28話 みんなで夕飯
ぼくんちに同級生の里花とダリアさんが泊まりにきている。
一階のお店で買い物を終えたぼくらは部屋へと戻り、お夕飯の準備をする。
「じゃ、しんちゃん。台所借りるね」
きゅっ、とエプロンを着けるのは、金髪に染めたギャルの里花。
制服の上からエプロンをつけている。
前は超ミニスカートだったけど、今はスカートの丈が少しのびている。
黒いタイツにつつまれたおみ足がエプロンから見えて、それはそれでえっちぃ……。
「見とれてるね~♡ ドーテーくーん♡」
銀髪小麦ギャルなダリアさんが、椅子に腰掛けてニヤニヤと笑っている、
「そ、それはもちろん……だって可愛いし……」
「なっ!? か、かわ……そんな……んも~♡ しんちゃんってば~♡」
えへへ、と里花が頬を赤く染めて体くねらせる。
「はいはい夫婦漫才やってないで、早くごはんプリーズだよ~。あーしおなか減ったし~」
「「いや、別に夫婦漫才じゃ……ねえ?」」
「はいはい、お熱いこって」
そ、そうだよ外ではカップルの振りをしてるけど、別にぼくらは付き合ってるわけじゃない……。
でも……そうだよなぁ。
付き合ってる訳じゃあないんだよなぁ……はぁ……。
「じゃしんちゃんとダリアは待っててね」
「あ、待って。ぼくも手伝うよ」
「えっ!?」
里花が目をむいて言う。
「い、良いわよ! 泊めてもらうんだし」
「そんな申し訳ないよ。里花一人に全員分作らせるなんて」
「しんちゃん……いいやでもぉ」
買い物の件も含めて、申し訳なさを覚えているのかも知れない。
するとそこへダリアさんが口を挟む。
「ドーテーくんがいいっていうんだから、手伝わせてやんなよ、りかたん」
ダリアさんが溜息をついて言う。
「ま、りかたんがいやだっていうなら~? あーしと一緒に、ドーテーくんはベッドでいいことしちゃうけどね~♡」
「「なっ!? いいこと……!?」」
「そ♡ 気持ちいーい♡ こ・と♡」
ダリアさんが舌なめずりをして、何かをくわえるそぶりをする。
え、ええ!? そ、それって……もしかしてぇ……。
「だ、だだ、駄目よ駄目駄目! あたしのしんちゃんになんてことしようとすんのよばかー!」
里花が奪われまいと、ぼくの腕をぎゅっと抱きしめる。
エプロン越しでさえもその大きさと柔らかさは健在だ。
わ、わわ……!
「んじゃ大人しく二人で準備してたら~?」
「うぐ……そうするわ」
ダリアさんもしかして……。
ぱちんっ、と彼女がウインクをする。
どうやらまた助けてくれたみたいだ。
「じゃ、料理しよ」
「そ、そうね……。……二人そろって料理なんて、やった♡ やった♡ 新婚さんみたい~♡」
「え、なに?」
「なっ!? なんでもないわよ! ほ、ほらさっさと台所へ行くわよぉ!」
里花が顔を真っ赤にしてリビングを出て行く。
「素直じゃあないね~」
けらけらとダリアさんが笑う。
ぼくは里花の後を追って、ふたりで台所に立つ。
「じゃ、まず皮をむいてきます。しんちゃんはお米炊いて」
「あ、そっちぼくがやるよ」
「えー、でもしんちゃんぶきっちょだしなぁ」
「もう。でも里花のその爪じゃ、もし包丁で手を切ったら危ないよ」
「心配ご無用。何年台所当番やってると思ってるの?」
「でも里花の白くて綺麗な手を切ったら……やだよ」
「う゛……」
里花が手で心臓を抑えてる。
ぜえはぁと彼女が荒い呼吸を繰り返す。
「だ、ダイジョウブ……?」
「う、うん……だいじょぶ。……はぁもう、突然ぶっこんでくるんだからぁ♡ も~♡ しんちゃんうれしいこと言ってくれるじゃなーい♡」
ずっと里花が機嫌良さそうにニコニコしている。
ぼくは里花と手伝って野菜の皮をむいたり、米を炊いたりした。
ややあって。
「「かんせーい!」」
「待ちくたびれたよ~ん」
リビングの大きなテーブルの上には、カレー鍋がどんと置かれている。
夕飯はカレー。
人数が多いときはこれだよね。
「しんちゃんお皿~」
「はいはーい。あとスプーンもだねー」
「うん、たすかるー」
ぼくと里花が手分けしながら、ご飯の準備を進める。
ダリアさんはテーブルに肘をついて、によによと観察している。
「なによ、ダリア?」
「いやぁ、りかたんが生き生きしてるなぁって。やっぱ愛する夫との共同作業はたのしいかね~?」
「にゃ゛……!? な、何馬鹿なこといってるのよっ! しんちゃんはそんな関係じゃ……」
「あら~? 二人は付き合ってるんじゃあなかったの~?」
「うぇ!? そ、それは……そう、よ。そうよ。つ、付き合ってるわよ!」
ぼくはお皿とスプーンを持ってリビングへと戻る。
里花がうつむいて、顔を真っ赤にしていた。
「あーしねぇ、ちょーっと怪しんでるですなぁ~?」
「何を?」
「ん~? 二人が実は~……」
も、もしかして、ニセコイがばれてる……?
