52話 ダリア、お兄ちゃんと幸せに暮らす
ぼくの家に恋人の里花が来て、ダリアのことを話した。
マンションのバルコニーにて、ぼくは夜景を見下ろしていた。
「あ、そうだ。お礼を言っとかないと」
ぼくはスマホを取り出して電話をかける。
ワンコールが鳴り終わる前に相手が出る。
『おお! 真司よ!』
「じいちゃん、こんばんは」
電話の相手は本家のじいちゃん、開田 高原じいちゃんだ。
「忙しいのにごめんね」
『なに、気にせずとも良い。愛する孫からの電話だ。何にかえても出るに決まっておろう』
本当にうれしそうに話すなぁ。
「今回は、ごめんね。無理言っちゃって」
ダリアの居場所とかそのほか色んな事を、じいちゃんの権力に頼った。
しかも結構急に、無茶なお願いをしたと自覚はしている。
『真司が気にせずともよい。あの程度わしにとっては造作も無い事よ』
「そか。やっぱじいちゃんはすごいや」
『ははっ。何を言っておる。真司。おぬしもすごいぞ』
「ぼくが?」
『ああ。か弱き乙女のために行動し、人一人を救って見せた。誰にもできることではない。本当にすごいことだ』
じいちゃんがべた褒めしてくる。
気恥ずかしい。
「や、やめてよ……ぼくがやったことなんてほとんど何もないし。人に頼ったくらいで」
『いやいや、最初に行動を起こす。ゼロから1を、無から有を作り出す。これがこの世で最も難しいこと。おぬしはそれをやったのだ。誇ってよい。本当によく頑張った。素晴らしい行動だったぞ』
「あ、ありがと……」
なんというか、恥ずかしいな……身内からべた褒めされると……。
『資金面も気にするな。おぬしとダリアが暮らしていくのに十分な金を援助する』
「ありがとう、とても助かるよ」
『はは、お礼はそうさな、はやくひ孫の顔を見せておくれ』
この人また子供の話してる……。
どんだけひ孫に会いたいんだろうか。
『おお、そうだ。養子と実子は結婚ができるそうで……』
「あー、うん。はいはい、また今度。三郎さんにもよろしく伝えておいてね」
ぼくは電話を切って息をつく。
ほんと気の早いじいさんだ……。
「シンジくん」
振り返るとそこには、ダリアが微笑んで立っていた。
その手にはぼくのダウンジャケットが握られている。
「はいこれ。ごめんね、長話しちゃって」
里花とダリアの話のじゃまになっちゃだめかなって、すぐにバルコニーに出てたんだ。
だから上着を忘れてた。
「ありがとう」
ダリアがジャケットを広げて待っている。
ぼくが腕を通す。
「なんか、奥さんみたい? な、なーんつって……あ、あははは……」
自分で言ってて自分で恥ずかしくなったみたいだ。
頬を赤くしてうつむいてる。
「里花と話はすんだね?」
聞かずとも、ダリアの顔を見ればわかる。
何一つ憂いのない、笑顔を浮かべてうなずいた。
「シンジくんのおかげだよ。全部。本当にありがとう」
その顔には涙の色はもう無かった。
ダリアがいつもかかえていた、どこか悲しみの色もない。
何も一つ屈託のない笑顔を、彼女が浮かべている。
ああ、本当に良かったなぁ。
「君が元気になってくれてよかった。これからよろしくね」
ついこの間まで他人だった人と、義理とはいえ兄妹になる。
急な変化には戸惑うことだろうけど、最大限、バックアップしていこうと思う。
「……あの、さ。シンジくん……お願い、あんだけど」
ダリアが顔を真っ赤にして、もじもじと身をよじる。
「なにかな? 何でも言って。君の兄ちゃんなんだから、ぼく」
するとダリアが照れつつも、こんなことを言う。
「……これからいっぱい、甘えて、いい?」
かぁ……と頬を赤くして、ダリアが目をそらしながら言う。
「ご、ごめん。今の冗談だから!」
ぶんぶんと首を振る。
「いいよ。おいで」
ぼくにとってダリアは妹だ。
頼れるお姉さんに見えたのは、彼女が纏う闇がそう見せていただけ。
本当はさみしがり屋なんだって、ぼくは知っている。
そんな妹が甘えたいとご所望ならば、応えてあげるのがお兄ちゃんってやつだろう。
「あ、いや……その……」
「いやなの? じゃあやーめた」
するとダリアがうつむいて、ふるふる……と首を振る。
「……やだ。甘えたい」
「そか。じゃ、おいで」
ダリアは近づいてきて、ぼくの胸に抱きつく。
彼女のほうがちょっと背が高いので、少しかがんで、ぎゅーっと抱きついてきた。
「……頭なでなでして」
「うん、いいよ」
「……もっとぎゅっとして」
「はいはい」
ぼくは彼女が欲することをしてあげる。
ダリアは片時も離れず、ぎゅーっと抱きついたまま、ぼくにあれしてこれしてと言ってくる。
ほどなくして……。
ダリアは満足したのか、ゆっくりとぼくから離れる。
彼女の甘い匂いが体にすっかりしみついてしまった。
ふんわりと……優しい、甘い果実の匂いがする。
「はぁ……♡ ちょーしあわせ……♡」
とろんとした顔でダリアが言う。
「いつでも甘えて良いんだよ」
「……や、それは、ちょっとはずいし。りかたんに、こういうとこ見られたくないし……」
「それもそっか」
里花にとっての姉御みたいなもんだものね。
「……りかたんには内緒だよ」
「なにを?」
「だから……あーしの、この……今の、なんか……がきっぽいやつ……」
甘えてきたことってことだろうか。
「いいじゃん。子供っぽくって。かわいかったし」
「かわ……! だ、駄目だよ……ダリアさんはりかたんには、大人のお姉さんで通ってるんだから」
「メンツってやつ」
「そーゆーことっ」
「ん。委細承知だよ。ダリアが本当は誰よりも甘えん坊な妹だってことは、お兄ちゃんの名にかけて黙っとくから」
ダリアが頬を赤くしながら、ぼくに言う。
「……ね。もう一個、お願い……いいかな?」
「ん、どーぞ」
「た、たまに……でいいから……その……ふ、二人きりのときは……あの……お、お兄ちゃん……って呼んでいいかな?」
ダリアがおずおずと尋ねてくる。
そんな気兼ねしなくて良いのに……。
「うん。もちろん」
「そか……えへへ♡ お兄……ちゃん……」
ダリアが近づいてきて、ぼくの頭を抱きしめる。
「お兄ちゃん」
「はい」
「お兄ちゃんっ♡」
「はいはい」
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ♡」
ダリアはぎゅーっと強く抱きしめたあと……。
最高の笑顔を、ぼくに向けてくれる。
大人びてない、子供っぽく、けれど……まぶしい……まるで、光り輝く太陽のような笑みを。
「お兄ちゃん、大好きだよっ♡ ずっとずっと、そばにいてねっ♡」
こうしてぼくに、義理の妹ができたのだった。
これにて3章終了となります。
次回からまた新しい展開になります。
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