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151話 キレちまったよ



 教員室をあとにしたぼくは……。

 その早足で、教室を目指していた。


「…………妹子!」


 中津川 妹子。

 ぼくの元カノが、悪い噂を流していた。

 根も葉もない噂……ってわけじゃ完全にない、けど!

 でも!


 不確定な情報を流すことで、里香を……ぼくの大事な里香の名誉を傷つけたことは、ゆるせない!

 くそっ!


「しんちゃん……!」


 がしっ、と誰かがぼくの手を引いた。

 振り返って、少し……冷静になった。


 里香が、大汗をかいて、ぼくの手を握っていた。


「り、里香……」

「よかった……もう……しんちゃん、先にドンドン行っちゃうんだもん」


 里香がニコッと笑う。

 そこでぼくは、自分が頭に血が上っていたことに気づく。


 里香の呼び止める声が聞こえないくらいに、怒っていたんだ……。


「ご、ごめん……! 君を無視して……」

「ううん、いいの」


 里香が微笑んでいた。

 それは無理してるようには思えなかった。うれしそうに、笑っていた、と思う。

「しんちゃん、アタシのためにおこっててくれたんでしょ?」

「うん、それは、もちろん」

「そっか……ふふ、それがうれしいよ、アタシは」

「里香……」


 この子は、自分の名誉が毀損されてるっていうのに、笑っていられる。

 ……本当に強くなった。


 だって前は、妊娠騒動があったとき、凄く不安そうで、守ってあげないとって思うくらいだったんだ。

 それが……怒ってるぼくをいさめるくらいには、精神的に成長してる。


「里香は大人だね。ぼくはまだまだだ」

「ううん、違うわ。アタシが強いんじゃ無い。ダリアにね、諭されての」

「ダリアに……?」

「うん。君も強くならないとねって」


 そっか……ダリアが。

 ほんと、良い子だよね、うちの義妹は。

「しんちゃん、駄目だよ。怒りにまかせて行動しちゃ」

「でも……妹子は、君の名誉を傷つけて……」

「早とちり……かもしれないでしょ?」「里香……」


 早とちりって……。

 まあ、ありえなくはないけど。里香が病院に入っていくとこをみかけて、それだけで判断したってことも……。


 でも……


「妹子は、多分悪意を持って噂を流してるんだと思う」


 かばい立てなんてしなくて良いと思う。

 あいつは有罪で確定してる。


「でも……しんちゃんが怒って、しんちゃんまでクラスで孤立することないよ」

「…………」

「アタシは、いいの。不良だったし。クラスで浮いていた。でも、しんちゃんは違うじゃ無い?」

「……ぼくもいじめられてたし、もう孤立してるようなもんだよ」

「それでも、もめ事おこして、しんちゃんまで不良のレッテルはられるのは……アタシ、やだよ」

「里香……」


 ぼくまで、不良と思われないように、里香はかばってくれているんだ。

 妹子を、じゃなくて、ぼくを……。


「ありがとう……里香。ごめんね」


 ぼくは里香を、抱きしめたい衝動に駆られる。

 でも学校内ってことを思い出して、やめる。


「ううん、いいの。誤解なら解けばいいだけだしさ。大丈夫だよ、ちゃんと話せば、わかってくれるよ。クラスの人たちも、馬鹿じゃ無いんだしさ」

「……そうかな」


 衆愚って言葉があるくらいだしなぁ。


「大丈夫。絶対誤解は解けるって。絶対うまくいくよ、何事も無く」

「…………そうだね」


 やや楽観的、と思ってしまうぼくがいる。

 でも違うんだ。


 里香は楽観的なんじゃなくて、ぼくを励ましてくれてるんだ。

 大丈夫だよって。


 ……自分のことより他人、というかぼくのことを思って行動してくれる。

 それはうれしいけど……同時に、悔しくもある。


 ぼくは里香を守るって決めたのにね。


「ね?」

「うん……そうだね」

「じゃ、いこっか」


 若干のしこりを残しつつ、ぼくらは教室へと向かう。

 ……でも。


「……アタシの机が」

「……ない」


 里香の机だけがなくなっていた。

 周りを見渡すと、クラスメイト達の、ニタニタとした顔。


「ね、ねえ……アタシの机は?」


 里香が不安そうに周りに問いかける。

 だが答えは返ってこない。


「っ!」

「里香……どうしたの……っ!?」


 黒板に……。


『松本さん、出産おめでと~★』


 ……とでかでかと、そう書かれていた。

 一人だけの犯行じゃ無いのは、明らかだ。

 クラスメイトたち全員の筆致で、おめでとうメッセージが、悪意たっぷりに書かれている。


「…………」


 黒板のいたずら書き。

 そして、机を隠された……。


 そんなことされて……平静を保てるわけが無い。


「ひどい……どうして……こんな、こと……」

「え~? 松本さん、机なんて必要ないでしょぉ?」


 そこに現れたのは、ぼくの元カノ、中津川 妹子だ。

 今……不快指数は天井を突破していた。

「だぁって、松本さん、妊娠したんでしょ? 学校休学? 退学? するなら必要な……ぎゃっ!」


 ばちんっ!


「っつぅ……なにすんのよ真司君!!!」


 ……女に手を上げるやつは、最低だと思う。

 でも、人の大切な女性ひとを、傷つけるやつは、最低以下だ。


「ぶつなんてひど……」

「黙れ」

「ひっ……!」


 妹子が、怯えている。

 クラスメイト達も、ぼくを見て、冷や汗をかいていた。


「…………」


 振り返ると、里香が涙をこらえていた。

 もう、駄目だ。


「……おまえらは、ぼくの大事な人を傷つけた」


 ぼくはスマホを取り出す。


「悪意ある噂を流して……黒板に悪意ある落書きをして、さらに、机を隠した……おまえらは、明確に里香を、ぼくの大事な人を傷つけた」


 ぶぶっ。

 ラインの通知だ。


 まあ聞いてるよね。


「ぼくは、中津川妹子も、クラスの全員も許さない」


 スマホの通知を見る。


『GG、GO?』


 GOサインを求めてる。


『お願いじぃじ』

『GG、行きまぁす』


 怯えた表情の妹子が、ぼくを見やる。


「な、なにしてたの……?」

「別に。君らには関係ないよ。いこ……里香」

「う、うん……」


 ぼくは里香の手を引いてその場を去る。

 教室はシン……と静まりかえっている。

 振り返って、ぼくはみんなに言う。


「いちおう先に謝っとくね。ごめんね。うちのじーさん……やり過ぎるとこあるからさ」

※ダリアさんは別のクラスです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回ばかりはもう許せませんね! 徹底的にやっちゃってください さぁ悪者達よ、おしおきだべぇ~!!
[一言] 待ってました!徹底的にお願いします。 今までが甘すぎたと思います。 愚か者集団に慈悲無き鉄槌を!
[一言] ~~~”盗聴器からの音声”~~~ 隊員「・・・隊長・・・【やり過ぎ】なんて言葉は今回辞書にありますか?」(ピクピク) 隊長(満面の笑み)「・・・『どんな言葉だ?それ?』」(ピクピク) 隊員'…
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