24話 学校に、ヘリが来た
ターミネーター襲来した日の、放課後。
「しんちゃん帰りましょ」
「おっすー。ドーテーくーん」
里花とダリアさんがぼくも元へとやってくる。
「うん、帰ろっか。あ、でも……今電車動いてるかな?」
「確かに~。大雪だったもんね~」
ぼくたちは窓の外を見やる。
……そう。
昨日の夜から朝にかけて、都内で大雪が観測されたのだ。
朝は本数を絞って運転はしてたみたいだけど……。
「あ、やばいわしんちゃん。電車止まってるみたい。ネットのニュースでそう書いてるわ」
「あらら……電車が動かないんじゃ、帰りようがないね」
それはぼくだけじゃなくて、同級生達もだった。
「部活なくなったのはラッキー」「でもどうやって帰る? 電車なんだけどぉ」「歩きで? いやぁ勘弁」
そんなクラスメイト達の中で、元カノの妹子が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「わたしは帰るわ」
「妹子様、どうやって帰るんです?」
取り巻きのひとりがそう言う。
「いや様って。女王様かよ~。高貴なるオーラ全然ないのにね~。ウケる~」
けらけら、とダリアさんが小馬鹿にしたように笑う。
妹子がじろっとにらんできたけど、でもまた余裕の態度を取る。
「わたし、お手伝いさんが車で迎えに来てくれることになったの」
へー……妹子の家にもお手伝いさんがいるんだ。
「いいなぁ妹子様」「おれも乗せてってください!」「あたしもー!」
クラスメイト達が妹子に殺到する。
そりゃそっか。
車で帰ることができるのなら、着いてきたいって思うよね。
「しょうがないわね~。ま、良いわよ。うちの車たくさん人が乗れるし?」
ちらちら、と妹子がさっきからこっちに視線を向けてくる。
「どうしてもって頭下げるなら、上田くんたちも乗せてあげてもいいよ~?」
「は? 何あの態度、マジむかつく~」
ぴきっ、とダリアさんがこめかみに血管を浮かべる。
「まあまあ。あ、いも……中津川さん。ぼくはいいや」
「え?」
ぽかん……と妹子が口を開く。
「こ、この雪の中歩いて帰るの?」
「ううん。ぼくもさっき、迎え頼んだからさ」
妹子は予想と違った回答がきたからか、動揺する。
だがすぐにフンッ、と鼻を鳴らす。
「あ、そ。じゃみんな、帰りましょっか~」
「「「はーい!」」」
妹子とクラスメイト達の大半が教室を出て行く。
残されたのはぼくと里花、そしてダリアさん。
「あーしあの女嫌い」
「奇遇ね、あたしもちょー嫌い」
「ねーりかたんもそう思うよね。あいつ性格悪そう。なーにが頭下げればだよ。お姫様かっつーの」
ぶちぶち、と文句を言う里花達。
「じゃ、帰ろっか。迎え来るから、一緒に乗ってって」
「ありがと、しんちゃん」
「わーい♡ ドーテーくんやっさし~♡ そーゆーとこ好き~♡」
ぎゅーっとダリアさんがくっついてくる。
で、でけえ……! 柔らかいおっぱいが……!
「しんちゃー……ん?」
ごごご……!
「あ、ご、ごめん! 里花がいるから、恋人がいるからほら!」
ぱっ、とぼくは距離を取る。
「冗談だよ~♡ りかたん怒りすぎ~♡ まじうける~♡」
「もししんちゃん取ったら、親友が相手だとしてもキレるわよ?」
「あはは~! だいじょーぶ! あーしりかたんのことだぁいすきだし~♡ ドーテーくんには悪いけど、君を好きになることは絶対ないから~♡ りかたんと争うことなんて100%しないし、安心なされ~♡」
ほっ、と里花が安堵の吐息を着く。
「そうだよね、ダリアさんみたいな素敵な人が、ぼくなんか好きになるわけないもんね……って、どうしたの?」
ダリアさんが目を丸くしてる。
「な、なんでもないよ~♡ あ、あははは!」
焦った調子でダリアさんが言う。
どうしたんだろう? やけに顔が赤かったような……。
ややあって。
ぼくらは外に出る。
大雪が降っていた。
「わ、すご……片栗粉ふんでるみたい」
里花がきゅきゅっ、と雪を踏んで言う。
「これさ~。車も大渋滞してね~? この雪じゃさ」
「あ、そういえば……」
校門近くで、妹子がスマホ片手に怒鳴っていた。
「ちょっと迎えに来れないってどういうこと!?」
「あ、ほらね~」
どうやら妹子の迎えも、この雪でこれないみたいだ。
「なんとかして来なさいよ! はぁ!? 大渋滞! そんなの知らないわ! 来ないと困るのよ!」
焦ってる妹子。
そりゃそうか。
「あれだけ自分で偉そうに、みんなを送るって言ってたくせに。アホみたい」
「でもさー、ドーテーくんどうするの? 君んちも車で迎えくるんでしょ~?」
「うーん、そうだね。大丈夫かな……」
バババババッ……!
「ちょっと連絡すれば?」
「そうする」
バババババッ……!
