141話
夕飯には里香の大好物が並んでいた。
山雅さんが、里香に気を使ったのだろう。
……でも里香は終始落ち込んでいるようだった。
ダリアも、そして山雅さんもそんな里香を気にしているようだった。
これはもうぼくの出番だ。
食後、ぼくと里香は同じ部屋に居た。
彼女の部屋へ行くと、里香は無言で抱きついてきた。
膝枕をしてあげる。
里香が話したいことをしゃべり出すまで、ぼくは待った。
そして……里香がぽつりと、ようやく口を開いた。
「アタシ……臆病者だ」
「そんなことないよ」
里香が臆病なんて思ったことは一度も無い。
「優しくて可愛い最高の女の子だよ」
クリスマスの日にぼくを助けてくれた、優しい女の子じゃないか。
でも里香はふるふると首を振る。
「だってアタシ……しんちゃんの赤ちゃんできたかもってとき、恐くなっちゃった。大好きなしんちゃんとの間にできた、愛の結晶なのに」
「…………」
「赤ちゃん、実はできてなかったって知ったとき、どこか……ほっとしてる自分がいたんだ」
ぽたぽた……と涙を流しながら言う。
「しんちゃんとの愛の証が欲しいなとかいってたのに、いざできたと知ったときに、恐くなっちゃってた。こんなアタシのこと……しんちゃんはゲンメツ……」
「しないよっ」
ぼくは里香を抱き起こして、ぎゅーっと抱きしめる。
「ゲンメツなんてするもんか」
そんなことする理由も無い。
ぼくは里香を臆病だとも思ってない。
「急にそんな事実が判明したら、だれだって驚くし、覚悟も無く赤ちゃんができたとなったら、恐くなるの、不安になるのは当然だよ」
「しんちゃん……」
「大丈夫、里香は臆病者なんかじゃない。一番側で見てきた、ぼくが保証するよ」
いじめられてるやつ(ぼく)の肩を持つなんて、普通できない。
それができたのは、里香に勇気があるからだ。
「大丈夫。ぼくが側に居る。不安になったらすぐぼくを頼って。恐くなったら直ぐ言って。ぼくが……君を守ってあげるからさ」