「おなかへったー」
「「なんじゃそりゃ!」」
ぼくと里花がツッコミを入れる。
「なんか腹減ってさ~。さー食べよう食べよう~」
ま、まあ何はともあれ、ばれずにすんで良かった……。
ぼくらはカレーをお皿に注いで、
「「「いただきまーす!」」」
席の並びはぼくと里花が隣同士、正面にはダリアさんが座っている。
ダリアさんはカレーを一口食べる。
「ん~♡ りかたん、ドーテーくん、これちょーおいし~♡」
ダリアさんはほっぺを押さえて、体をくねらせる。
「そりゃよかった」
「やぁっぱりかたんの愛情がたぁっぷり注がれたカレーは美味しいですにゃ~♡」
「んなっ!? 何変なこと言ってるのよぉんもぉ♡」
ダリアさんが美味しそうにもぐもぐ食べてる一方で、里花が顔を赤くして照れていた。
「隠してもむだよーん。ドーテーくんへの愛情がカレーにしみこんでるぜ~?」
「そ、それは……」
「愛情はやっぱり何よりもスパイスですな~? ん~? りかたんどしたん? ゆでだこみたいに顔真っ赤にして~」
「あ……う……」
ダリアさんに散々いじられて、里花が参っていた。
「まあまあダリアさん。それくらいに」
「お~。今度は旦那がフォローいれるのかぁ。いい夫婦ですな~♡」
「「い、いやそんな……夫婦だなんて~……」」
ぼくも里花も照れてしまう。
いやほんと、夫婦って関係じゃないよ。
単にぼくらはニセコイの……関係……。
「「…………」」
里花とご飯を作る時間は、楽しかった。
こうして里花とご飯を食べるのも、おいしいし、楽しい。
だからこそ……感じてしまう。
なんで……。「……なんで本物じゃないんだろ」え?
里花が小さく何かをつぶやく。
ぼくは彼女を見やる。
「里花……? 今……なんて……?」
あう……と里花が顔を真っ赤にして、うつむく。
「何で本物じゃないんだ、だって~……おかしなのぉ。二人は恋人なんでしょ~?」
里花がぼくをちらっと見やる。
言いたいことはわかる。
たぶん親友にニセコイのことは、言いたいのだろう。
親友に嘘ついてるのが辛いんだ。
でも真実を明かすのは、やっぱりためらわれる。
ぼくらだけの秘密の関係だから……。
でも……。
「いいよ、里花がそうしたいなら」
ダリアさんはいい人だし、何よりぼくは里花の意思を尊重したい。
「あのね、ダリア。実はしんちゃんとあたし……本当は付き合ってないの」
彼女に打ち明ける。
すると……。
「ま、知ってたけどねーん」
「「知ってたのかよ……!」」
ダリアさんがこくんとうなずく。
「見てりゃわかるでしょ。あ、こいつらベッドで寝たなってのが」
「「わかんねえよ……!」」
「そういうなんつーの? 男女の空気感がなさすぎるってゆーか、初々しいにもほどがあるってゆーか。だから最初からま、わかってたさ」
ダリアさんがあっけらかんと言う。
なんとバレバレだったのか……。
「ごめん、ダリア。親友のあんたに黙ってて」
「ん~? ま、気にすんな。隠し事のひとつやふたつくらいで、このダリアさんがりかたんのこと、嫌いになるとでも~?」
にこーっと笑うダリアさん。
里花も彼女を信頼してるのか、苦笑する。
「そうね。悪かったわ」
「別にいいさ~? それより~。なーんでそんな面白いことになってるのか、おしえなよードーテーくーん?」
ダリアさんがずいっ、と顔を乗り出してくる。
南国フルーツみたいな、甘酸っぱい、むせ返るような甘い香りがする……。
「ちょっと、なんでしんちゃんに聞くのよ?」
「ドーテーくんなら、いろいろ出してくれるかなーって♡」
「だ、出すって……?」
にまぁ……と怪しく笑う。
「濃厚なや・つ♡」
「ばっ!? そんなことさせないんだから! しんちゃんはあたしのだもん!」
ぎゅーっと里花がぼくの腕を、いつも以上に強く抱きしめる。
「あっはっは♡ 濃厚な情報だよーん♡ 何と間違えたのかな~? ん~?」
「も、もう……! ダリアのばかばかー!」
そんな風に楽しく、夕飯の時間は過ぎていったのだった。




