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53話 それぞれの日常

【真司 サイド】


 1月下旬の土曜日。


「ふぁー……よくねたぁ……」


 ぼくは自分のベッドの上でのびをする。

 壁の時計を見ると、10時を回っていた。


「夜更かししてしまった……」


 昨日は深夜アニメを見ていたら、寝るのが遅くなってしまったのだ。


 もそもそとベッドから起きてリビングへと向かう。


「だりあー……? あれ?」


 一緒に住んでいるダリアの気配がない。


 テーブルの上に置き手紙があった。


『バイト行ってくるね、お兄ちゃん』


「バイト……喫茶店のか」


 ダリアはぼくんちの養子になったあともバイトを続けている。


 養育費はだしているのだけど、彼女は将来を見据えて、貯金をしておきたいんだってさ。


 えらいなぁ……。


『朝ご飯は冷蔵庫に入ってるからね』


 ありがたくダリアの作った朝食を取る。


「うーん、美味い……」


 里花もそうだけど、ダリアも料理が上手だ。


 女の子ってみんな料理得意なのかなぁ。


「…………」


 朝ご飯を食べたあと、暇になってしまった。

「お絵かきでもするかな」


 ぼくは自分の部屋までやってくると、パソコンの電源を付ける。


 ぼくは趣味で絵を描いていて、たまに同人誌を売っている。


 絵は最近だと紙ではなくパソコンで書けるから楽だよね。


 電源を入れるとディスコード(チャットみたいなモノ)が立ち上がる。


「あ、こうちゃん師匠いるじゃん」


 ディスコードのメンバーの中に、ぼくの絵の師匠がいる。


 ディスコードは立ち上げているとログイン状態かどうかわかる。


「久しぶりにお話ししてみるか」


 ぼくは師匠にメッセージを送る。


『これからお絵かきするんですが、一緒におしゃべりしませんか?』


 するとすぐに師匠から返事が返ってくる。


『よかろう』


 すぐに通話がかかってくる。

 ぼくはヘッドセットを付けて、絵の師匠たるこうちゃん師匠と会話する。


「こんちは、ししょー」

『うむ。ひさしぶりですわな』


 ヘッドセットの向こうから聞こえてくるのは、女の子の声。


 彼女は【みさやまこう】という、人気イラストレーター様だ。


「ししょー、早くない? 起きるの。いつも寝てる時間のような」


『ふっ……こうちゃんは寝てません。徹夜ですわ』


「あらら……体に悪いよ。何してたの?」


『えーぺっくすを少々』


 ガンシューティングゲームのことだ。


「ししょー、本当にえーぺっくす好きだねぇ」


『こうちゃんのあいでんててーですからな』


 ぼくたちはお絵かきソフトを起動させて、一緒に絵を描いていく。


 師匠は同時にお絵かき配信をしているようだ。


 この人は絵師さんでもあり、Vtuberでもある。


『最近めっきりこうちゃんのVtuber設定生かされてないからねー』


「ししょー? 何言ってるの?」


 みさやま師匠はロシア系の美少女だ。

 たまに日本語じゃないフレーズが漏れてくる。


『とゆーかみんなも覚えてる? こうちゃんVtuberなんよ? その設定忘れてた? 大丈夫こうちゃんも結構忘れる』


 そんなふうに雑談しながら、ぼくたちは絵を描き上げる。


 ふたりのコラボイラストだ。


『弟子よ、上手くなったな』

「ありがとー」


『ま、師匠が良いおかげですな! かーっ! こうちゃんまた人を導いてしまったか、かー!』


 そんな感じに師匠と気楽にお絵かきしながら、時間を潰したのだった。


    ★


【ダリア サイド】


 あーしこと黒姫くろひめダリア……じゃない、上田 ダリアは、この日駅前の喫茶店にいた。


 あーしはこの、この【喫茶あるくま】でバイトをしている。


「きゅーけーはいりまーす」


 スタッフさんたちに一声かけて、あーしはバックヤードへと向かう。


「あらぁん、ダリアちゅわん♡」


 机でモノ書きしていたのは、ゴツい感じのおっさんだ。


 シンジくんの知り合いのターミネーターさんとためを張る感じのごついひと。


塩尻しおじりてんちょー。こんちは」


「はぁい、こんにちわーん♡」


 体をくねらせながら店長が言う。


 ちなみにこの人見た目は男、中身は女、まー、おかまだ。


 別にあーしは店長が男だろうと女だろうと関係ない。


 あーしたちはソファに座って向き合って話している。


「ねーえー♡ どうどう、彼とはじゅんちょー?」


 店長はわくわくしながら尋ねてくる。


 店長が言っているのはあーしのお兄ちゃん、シンジくんのことだ。


 この人は中身が乙女なのせいだろうか、恋バナが大好きなのである。


「ん~。ちょーじゅんちょー」

「あらんまぁ~~~~~~♡ うらやましぃ~~~~♡」


 店長はあんまり男の人って感じがしない。

 女友達みたいな。


 まあでもりかたんとは恋バナってあんまできないんだよね。


 あの子うぶだから。


「やぁっと本気で好きになった彼ぴと一緒に住むことになったんだっけ~? きゃー♡ 素敵ぃ!」


「でっしょ~? ま、相手お兄ちゃんになっちゃって、手ぇ出せないんだけどね」


「あらやだそうなのぉ? でもいいじゃなーい? 好きな人と同棲できることには変わりないんだし」


「それなー」


