128話
……帰ろうとするぼくを、元カノの中津川 妹子が呼び止めた。
「大事な話があるの」
「はぁ……?」
どうでもよかった。大事な話?
「それって里香以上に、大事なの? そんなのあり得ないと思うけど」
すると妹子は声を潜めて「……ここじゃちょっと」といってくる。
まじで、なんなんだろう。
「別に君と話す気ないから。じゃ」
ぼくはこいつに振られた。
それだけならまあ、わかる。
でも付き合ってるときに、浮気されて、振られたのである。
その後、こいつも含めてクラスぐるみで、ぼくはいじめを受けた。
だから、ぼくは妹子のことなんとも思っていない以上に、不愉快に思っている。
一緒に居るだけで疲れるし不愉快だ。
大事な里香の安否を確かめにいくのを、邪魔されたことに憤りスラ覚えているのに。
ということで、妹子を無視してぼくは歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って……!」
後ろから妹子が追いかけてくる。
迷惑もいいところだ。
靴に履き替えて、校門を出たあたりで、妹子がぼくの手を握ってくる。
「待ってってば!」
「……なんだよ、さっきから」
ぼくはこいつと話す気なんてさらさらないのに。
「真司君……きいて。大事な話」
「……手短に」
すると妹子はこんなことを言う。
「あなた……松本さんに、だまされてるわよ!」
………………はぁ?
だまされてる……?
「なにそれ?」
「松本さんと今、付き合ってるでしょ?」
「うん」
即答すると、にやりと妹子は笑う。
……気持ち悪い笑みだ。
「松本さんね……罰ゲームであなたと付き合ってるの!」
…………ああ。
そういや、そういう設定だったね。
でもそれって、クラス連中が、仕組んだ罰ゲームじゃん。
松本梨香に嘘カノさせて、あとで振るっていう。
でも里香はやさしいから、そういう取り決めがあったことを教えてくれたのだ。
なんで妹子は今更こんな昔のことを話題に出すんだろう……。
ああ、そうか……。
知らないんだ。
妹子も、クラスメイトも、ぼくと里香が結託してることを。
クラスメイトのくだらない罰ゲームのことを、ぼくが知らないと、思っているんだ、こいつ。
……ムカつくわ。
「要件はそれだけ? じゃ」
「え!? な、なんで!? 驚かないの? 怒らないの、松本里香にっ」
ぼくは無視する。
てゆーかなにこいつ?
今更罰ゲームがどうのこうのって。
「まってよ真司君!」
ああもう、うるさいなぁ……と思っていたそのときだ。
「へいへーい! そこの可愛い顔したカレシぃ?」
道路の前で、一台のリムジンが止まる。
中から出てきたのは……。
「あ、三郎さん」
サングラスをかけた、ターミネーターぽいみための黒服男……。
贄川三郎さんだ。
「おいっすー! 高原さまから、迎え行ってこいって言われて、ちょっぱやでやってきたぜ★」
何と良いタイミングで。
まあどうせ、じーさんのことだ、盗聴器とか仕込んでたんだろう。
まったくのあのクレイじぃじは。
まあでも今は都合が良かった。
「里香の家まで送ってくれない?」
「かしこま★」
ぼくは三郎さんの運転する車に乗り込む。
「ちょ、ちょっと待って……! 話きいて!」
妹子がなおもすり寄ってこようとする。
「ちょいちょーい」
ぼくらの間に、三郎さんが割って入る。
「嫌がってるでしょーが。ね?」
「あ……う……」
妹子が萎縮してる。
なんで……?
ああ、そうか。
三郎さん、見た目いかついから、びびってるのか。
ぺたん、とその場に尻餅をつく。
三郎さんは運転席に戻って、車を発車させる。
「まって! ちょっと……まってよぉおおおおおおおおおお!」
待ちません。




