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第35回:それぞれの恋愛観

【SIDE:西園寺恭平】


 恋愛観とは恋愛に対するモノの見方の事である。

 人がそれぞれ違うように恋愛観もまた違う。

 恋愛の価値観。

 男女において、それは大きく異なると言われている。

 人は恋をする事で幸せになれる。

 そんな綺麗事、といわれればそれまでかもしれないが俺はそんな世界を信じていたい。

 

「……恋愛について?」

 

 夜中に俺の部屋に訪れた妹から突然、俺は相談された。

 麗奈はどこかぎこちない様子を見せて、俺のベッドのうえに座り込んだ。

 

「まぁ、端的に言えばそうですね」

 

「また珍しい。麗奈から今まで一度もされたことのない相談だな」

 

「……別に相談なんてたいそうなものじゃありませんから。聞いてみたいと思っただけです。深い意味は一切ありません」

 

 実は俺の事が好き……とか言う展開ではないらしい。

 麗奈から聞かされたのは『男はどういう恋愛を好むか』という質問だった。

 また何かテレビの影響でも受けたのだろうか。

 しかし、こうして俺の事を頼りにしてくれる事は嬉しい。

 

「うーむ。どういう恋愛か。麗奈は男の恋愛ってどういうものだと思う?

 

「……そうですね。自分勝手、というイメージがありますね。自分勝手な言葉や態度。それに加えて綺麗事ばかり並べて、自分のしている事はしょうがないって簡単に裏切ったり、女の子の事なんて気にしたりしないでしょう」

 

「え?ええ?」

 

 もしかしてそれは俺の事でしょうか?

 それとも麗奈は誰かに裏切られたりしたのか?

 そんなことをした奴はもちろん、生かしてはおけん!

 

「何かドロドロした恋愛ドラマとかじゃ、そういう展開が多いでしょう?」

 

「それはただ単に昼ドラの見すぎだとお兄さんは思うのです」

 

 ドラマの話か、ホッとするような、それでいて不安になるような。

 うちの大事な妹があんなの見ちゃ教育的にとても悪影響が……。

 できる事なら麗奈には久遠のような小悪魔ではなく、春雛のような天使になって欲しいと思う兄心、はぁ、この子はいろいろと影響受けやすいからな。

 俺は椅子から立ち上がり、妹の横に座りこんでいう。

 

「麗奈はどういう男が好きなんだ?」

 

「優しい人ですね。包容力があって私を安心させてくれる人」

 

「俺みたいな?」

 

「お兄さんのどこが安心させてくれるんですか」

 

 麗奈に真顔で言い切られました。

 おかしいなぁ、こんなに優しくしているのに好感度ゼロなんて。

 えへへ、お兄さん、別にショックじゃないよ。

 泣いてなんか、ないからね、ぐすっ、えぐっ。

 俺の心をこんなにも揺さぶるなんて罪な女の子だよ、本当に。

 

「男は……強いようで弱いからな」

 

「え?」

 

「心の問題。男ってさ、女の子みたいにラブでロマンスな気持ちになっても、それを表現しづらいじゃん。だから、女の子の目から見たら自分勝手やマイペースに見えるんだろうけれど、本当は優しくしたいとか思ってるんじゃないのか」

 

 皆が器用なわけじゃない、感情を表すのが不器用な男もいる。

 実は男の方が愛情と言う意味では強い気持ちを抱く事が多い。

 確かにそれは周りから見れば多少は荒く見えるかもしれないけれど。

 だから、一概に自分勝手だとか決め付けないで欲しいんだ。

 俺はきょとんとした様子の妹に微笑みながら、

 

「ロマンチスト、って男のための言葉だと思わない?」

 

「……そうかもしれませんね」

 

 俺の言葉にくすっと笑う妹。

 可愛いなぁ、やっぱり俺の天使は彼女だけさ。

 あはは、マイシスターらぶり~。

 

「お兄さんみたいな人もいますしね……好き好き言ってうざいと思われるタイプ」

 

「ぐはっ……!?」

 

 真面目な話をしているのに、この仕打ちは何でしょうか。

 それにしても麗奈も思春期と言う奴なのだろうか?

 自分からこうして恋愛についての価値観を話すようになるなんて。

 うぅ、お兄さんとしては心配なのですよ。

 ま、まさか、俺にこういう風に尋ねてくるということは。

 

「麗奈は誰か気になる相手とかいたりするのか?」

 

「……いえ、まったくいませんね。男に興味は抱いてません。そう言うのはまだ早いと私自身思ってますから。焦って恋をしても意味ないでしょう」

 

「俺なんてどう?年中、隣は空いてますよ?」

 

「心配せずともお兄さんを選ぶなら私は同性愛を選びます」

 

 今の俺の心境は雷に打たれて死にそうなぐらいに衝撃を受けていた。

 まさかの同性愛宣言、妹が“百合”の世界の住人になってしまうかもしれない。

 あ、ちなみに百合っていうのは女性同士の恋愛の意味ね。

 それがマジなら俺は……俺は断固として認められない。

 この世知辛い現実、そんなある意味ヤバい世界に突入させてなるものか。

 

