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156話 いちゃいちゃと、イライラ



《真司Side》


 学校で、いじめがあった。ぼくは本家のじーさんに頼んで、あいつらに制裁を加えることにした。

 ……でも全然心は晴れやかになれない。


 だって、里香の心の傷は、いくらあいつらに制裁を加えても、治らないんだから……。


「しんちゃん……」


 場所は、ぼくんちのマンション。

 ぼくのとなりには、里香が寝転がっている。


 学校から帰ってきたぼくらは、上田家のマンションへとやってきた。

 里香は、すごい辛そうにしていた。激しい負の感情に取り憑かれていた。


 ……だから、ぼくらは体を重ねた。

 ふたりで一緒にいたすことで、ストレスがかなり軽減した。


 最初、顔が真っ青だった里香も、今は少しだけ、落ち着いている。


「ん? どうしたの?」

「……ごめんね」


 里香がぼくに背中を向けたままつぶやく。

 その声色には、ぼくへの申し訳なさが多分に含まれていた。


 ぼくは里香のそんな、痛ましい姿を見てられなくて、後ろから抱きしめる。

 柔らかくて、あったかい、里香の体……。


「気にしないで、ぼくは君のカレシだもん」

「でも……またあたし、めーわく……」

「迷惑なんて思ってないよ。ぼくは里香を支える、里香もぼくを支える、そうやってお互い支え合うって決めたじゃん、こないだ」

「うん……だから……」


 だから、か。

 今回の件で、また里香が申し訳なさを覚えてるのだろう。


「気にしないで。ぼくは平気。てゆーか、いじめられたの里香じゃんか」

「うん……でも、今回のことで、しんちゃんが孤立するんじゃ……」


ああ、そうか。

里香は、知らないんだったね。


「大丈夫。孤立することなんて絶対あり得ないから」

「どういうこと……?」

「ん。まあ、気にしないで」


 ぼくはさっきちらっと、じーさんからの報告のラインを見たのだ。

 そこには、クラスメイト達の処遇が、ずらずらと書いてあった。


 まあ、大半が親の職を失い、その子供(クラスメイト達)が不幸になる、というもの。

 別に里香にそこまで言う必要は無い。


 ……やや過激な内容だったし、それに、里香は優しいからさ。

 たとえ制裁されたのが屑どもがだったとしても、心を痛めてしまう。


 里香は気づかなくていいんだ。

 

「気になるよ」

「大丈夫だよ」

「きにな……んちゅ」


 ぼくは里香の口を、自分の唇で塞ぐ。

 彼女は驚いたように目を丸くしていたけど、とろんとまなじりを垂らす。


 唇を離すと、彼女は拗ねたように言う。


「しんちゃん、いつからそんな、プレイボーイになったのかなっ」

「? どこが?」

「キスしてごまかそうとした」

「あはは、でも、ほら、里香が知らなくていいことだからさ」

「もう……んちゅ」


 今度は里香から、ぼくにキスをしてきた。


「おかえしっ」

「里香……」


 ちょっとさみしそうにしながら、里香はでも、少し微笑んで言う。


「しんちゃんの心遣い、うれしいよ。それと、伝わってきた。アタシを傷つけないようにって、そういう気持ちが。だから……今はちゅーで我慢してあげる」

「里香……」


 ぼくの意図をくんでくれたんだね。ありがとう。


「でもなんでちゅー?」

「ねぎらいのチューです! がんばったでしょ?」

「いや、ぼくは別に」


 頑張ったのは本家のじーさんだし……。

 ブブッ……!


 ん? ライン……じーさんからだ。


『じいじにも、ねぎらいのチューは? GG』


 ……ぼくはラインを見なかったことにした。

 あのじーさん、悪い人じゃないんだけど、マジで高確率でキショい面を見せてくる。


「だれから?」

「じーさん」


 てゆーかまた盗聴してる……もう、うざいなぁ。

 あとでまた注意しとこ。まあどうせ効果ないだろうけども。


 ブブッ……!


「またじーさん……? ……………………」


【中津川 妹子】


 ……嫌なやつからの、ラインだった。


【上田真司様、どうか、お話を聞いてくれませんか? あなたに、会って謝罪したいことがあります。お願いします、5分でいいので、お願いします】


 ……無視したんだけど、その後もラインが来続けて、ウザいことこの上なかった。

 じーさんへのウザいって感情と、妹子へのこの負の感情は、別種のものだ。


 無視しても、多分今後もウザいラインが来るだろう。

 仕方ない……。


「里香」

「ん? なぁに」

「ちょっと、出かけてきます」


 どこへ……と里香は聞いてこなかった。

 まゆじりをさげて、さみしそうに一瞬だけなったけど、微笑んで言う。


「そっか。いってらっしゃい。お布団、暖めて、待ってるわ」

「里香……」


 ぼくがきっと、辛い気持ちになって帰ってくるって、思ったんだろう。

 雰囲気で察したんだろうな。


 彼女は聡い。

 多分、ラインの相手にもなんとなく察しが付いてるのだろう。


 引き留めたり、変にいろいろ聞いたり、しなかった。

 それはぼくに負担をかけるとわかってるからだ。


 だから、余計なことを言わず、ただ、帰りを待ってくれるって、選択してくれたことが、ぼくはうれしかった。

 

「ありがとう。ちょっと行ってくるね」


 ぼくはアルピコの制服に着替えると、夜の街へと向かう。

 呼び出されたのは、アルピコ学園。


 その屋上。

 ぼくは……嫌な予感を覚えながらも、妹子の元へとむかうのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 真司くん行っちゃったかー 嫌な予感しかない
[一言] 屋上…。屋上ねぇ。〚血の三月事件〛の中で屋上で不良をぶん殴って、校舎の外にぶっ飛ばしたってのが有ったな。 妹子がこれから何するか大方予想がついてしまうな。予想通りなら余程死にたいらしい。
[気になる点] 致した時もじいじ聞いてるだろ、これ。。
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