 店長は子供からため口きかれても全然怒らない。


 というかフランクに接して欲しいらいし。


「もーね、やばいよ。毎日死にそうなくらい幸せなんよ」


「いいなぁ♡ いいなぁ♡ ね、ね、ちゅーは? もうしたのぉ?」


「ばっか。何言ってんのてんちょー、相手はお兄ちゃんなんだよ~? できるわけないじゃん」


「あらん? うふふ~♡ 百戦錬磨のダリアさんも、ガチ恋な相手にはうぶになっちゃうのか~♡」


「なっ! ち、ちげーし!」


 た、確かにエンコーとかしてたときは、キスに対して何も抵抗がなかった。


 でもシンジくん相手に、そういうことを、冗談でもできない自分がいる。


「えっちは?」

「めっちゃしたい」


「でしょうねぇ。ダリア性欲強いモノねぇ」


「まーね。今は自分で慰めてるけど、結構限界で」


「そうよねぇ、大好きな彼がすぐ近くで寝てるんですものねぇ♡ 部屋に押しかけて襲っちゃいそうなところを、ぐっと我慢してるのね」


「そーなの。もー我慢するので大変」


 じーっ、と店長があーしを見てふふっと笑う。


「その彼が、彼との関係が、本当に大事なのね」


 店長は会話の中から、あーしのシンジくんへの思いを悟ったようだ。


 そうだ、なんとも思ってないのなら、性欲を満たすためのえっちなキスをかなりしているはず。


 あーしがそうしないのは、シンジくんとの関係を壊したくないから。


「でもあーんまり奥手になり過ぎちゃうと、彼あんたのことを女じゃなくって、ガチで妹としか見てくれなくなるんじゃなーい?」


「それなー……それは、ちょっとやだな」


 りかたんの椅子を奪う気はさらさら無い。


 彼の妹という、最高の椅子をゲットしたから、なおのこと。


 けど……やっぱり。

 女の子として、見て欲しいんだよね、シンジくんには。


「わかるわぁん」

「まじー?」


「ええ♡ いつだって女は女って思われたいモノよねぇん」


 乙女が言うから言葉に重みがあるぜ。


「ま、適度にサービスしてあげなきゃね」


「そんなの言われなくってもわかってるし」


「釈迦に説法だったわねぇん。ま、ダリアちゅわんなら上手くやれそうね。安心したわぁん」


 そんなふうに、バイトの休憩時間は過ぎていった。


    ★


【里花 サイド】


 あたしはお母さん……山雅やまがお母さんと一緒に映画館にきていた。


 いつぞしんちゃんの後を付けてやってきた、川崎にあるショッピングモールだ。


「はー! 面白かったー!」


 あたしとお母さんは一緒に映画館を出る。


 手をつないでいる。


「里花ちゃん、面白かったね、ナノキュア!」


「うん!」


 ナノキュア。

 ちっちゃい女の子が大好きな、日曜の朝にやっているテレビシリーズ。


 今日はナノキュアの新シリーズ、そのアニメ映画の放映日だったので、お母さんと一緒に見に来ていた。


 あたしたちは喫茶店へと移動。


「里花ちゃん的にどこがよかったかにゃー?」


 山雅やまがお母さんが尋ねてくる。


「演出が良かったわね! やっぱ御嶽山みたけやま監督作品にはずれはないわ!」


「脚本もよかったわねぇ~!」


 あたしたちはオタク親子なので、こういう話題でもりあがれる。


 というか、そもそも論として、お母さんに影響されたオタクになった。


 お母さんはシングルマザーで、いつも忙しくしてたけど、昔から一緒にアニメ見たり、漫画見たりして、あたしがさみしい想いをしないようにしてくれてた。


 優しいお母さんなんだ。だから大好き。


 最近は水商売を辞めて、比較的時間に余裕ができたから、こうして頻繁にあたしたちは出かけている。


 アニメショップ行ったり、映画見に行ったり。


「ごめんねぇ、里花ちゃん」


「え? どうしたの急に?」


 ちょっと申し訳なさそうに、お母さんが言う。


「なんかやっちゃんばっかり舞い上がっちゃって。本当はしんちゃんとデートしたかったんじゃないの?」


「んー。でも今日しんちゃんとはデートの約束してないし。今日はお母さんに付き合うって決めてたから」


 昔は忙しくてできなかったことを、時間を、まるで埋めるかのように、あたしたちは出かけまくった。


 思春期の女の子達は、母親と出かけることに抵抗を覚えるかも知れない。


 でもあたしは全然思わない。

 お母さんのこと好きだし。


 お母さんが娘とこーゆーことしたがってたのも、知ってるし。


「そっかぁ~♡ じゃあ今日は思う存分あそびまくろうにゃーん!」


「そうだね。あ、そうだ! あたしカラオケいきたい! ナノキュア歌うー!」


「じゃあやっちゃんとデュエットだー!」


「うんっ!」


 あたしとお母さんは一緒に喫茶店を出る。

 

 手をつないで、笑いながら、休日の青空の下を歩いている。


 しんちゃんが仕事を紹介してくれて、うちは生活に余裕ができた。


 一緒にお母さんと遊ぶ時間ができた。


 ああ……好きだなぁ……あたし、しんちゃんのこと、ほんっとうに……

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― 新着の感想 ―
[一言] > というかフランクに接して欲しいらいし。 誤字なんだろうけどなんか可愛いからそのままでお願いします♡
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