「お兄ちゃんは世界で一番優しいぞ。俺と付き合えばきっと麗奈を幸せにしてみせる。さぁ、カモンっ。いつでも年中無休で24時間、受付中だぞ」

 

「嫌です。男なんて優しいフリして狼なんだって久遠さんが言ってました」

 

 ……ええいっ、俺の妹に悪影響を与える諸悪の根源はやはり久遠か。

 麗奈だけは汚れを知らない純情無垢な天使のままでいてくれ。

 

「ち、違いますよ。俺は狼じゃない。俺はそんなひどい奴なわけがないじゃないか」

 

「……そういうお兄さんは恋をしたことがあるんですか?」

 

「今、恋をしているのだよ。目の前の義妹に……い、痛いっ!?足を踏むのは禁止だ、地味に痛いから!しくしく、ホントのことなのに」

 

 冗談いうとつま先で踏んでくるから痛いのだ。

 ちょっと暴力的になり始めてきた思春期の義妹です。

 

「前に素直さんから聞いたんですけど、お兄さんって1年前に付き合っていた人がいたそうじゃないですか。素直さんは詳しくは教えてくれませんでしたけど、どういう相手だったんですか?聞いてみたいですね」

 

 その事を聞かれるのは非常に気まずいのだ。

 なぜなら、俺の元交際相手はあの最悪幼馴染の久遠なのだ。

 そりゃ、散々当時、猛反対してた素直が喋るはずがない。

 俺達の破局を最も喜んだのは素直だった。

 

『私だけのお兄ちゃんでいてね』

 

 あの時の素直は可愛かったが、あそこの姉妹はホントに仲が悪すぎるな。

 

「……まぁ、企業秘密ということで」

 

「どこの企業ですか。公開を求めます」

 

「えっと、教えたくないのにはそれなりに事情があるってことですよ。麗奈、いいだろう?俺にだって人に話せない事くらいあるよ」

 

 あまり過去の久遠との話はしたくない。

 なぜなら、思いだしても悲しくなるだけだ。

 あれは恋なんかじゃなかった、俺達は恋に恋をしていただけなのだから――。

 

「教えてくれないなら、由梨さんにでも聞きます」

 

「うぐっ。ちょい待って。このこと、由梨姉さんは知らないだってば」

 

「そうなんですか……?」

 

 その頃、すでに彼女は我が家で暮らしていたが、久遠との関係は知らないはずだ。

 俺の姉的存在である彼女に知られるのは非常に避けたい。

 

「……それなら、教えてください。他言無用としておきますから」

 

 かなり興味を持たせてしまったようだ。

 その瞳が俺を真っ直ぐに見つめてくる。

 出来ればその視線、別の機会にして欲しかった。

 

「こう言うことって、他人にどうこう言うべきじゃないだろう」

 

「私はただ知りたいだけです。教えてくれてもいいじゃないですか。どうせ、お兄さんの事だからどうして別れたのか想像もつきます。女の子にコスプレさせすぎて『私は着せ替え人形じゃないって』怒られてフラれたんでしょう」

 

「うぐっ。俺はそんな変態じゃない。人の気持ちをよく理解できる優しい男の子なんです。それにコスプレだって無理やりさせたりはしないから」

 

「到底、信じられませんね。お兄さんの部屋に女の子用のクローゼットがあると知った時、ドン引きしましたもん。初めは女装趣味のある危ない人だと本気で警戒してました。まさか着せるのが趣味なアレな人だと知った時も引きましたけど」

 

 ……俺の好感度ってホントに上がる要素がゼロなんですね。

 泣くのも疲れて、ちょっと自分の人生を振り返りたくなります。

 コスプレ好きな人ってそんなに世間で悪な存在なのですか?

 俺は冷や汗をかきながら麗奈にどんどんと追い詰められていく。

 

「教えてください。隠してもいいことなんてありませんよ。どんなに間抜けで情けない話でもいいですから。他人の恋の話を聞きたいんです」

 

「言っておくけど、話しても面白くないよ?」

 

「構いませんよ。大した話が聞けると期待なんてしてませんから」

 

 うぅ、そんなに顔を近づけられてもお兄さん困るよ。

 このままキスでもして、逃げるっていうのはどうだろう?

 

『やだっ、もうっ。お兄ちゃんってば積極すぎ』

 

 軽く触れた唇を押さえる妹、少し不満気に唇を尖らせて。

 

『そんな不意打ちしなくても、いつでも歓迎しているのに』

 

 ……いかん、妄想は最高だが、時と場合を考えねばならない。

 気がつけば俺はベッドサイドの端に追い込まれていた。

 話をしないと逃げられない。

 ていうか、麗奈もそんなに俺の恋に興味があるのか。

 

「分かったよ、麗奈が俺にキスをしてくれたら話してやろう」

 

「……命の保証はしませんけど?」

 

「すみません、冗談です。分かったよ、話せばいいんだろう……はぁ」

 

 妹の問い詰めに根負けした俺は自分の過去を語り始めることにした。

 あれは1年前のまだ暑い初夏の日々の記憶、俺と久遠は幼馴染のラインを越えた――。

 

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