけがしたいとなっては、今回の旅行がパーになってしまうからだ。
「それは……その……」
「遠慮しなくて良いよ。思ったまま言ってみ?」
しばしもにょもにょと口ごもったあと……。
「……したい、よ」
ほっ、とダリアは内心で息をつく。
よかった……里花が恥をかかずにすみそうだ。
状況を整えてあげれば、多分二人は行為に及ぶだろう。
……うん。良かった。
「で、でも里花がほら、ね? どう思ってるかわからないし……不安で……」
ダリアはあきれてしまう。
こいつら、どっちも本当に奥手なんだなぁと。
「だいじょーぶよ。女の子って意外とスケベだしよ」
「そ、そーゆーもんなのですか、ダリア姉さん?」
「ん。女子は一皮むけば性欲の塊よ。男子といっしょ。りかたんもしたいって思ってんじゃない? あとは待ってるだけだよきっと」
さりげなさを装いながら、彼を導く。
きっと、じゃなくて里花は待っているのだ。真司が抱いてくれるのを。
でも彼はヘタレだから、こうしてあとを押ししてあげているのである。
「でも……でもなぁ……嫌われないかな」
「ないない。逆にそんなふーにうじうじしてるほうが、マイナス点ですな」
「そういうもん?」
「そーゆーもんよ。もう男らしく、がっ、と襲ってあげな」
「一番難しいな……」
顔を赤くする真司を見て、本当に里花のことが好きなんだなと、ダリアは見て思った。
「大丈夫よ。あ、でもムードが重要だからね。そこは気を遣ってあげようね」
「ムード?」
「そうそう。ムード重要だよ。上手にできるかどうかはあんま考えないほうがいいよ。良いムードで、幸せな最初を迎えてあげる。あとはまあ回数重ねて行けばなんとかなるって」
なるほど……と真司が真面目な顔でうなずく。
「まだ数日あるし、あーしが色々教えてあげるよ、女の子のこと」
「ほんと? ありがとっ」
「いいってこった。君にはいっぱい恩があるしね。……そのかわり、さ」
ダリアは照れくさそうに言う。
「また、その……頭なでて?」
「お安いご用だよ」
ダリアの銀髪を真司がなでる。
彼女は猫みたいに目を細めて、彼に体をゆだねる。
……あーしの体で、練習する?
前に、冗談めかしに言ったことがある。
でも今はいえない。
恥ずかしくて、照れくさくて……。
今こうして、妹として甘えているのが、一番心地よい……。




