125話
里香はダリアを部屋の中に入れた。
ダリアはしばらく何も言ってこなかった。
それは里香が自分のタイミングで言い出すのを待ってくれているのだとすぐにわかった。
親友の気遣いにうれしくなった。
なかなか言い出せなかった。
だって自分が妊娠してるかもしれない、なんて、たとえ親友が相手でも気軽に言える話題ではない。
……それでも、ダリアが黙って待っていてくれた。
怒って帰るわけでも、早く言えと催促してくるわけでも無かった。
いつも通り、そこにいてくれた。
やがて言う決心がついたので、里香は口にする。
「しんちゃんと、えっちしてから……生理が来てないの」
……ダリアは、さすがに目を剥いていた。
だがすぐに「なるほど……」と得心がいったうようにうなずき、里香のことを抱きしめる。
不安な気持ちが少しだけわやらぐと、張り詰めた緊張の糸がぷつんと切れてしまい、涙が止めどなく流れ出る。
「どう……どうしよう……あたし……」
「落ち着いて」
「でも……しんちゃんに迷惑……」
「お兄ちゃんに迷惑かかるって思ってるの? 子供ができて?」
だってそうだ。
高校生のうちから、子供を作ってしまったと聞いたら、さすがに真司も……。
「りかたん」
むにっと、ダリアが里香の頬を引っ張る。
ちょっと……いやだいぶ、怒っていた。
「お兄ちゃんはそんな男じゃないよ」
「ダリア……」
「お兄ちゃんは、エンコーして、やりまくってるあーしを、見捨てなかった。軽蔑しなかった。それどころか……救いの手を差し伸べてくれた。そんな人が、りかたんを捨てると思う?」
……たしかにそうだ。
ダリアという、とても重い過去を背負ってる少女をまえに、真司は逃げることも、忌避することも無く、一緒になって問題解決に臨んでくれたという。
……そんな彼が、里香を嫌いになるわけない。
子供ができたかもってだけで。
「大丈夫。お兄ちゃんは最高にかっこいい、素敵な人なんだから。たとえ本当に子供ができたとしても……あの人はあなたを見捨てないよ」
「ううう……ふぐぅうう……うわああああん!」
それを聞けて、里香はうれしくて、涙を流すのだった。




