150話 ハゲ、他の先生にぶん殴られる
クラス担任のハゲ……じゃなかった、禿男に呼び出されたぼくと里香。
「おまえ妊娠したんだってな、松本」
「なっ!?」
里香が驚く。当然だ。
里香の妊娠疑惑は、誰も知らないはずだから。
どうして……。
いや、たしかに開田の関係者には、じーさんがバラしたって言っていた。
でも開田の人たちが、外に情報を漏らすわけがない。
……じゃあ、誰が?
決まってる、悪意ある、第三者だ。
ふざけんなよ、誰だよ、そいつ……。
「ひっ……! う、上田! なんだその反抗的な目は?」
「え? ぼく何かしてました?」
「そ、そうだぞ……まったく、教師をにらみつけるとは何事かね! まったく、松本も貴様も、不良生徒だな。まったく」
ああ、うん……。
馬鹿……じゃなくて、ハゲはどうやら、ぼくと里香を不良扱いしてるらしい。
里香の妊娠も、そしてそれをしたのがぼくだって、思い込んでいるようだ。
ああ、ハゲな上に馬鹿なんだな。
「違います。里香は……」
「あたしは、妊娠なんてしてませんっ」
「里香……」
落ち込んでしまうかと思ったけど、里香は毅然とした態度で、ハッキリそういった。
こないだ妊娠かもって判明したとき、結構へこんでいたのに……。
精神的な成長がみられた。
どうしたんだろう? でも、良い変化だとおもう。
「ふん、どーだか。口では何とでも言えるがね」
でも馬鹿ハゲは、里香の言葉をまったく信用してない様子。
里香の見た目と、そして母親の職業から、妊娠しててもおかしくないって決め込んでいるのだろう。
ほんと、馬鹿なんだから。
「妊娠してないのはほんとです。なんだったら、診断書を見せましょうか?」
「ふん。どうだか。診断書を偽装……ぶべっ!」
禿男がぶっ飛ばされて、床に転がる。
「いい加減にしろよ、てめえ」
「み、見晴峠先生……」
禿男をぶっ飛ばしたのは、小柄な女教師だった。
ジャージに、竹刀を持ってて、口にはたばこ……?
いや、違う。
たばこじゃなくて、たばこの形のシガレットを加えていた。駄菓子のあれ。
彼女は見晴峠先生。
体育教師で、たしかバスケ部の顧問だったような気がする。
「さっきから隣で聞いてたら、なんだぁてめえ? 生徒の言うこと聞いてやんなくて、なにが教師だ? あ?」
竹刀片手に、見晴峠先生が、禿男の頬を踏んづける。
「ぼ、暴力教師め! 訴えてやる!」
「やってみろハゲ教師」
あ、言っちゃった。
「は、ハゲ教師だとぉ!」
「そのつんつるてんな頭しといて、ハゲじゃねえってのか?」
「ぐぬぅう!」
見晴峠先生は、禿男を見下しながら言う。
「クラスのお気に入りの女子から、松本里香が妊娠してるって話を聞いて、それを鵜呑みにするとか、教師失格だな」
お気に入りの女子……?
「妹子だよ。中津川妹子」
「! あいつ……」
あの女……そんな噂を、どこから……?
見晴峠先生は言う。
「松本里香、昨日病院行ったんだろ?」
「え、あ、は、はい……」
「診断書はもらったな?」
「はい。妊娠してないです。家に診断書もあります」
「だとよハゲ。聞いたかハゲ?」
ぼくらの代わりに、禿男に言い返してくれて、すっとした。
「松本里香は妊娠してないし、上田真司も含めて、不良生徒なんかじゃねえ。不良教師はてめえだハゲ」
「き、貴様……! 体育教師の分際で! わしのほうが偉いんだぞ! 理事長に訴えてやる! それと暴力振るったことで、け、警察に通報してもいいんだぞ!」
警察……それはちょっとまずいんじゃ……。
けれど、見晴峠先生は、毅然とした態度で言う。
「やってみろ。そのときに、どっちが不利になるのか、よーくその無いおつむで考えるんだな、ハゲ」
見晴峠先生はしゃがみ込むと、禿男の頭をむしる。
「ぎゃー! わしの髪がぁ……!」
禿男はショックで気絶する。
見晴峠先生はため息をついて、ぼくたちを見て笑う。
「馬鹿が悪かったな。もう帰っていいぜ」
「あ、は、はい……ありがとうございました!」
周りにも先生達はいた。
でもぼくらにノータッチだった。もめ事を起こしたくなかったんだろう。
そんな中で、見晴峠先生だけが、ぼくらをかばってくれた。
本当に嬉しかった。
「全然関係ないのに、助けてくれて……どうしてですか?」
「ふっ、バカ言っちゃこまる」
にっ、と先生は笑って、ぼくらの頭をなでてくれる。
「たとえクラス担任じゃあなくっても、アタシは学校の先生で、あんたらは生徒なんだ。先生は生徒を守る。そーゆーもんだろ? な?」
「見晴峠先生……」
いいひとがいて、ほんとよかった……。
「クラスにもどんな。馬鹿の処理は、こっちでやっとくから」
「あ、はい。失礼します。いこ、里香……」
ぼくは里香を連れて、その場をあとにしたのだった。
先生のおかげで、色々助かったな……。
ぶぶっ……!
「ん? スマホ……?」
制服のズボンのポケットに手を入れる。
本家のじーさんからのラインだった。
『ステンバーイGG』
……あ、これ盗聴してたな、じーさん。
まったく……。




