162話 先生からの呼び出し
ぼくは体育教員の見晴峠から呼び出しをくらった。
生徒指導室にて。
「…………」
先生……なんでよんだんだろう?
まさかぼくも退学とか……?
「そう身構えんな」
ふっ、と先生が笑って言う。
なんかちょっとだけ緊張がほぐれた気がした。
「ま、座りなさいな」
「あ、はい」
指導室にはテーブルと椅子、本棚があるだけだ。
椅子に座ると、先生が正面に座る。
「学校きてびっくりしただろ?」
「ええ、まあ……」
正直じーさんが何かするだろうとは思ってはいたんで、里香ほど驚愕! みたいにはなってない。
じっ、と先生がぼくを見つめたあと、小さく息をついて言う。
「生徒達は昨日のうちに、全員退学ってなった」
「退学……」
「大抵の生徒は、親の都合で学校をやめることになったってさ。ま、アルピコは私立だし、学費も割と高いからな」
なるほど……じーさんはクラスメイトの親を使って、制裁を加えたのかな。
あれ?
「大半ってことは全員じゃないんですね」
「そうだな、ちょっと後ろ暗いことしてたやつらは、警察のお世話になったみたいだ。特に中津川と懇意にしてた連中だな」
「へえ……」
妹子のやつとつるんで、何かわるい子としてたやつらは、ちゃんと罰を受けたってことみたい。
「で、中津川さんは?」
「……さぁな」
「さぁなって……」
じっ、と見晴峠先生がぼくを見る。
「わからんのだよ。急に退学届が送られてきてな、親に聞いてみたところ、娘はもう居ないの一点張りでさ」
「…………」
「何か知らないか、上田?」
……まあ、十中八九じーさんが暴走した結果だろう。
ぼくには……もう関係ないけれど。
「いえ、なにも。ぼくは知りません」
ぼくはね。
すると先生がじぃっと見つめてきた。
まるで、心の中まで見透かしてきてるように思えた。
でもいくら聞かれても、ぼくは妹子がどうなったかなんて知らない。
全部じーさんがやったことだ。
そこしかわからない。全容を把握してるのはじーさんだろうけど、多分ぼくには教えてくれないだろう。
……まあ、ちょっとやり過ぎるところがあるじーさんだから、こないだの件も含めて、割とヤバいことやったに違いないだろうけどもね。
「そっか……わかった。上田【は】関係ないわけだな」
あまりにも、あっさりと先生は信じてくれたようだ。
「疑わないんですか?」
「ん、まーね。あたしは目はいいんだ。嘘ついてるかどうかは、一発でわかるんだよ」
「へえ……すごい。特殊能力みたいですね」
先生は一瞬ぎょっとなったが、直ぐにおかしそうに笑って言う。
「特殊能力なんて、この世にあるわけねーだろ。高校生にもなって何言ってんだぁ上田」
「ですよね」
わかってる。
「ま、そんなこんなあって、今上田のクラスはおまえと、松本だけの2人しかい無い状態だ。他のクラスの連中、教員どもは、おまえらがなんかしたんだろうって疑いを向けてきてるんだけど……ま、安心しな」
にっ、と笑って、先生がぼくの肩を叩く。
「あたしは、おまえたちがナニもしてないのを知ってるよ。噂は信じないさ」
「先生……」
どうやらぼくらの味方になってくれるようだ。
なんていい人なんだ……。
こないだも助けてくれたし。
「あ、そういえば茶臼山先生は?」
「茶臼山……ああ、ハゲ山な」
「ハゲ山って……」
まあぼくもハゲって呼んでたけど。
「あいつも急に学校やめてよぉ、ったく、迷惑千万だぜ。なんだか家も引き払ったみたいだしな」
「へえ……」
こっちもじーさんが絡んでるんだろうなぁ。
あの人ほんと、敵には容赦ないから。
一体何したんだろう……。
「それと上田、おまえには一個確認しておかないといけないことがあるんだ」
「なんでしょう?」
先生はまたしても、ぼくをじっと見つめた状態で言う。
「血の三月事件についてだ」
「…………………………はい?」
なに、血の三月……事件って……?