「てかうるさくね? 何の音?」
「そうね……って、えぇええええええええええええええええ!? 何あれぇええええええええええええ!?」
里花が上空を見上げて声を張り上げる。
ぼくも見上げて……唖然とした。
「「「へ、ヘリコプター!?」」」
黒いヘリが学校上空に滞空していたのだ。
なんで!? ヘリなんで!?
「ヘリだ!」「どうなってるの!?」「何が起きてるんだこれぇ!?」
クラスメイト達も、そして妹子も、突如現れたヘリに驚いている。
ヘリは校庭の中央に降りる。
「おーい! 真司くーん!」
ハッチが開いて顔を出したのは、サングラスに黒服の男……。
「さ、三郎さん!?」
にかっと笑いながら三郎さんがヘリから降りてくる。
「迎えに来たぜ~!」
「ば、ばかー!」
ぼくは三郎さんに高速で近づいて、胸板をぽかぽか殴る。
「何でヘリ!?」
「え、だって迎えに来てって言うからさ~」
「車でって思うでしょ普通!?」
「え、でもおれ別に車で来るなんて一言も言ってないけど?」
きょとんとしたまま、首をかしげる。
確かにそうだけども!
「迎えに行くっていったら、高原様がヘリ貸してくれてさ!」
「本家のじいさん何やってるの!?」
「あ、違った。ヘリ買ったんだ。これ真司くん送り迎え用だってついさっき」
「はぁああああああああああ!?」
あのじいさん何やってるんだよぉ!
「まま、いーじゃん。道路混んでるみたいだしさ。あ、里花ちゃんと……お友達? おーい!」
ぶんぶん! と三郎さんが手を振る。
「乗ってきなよー! 送るぜー!」
はぁ……もう、しょうがないか。
「二人とも、乗ってって」
「「あ、うん……」」
呆然としながら、二人がヘリに乗り込む。
「てか三郎さん運転できるの?」
「いや、兄ちゃんが運転してるよ。ほら」
運転席には、もう一人、三郎さんそっくりの黒服の男が座っている。
ヘッドセットをつけ、サングラスをしているのが、三郎さんのお兄さん次郎太さんだ。
「あの人ヘリまで運転できるんだ」
「そう! 兄ちゃん何でも出来るんだよねー!」
もうなんでもありだな……。
「ちょ、ちょっと待ってよ上田くん!」
振り返ると、焦ったような顔の妹子がいた。
「おやお知り合い?」
「……いや、まあ。先行ってて」
三郎さんが助手席へと乗り込んでいく。
「……なに?」
「そ、そのヘリ……なんなの?」
「ぼくんちのヘリ」
まあ家のってゆーか、ぼくのプライベートヘリみたいだけど……。
「そ、うなんだ……」
「うん、それじゃ」
ぼくはあんまり妹子としゃべりたくないんだよね。
さっさと家に帰ろう。
「あ、あのさ! の、乗せてってくれない? 私だけでも!」
はぁ? 何言ってるんだろうこの人……。
「え、クラスメイト達送ってくんじゃないの? ねえ?」
ちょっと離れたところで、クラスメイト達がこっちを見てる。
「……私だけってなんだよ」「……え、おれら置いてくってこと?」「……うわぁ」
ああほら、聞こえちゃってるし。
「自分で言い出したんだから、ほら、送ってきなよ。待ってりゃくるんでしょ、迎えの車が」
「で、でも……」
すると助手席からにゅっ、と三郎さんが顔を出す。
「あーお嬢ちゃんごめん! このヘリ、5人乗りなんだ!」
どこぞのスネ夫かってセリフを、三郎さんが言う。
運転手、三郎さん。
里花、ダリアさん、そしてぼくの五人。
「てことで、ごめん。じゃあね」
「あ、ちょ、ちょっとぉ!」
ぼくは振り返ることなくヘリに乗り込む。
「シートベルトつけてね!」
「あ、うん。あと三郎さん、ありがとう」
ぐっ、とぼくは親指を立てる。
「? どういたしまして!」
よくわかってない様子の三郎さんが、ぐっ、と親指を立てる。
「てゆーかこの雪の中で、ヘリって飛べるの?」
「だいじょーぶ! 高原様が買った超高性能ヘリと、何でもできる兄ちゃんの腕が合わされば、たとえ嵐の中でさえも快適エアライドさ! ね、兄ちゃん!」
次郎太さんがグッ、と親指を立てる。
まあ大丈夫だろう、少なくとも、三郎さんより安心して任せられる。
「兄ちゃん、全員乗ったみたいだよ!」
こくん、とターミネーター二号がうなずくと、ヘリが発進する。
あっという間に学校が遠くになっていく。
「し、しんちゃん……」
「ドーテーくん……」
前の席に座っているふたりが、目をむいていた。
「あ、あはは……ごめんね、目立つことしちゃって……」
すると二人が、はぁ~……と大きく溜息をつく。
「しんちゃんお金持ちだってわかってたけど、ここまでするなんて……なんか逆に凄いわ」
「ドーテーくんスネ夫くんだったんだね~。それともこち亀の中川?」
「いやあの……まあ。うん……なんかごめん……巻き込んじゃって」
ふるふる、と里花たちが首を振る。
「謝る必要ないよ」
「そーそー。てか家にヘリで帰れるなんてらっきーだし? あんがとね、さっすが中川くん」
ダリアさん達は騒ぎを起こしたこと、許してくれたようだ。
良かった……。
中川くんは止めてまじで。




