164話 上田ダリアのハッピーエンド
先生からの呼び出しを終えて、ぼくが生徒指導室を出ると……。
「しんちゃんっ」「お兄ちゃん」
恋人の里香と、義妹のダリアがぼくを待っていてくれた。
里香は思い切りぼくに抱きついて、むぎゅ~~~~~! としてくる。
若干苦しいけど、彼女の柔らかい肌と、とてもよい香りは、ぼくの心をいつだって静めてくれる。
……けど、今日はちょっとブルーだ。
里香に、ぼくは重要なことを隠してる状態である。
今回の一連のあれこれが、全部、ぼくが元凶にあることを。
「お兄ちゃん」
ふと、ダリアと目が合った。
彼女は何かを察したような顔をしていた。
「あー……実はりかたん体調不良なんだよね」
「「え!?」」
いや、ぼくが驚くのはわかるけど、なんで里香も驚いてるんだろう……?
「ダリア……アタシなんともない……もがもが」
ダリアが里香を引き剥がして、口を押さえる。
「ということで、お兄ちゃん、りかたんを家まで送ってちょうだいな」
「え、まあ……いいけど」
本当に体調不良なら、すぐに家に連れて帰らないとだけど。
どうにも元気っぽいし……。
するとダリアが里香をぽいっと避けて、ぼくの耳元で言う。
「……なにかりかたんにいいたいんでしょ? 血の三月事件のこととか」
「……! 知ってるの」
「……学校中で噂になってるよ。お兄ちゃんが関わってて、りかたんに黙ってるんでしょ?」
な、なんて察しの良さ……。
まるで探偵や、敏腕秘書のようだ。
「先生には、お兄ちゃんが早退することいっとくから、お兄ちゃんはりかたん連れてったって」
「うん、わかった」
ダリアが微笑むと、里香の背中を押す。
「じゃ、お兄ちゃん。りかたんをよろしく」
「うん。おいで里香」
彼女はおずおずと手を差し出してくる。
でもぼくと手をつなぐと、ふにゃりととろけた笑みを浮かべた。
「ありがと、ダリア。いつもサポートしてくれて」
「いいってこった」
にっ、とダリアが微笑む。
「あーしは何があっても、世界中の誰から否定されても、お兄ちゃんとりかたんの味方だからよ」
「ダリア……」
……正直、里香に打ち明けるのはちょっと……いや、かなり恐かった。
引かれてしまう、嫌われてしまうんじゃ無いかって。
そうなったあとに、僕はひとりになってしまうことが、恐かった。
でも……ダリアが居る。
彼女は言ってくれた。
何があってもぼくの味方だって。
それがうれしかったし、心強かった。
だから、言う、決心がやっとついた。
「ありがとう、ダリア。愛してるよ」
「…………」
ダリアは目を丸くする。
フッ……と笑って、静かにうなずいた。
「ほれ、かえったかえった。あとはダリアお姉さんに任せときな」
ありがとう、とぼくは再度お礼を言って、ダリアと別れるのだった。
★
《ダリアSide》
真司たちが立ち去っていく様を見て、ダリアは息をつく。
「愛してる……かぁ」
前は、それを聞くたびに心が痛んだ。
だってその愛は恋人に向ける愛じゃなく、家族に向ける感情だったから。
ダリアの胸には真司を慕う気持ちが、まだくすぶっている。
好きとか、愛してるって言われるたびに、女としての自分が表に出てしまいそうになる。
今も、これからも、多分それは変わることは無い。
真司を兄では無く、異性として好きな気持ちはこれからも消えないだろう。
でも決して表に出すことはしないし、これでいいんだって思う。
「家族として愛されるってのも、悪くないしね」
帰って行くふたりをみながら、ダリアは再度決意を新たにする。
これからずっと、ダリアは真司と里香の側に居よう。
そして、ふたりを支えていくのだ。
胸の中に眠る、真司を異性として愛する気持ちに蓋をして、鍵を閉めて。
これからも、ずっと、義妹として、家族として、側に居る。
「さて、尻拭いにでも行きますかな」
こうして家族を手に入れたダリアは、これからもずっと、義妹として、家族とともに幸せに暮らすのだった。
そろそろ決着がつきます。
ハゲ山への処遇は番外編(後日談)に回そうと思います。
最後までよろしくお願いします。




